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東京
「障害のある人の情報リテラシー」研究集会

山本善徳

 私たちが暮らす社会にはたくさんの情報があふれています。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、そして技術が発達した今では、パソコンや携帯電話などを使って必要な情報を手に入れることができるようになりました。これからの時代を生きるには、情報とうまくつきあっていくことがますます重要となってきます。しかし一方で、障害のある人や高齢の人の多くは、情報から取り残されたり、情報を手に入れることが困難だったり、情報をもとにコミュニケーションすることが苦手だったりします。このままでは情報格差によって不公平さがより増していくことになります。本当の意味での情報社会とは、だれもが情報にアクセスでき、その情報をつかって自分らしく生きることのできる社会ではないでしょうか。
 社会福祉法人わたぼうしの会では、こうした問題意識のもと、平成14年4月より社会福祉・医療事業団の助成を受けて、「障害者の情報リテラシーを高める研究事業」を実施しました。この研究事業では、障害のある人の情報環境をどのように整備すればよいのかを考える研究会の開催や、全国の福祉施設への情報支援環境に関するアンケート調査、訪問してのヒアリング調査、また北欧の先進的な取り組みを行う福祉施設や団体を視察する海外調査を実施し、それらの調査をもとに、いくつかのプログラム開発を行いました。
 この研究事業を広く共有するために、平成15年3月23日、富士ゼロックス株式会社の全面的な協力を得て、東京・赤坂ツインタワービルにて『「障害のある人の情報リテラシー」研究集会』を開催しました。研究集会当日には、障害のある人本人や福祉施設で働く人たち、教育関係者、メディア関係者など約150人が参加し、「生きる力を高める情報環境の整備」のテーマのもと、活発な議論が交わされました。
 基調講演では、全日本手をつなぐ育成会権利擁護委員長の野沢和弘さんが「障害のある人の情報保障」というテーマで、一人ひとりが人生の主人公であるための権利について話されました。