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わかる、障害基礎年金制度

菊池江美子

制度のあらまし

 日本の障害者にとって、障害年金は所得保障の柱であると言えます。しかし、障害年金制度の構造上の問題(申請主義をとっている、受給要件に保険原理を導入、実態に合わない障害認定基準など)から、必要としている障害者に普(あまね)く活用されるものとなっていないのも現実です(受給率は全障害者の3割程度)。今回は受給を可能としていくことを目標に、障害年金制度の概略とポイントを紙面の範囲で確認していきたいと思います。

 障害年金の役割は、病気や障害で経済的な自立が困難なときに、世帯や本人の資産・所得に関係なく(但し、無拠出制のみ本人の所得制限あり)障害の程度に応じて(重い順に1~3級、障害基礎年金は1・2級のみ)所得を補足することです(図1)。

図1 障害年金制度のしくみ

図1 障害年金制度のしくみ

  • 障害厚生年金1・2級は障害基礎年金(定額)に上乗せになります(3級はこの分のみ)。上乗せ分は、在職中の平均給与額や在職期間(報酬比例)によって金額が決まります。1級はこれの25%増で上乗せされます。
  • 1・2級は、受給するときに子ども(18歳到達年度の末日までの子、または20歳未満で1級または2級の障害の状態にある子)がいる場合に子の加算が付きます。2人目まで1人月額19,108円、3人目から1人月額6,366円加算されます。
  • 障害厚生年金1・2級は、受給するときにその受給権者によって生計を維持されている65歳未満の配偶者がいる場合は配偶者加給年金(月額19,108円)も付きます。

 また、精神障害や内部障害や難病など、障害の状態が可変的なものについては定期的に認定が行われ(1~5年ごとに現況届時に)、等級の変化や停止が決められます。停止しても悪化した場合、65歳までなら再び手続き(支給停止事由消滅届)が可能です。必要な間は受給し続けられるという性格も持っていると考えることができます。

受給するために押さえるべきポイント

 障害年金を受給するには、1.納付要件(初診日当時の年金法によって確認)と、2.障害状態要件(障害認定日に障害の状態が認定基準に該当するか。該当しなくても、以降いつ該当する状態になったか)を満たさなくてはなりません。

1.初診日について

 障害年金を請求するうえで、初診日の確認は納付要件や障害認定日などを確認するために不可欠です。請求時には医証としての初診日証明(受診状況等証明書)の提出が必須となっています。障害年金における初診日とは、障害の原因となった傷病で初めて医師の診察を受けた日(その傷病に関する専門医でなくてもよい)とされています。たとえば、交通事故等の事故による負傷が原因の障害は、事故に遭った後最初に医師の診察を受けた日(救急車で運ばれた日など)、糖尿病が原因の腎不全であれば、糖尿病で初めて医師の診察を受けた日、精神疾患の場合、幻聴や不眠・食欲不振などで精神科にかかる前に耳鼻科や内科を受診していれば、初めて受診した日が初診日として扱われます。
 障害年金の請求は、初診日に加入していた制度(国民年金なら障害基礎年金、厚生年金なら障害厚生年金)で行うこととなります(但し、初診日が昭和61年4月1日前の厚生年金については発病日が加入中にあることが必要)。
 初診日から何年も経てしまってからの請求の場合(精神障害や内部障害などに多い)、当時の医療機関が廃院になっていたり、カルテが破棄されていたりで初診日が確認できず、初診日証明が取れず無年金に…という事態が生じることがあります。この場合、あきらめずに初診日証明に代わる挙証書類(健康保険証の療養給付記録、診察券、外来受付簿、看護記録、会社の健康診断の記録、身障手帳交付時の診断書、交通事故証明、家計簿や医療費の領収書など)を窓口にあげていけるよう障害者本人へのサポートがとても重要と思われます(容認される場合があります)。

2.納付要件について

 社会保険制度のもとでは、一定の保険料の納付が給付を受ける条件となります。障害年金の場合もこの条件が求められます(昭和36年4月1日前に初診日がある場合と20歳前に初診日がある場合はこの条件は問われない)。納付要件は、初診日当時の各年金法によって確認されますが、法改正を幾度も繰り返しているので、大変複雑になってしまっています。加入すべき期間(一般には、強制加入になった20歳から初診日までの期間)において納付要件の確認を行います(表1)。

表1 納付要件のポイント

S61.4.1
旧法 新法(現行法)

初診日
┃┃┃┃┃┃┃┃┃┃┃┃┃┃┃┃┃┃┃
初診日
★初診日がS51.10.1前にある場合は納付要件をみる日は障害認定日となる。

・国民年金の場合は、複数の納付要件 のいずれか、 たとえば、初診日前に1年以上の納付済み期間(免除は含まず)があること。

・厚生年金の場合は6か月以上(とびとびでもよい)あること。

H6改正による救済→旧法で満たせなくても、新法の3分の2要件を満たせば障害基礎年金で請求できる。但し、遡及請求不可。現症からの請求可。
〈3分の2要件〉
・初診日の前々月までに加入すべき期間の2/3以上が保険料納付または、免除期間で満たされていること。

〈経過措置による直近1年要件〉
・初診日の前々月までの1年間に保険料納付または免除期間で満たされていること。但し、H18.3.31までに初診日があること。

※H3.5.1までに初診日があるときは、「初診日の前々月」を「初診日前の基準月(1月・4月・7月・10月)の前月と読み替える。

 表1で納付要件の確認の主なポイントを示しましたが、複雑さ(特に旧法、平成6年改正による救済)のためか、国民年金課や社会保険事務所でも確認が不正確に行われてしまい、要件を満たしているのに請求できない事態が少なからず生じているようです。最後に参考文献を挙げておきますので、正確に納付要件を確認し、障害者本人が障害年金を受けていく支援につながることを期待したいと思います。

3.障害認定日について

 障害認定日とは初診日から1年6か月(初診日が昭和49年7月31日までにあるときは3年)を経過した日または、それ以内の期間に症状が固定した日とされています。人工透析を受けている場合は、透析を始めてから3か月を経過した日、心臓ペースメーカーまたは人工弁を装着した場合は装着した日など、障害認定日には特例もあります。傷病が治らないまま経過した場合、障害認定日を症状が固定した日と見なし、この時点の障害の状態が障害認定基準に該当するかどうかで、障害年金の請求の仕方が違ってきます。

4.障害状態要件(障害評価)について

 障害状態を判断する認定基準は障害の種類ごとに政令によって定められています。障害状態の大まかな目安としては、1級は「他人の助けがなければ生活ができない状態」、2級は「他人の助けはいらないが日常生活がとても困難な状態」、3級は「著しい制限を受けながらもある程度働ける状態」とされていますが、評価のものさしは大変曖昧(あいまい)で、機能障害や身辺処理能力に偏ったものとなっています。また認定は、障害基礎年金については都道府県ごとに行われ、認定にばらつきが生じています。障害厚生年金は社会保険庁で一括して行われていますが、認定のプロセスが非公開で、障害基礎年金の認定よりも厳しい印象が歪めません。障害認定基準が障害者の生活の実態に合うものとなっていないことや認定のプロセスに当事者の声が反映されず、認定が恣意的に行われてしまう現状から、結果にはさまざまな障害分野から不満が絶えず生じているのが実情です。
 障害状態の評価は、医師による診断書(障害の種類ごとに7様式)を中心に、原則書類審査で行われています。現行の様式の診断書に障害者本人の実態が反映されるよう医師への働きかけや病歴・就労状況等申立書(障害の状態を本人・家族などの請求者側から申し立てるもの。ソーシャルワーカーなど本人の身近な援助者が作成してもよい)の作成、その他障害を抱えながらの生活状況が客観化される資料の添付など、障害状態の認定に本人の実態が最大限反映されるよう支援を行うことは大変重要であると思います。

5.請求のタイプと診断書の枚数・年金がもらえる時期について

1.本来請求:障害認定日に障害状態が該当する場合で、障害認定日から1年以内に請求するものです。診断書は障害認定日以降3か月以内のものを1枚提出します。年金は障害認定日の翌月から受けられます(図2)。

図2 本来請求
図2 本来請求

2.遡及請求:障害認定日に障害状態が該当する場合で、障害認定日から1年以上経ってから請求するものです。診断書は障害認定日以降3か月以内のものと、請求時(現症)のものとで2枚提出します。年金は請求時から5年前までさかのぼった分を含め受給できます(5年より前の分は時効となり支給されない)(図3)。

図3 遡及請求
図3 遡及請求

3.事後重症による請求:障害認定日に障害状態が該当しない場合でも、以降65歳(昭和36年4月1日前に初診日がある場合は70歳)までに該当する状態になったときに請求ができます。診断書は請求時(現症)のものを1枚提出します。年金は請求した翌月分から受けられます(図4)。

図4 事後重症による請求
図4 事後重症による請求

その他の留意点など

1.所得制限について

 1.初診日が昭和36年4月1日前にある、2.初診日が20歳前にある、3.昭和61年4月1日前に初診日があり、その当時の納付要件が満たせなくても現行法の3分の2要件を満たす(平成6年の法改正による救済)、以上の条件で障害基礎年金を受けている場合のみ、本人に所得制限があります。たとえば、14年度の基準では本人に扶養家族がいない場合、前年度の所得が462.1万円を超えると全額、360.4万円を超えると半額がその年の8月から翌年の7月まで支給停止になります。前年度の所得が基準を下回る状況になれば停止された分の年金の支給は再開されます。

2.改定請求について

 1.年金を受ける認定をもらって1年を経過している、2.現況届時の診断書で審査を受けてから1年経過している(但し等級が変わらなかった場合は1年以内でも可)、以上の場合、障害の状態に悪化などの変化があった時に、改定請求を行うことによって障害等級の変更と年金額の変更を請求することができます。

3.併合認定と「はじめて2級」

 前発の障害が3級等で、後発の障害とあわせてはじめて2級以上の等級に該当したときは、原則65歳になる前であれば請求が可能です。この場合、後発障害(基準障害)について納付要件が求められます。年金は請求した翌月から受けられます。

4.社会的治癒について

 初診日に納付要件を満たせないまま、その後医学的に傷病が治癒していなくても治療が必要のない状態が相当期間続いた場合(明確な基準はないが、社会保険庁は「傷病によるが、5年以上投薬治療もないこと」という見解を出している)、この期間は治癒したとみなし、その後悪化し再び受診した日を新たな初診日とする考え方があります。この場合、再発後の初診日でもって、受給要件を満たせば障害年金が認められることもあります。

不服申立制度について

 障害年金の請求を行った時の決定や現況届時の診断書による再認定の決定に不服がある場合は、不服の申立ができます。広く活用されている制度ではありませんが、障害が“軽い”と評価され、不支給や等級が下がったなどで、活用される場合が多いようです。不服申立制度のしくみは二審制でいずれも費用は無料です。

1.審査請求(第一審)

 不服申立を行うのは本人(請求人)ですが、本人からの委任を受け、家族や関係職員(病院のソーシャルワーカーや医師、社会復帰等の施設の職員など)が請求代理人となって行うことも可能です。請求代理人は複数立てることもできます。審査請求は決定の通知を受け取った日から60日以内に都道府県の社会保険審査官(単独制)に行います。審査請求書に不服とする理由を示し、主治医や担当職員(病院のソーシャルワーカー、施設等の職員)等による意見書や家族の陳述書などの証拠書類も提出し、請求の根拠を明確にすることが重要です。

2.再審査請求(第二審)

 社会保険審査官が行った決定に不服がある場合(この段階で容認されることは少ないようです)、その通知を受け取った日から60日以内に厚生労働省・社会保険審査会に再審査請求を行うことができます。再審査請求書にさらに付け加えたほうがよいと思われる証拠書類等を添付して提出し終えると、後日「公開審理」が開催されます。裁判官的な役割の社会保険審査委員と決定を下した保険者(国)と請求人・請求代理人、そして市民(被保険者、事業主などの)代表の参与が出席します。一般市民が審理を傍聴することもできます。参与が保険者や請求人側に質問を行うことで問題の焦点や論点が整理され、後半には請求人側の意見陳述も保障されます。「公開審理」を一人ひとりの障害の実情に応じた判断を求めていける機会ととらえることもできます。審理の結果を持って、後日決定が通知されますが、障害評価(不支給や等級への不服)を争うもので容認されたケースの経験がいくつかあります。今後も大いに活用していきたい制度であると思っています。

 障害年金受給を可能にするには、さまざまな障壁があります。年金法が施行されて以来、多くの無年金障害者を生み続けていることがそれを示していると思われます。障害を負うことになる過程(中途障害など)と納付要件は馴染みにくく、重い障害と同時に生涯無年金であることを背負わなければならない事態を多く生んでいます。初診日証明や障害認定日の診断書が取れないなど、本人の責任によらないことで無年金や不利益も生じています。やっとの思いで請求に漕ぎ着けても、障害評価において無年金や不利益が生じています。
 また、私たち援助者側にも課題はあります。障害者の所得保障を権利としてとらえ、障害年金受給が障害者の生活課題であると認識し支援していこうという意識は必ずしも高くないように思います。障害者の生活に向き合いながら生活の前提となる所得保障に関心を持ち、一人ひとりの障害年金受給の支援を通して見えてくる課題を援助者自身の課題としていくことが重要であると思います。
 昨年4月に障害認定基準が改正され、診断書の様式も変更されています。障害分野ごとにその影響が見え始めている頃ではないでしょうか(精神障害では不支給や再認定で等級が下がったり停止となるケースが増えてきています)。各分野や団体ごとでその影響を把握していく必要がある時期のように思います。把握したものを全体で照らし合わせ課題を明らかにしていく機会があることを希望したいと思います。

(きくちえみこ 地域生活支援センターそら)

【参考文献】

  • 全国精神障害者家族会連合会年金問題研究会編「精神障害者の障害年金の請求の仕方と解説」中央法規出版(注1)
  • 全国精神障害者家族会連合会「新版 精神障害者が使える福祉制度のてびき」
  • 障害年金の改正をすすめる会編「障害年金がよくわかる 受け方から制度改善の展望まで」
    注1は近々改訂版が出版される予定です。※前記2冊は、納付要件についての資料がとても充実しています。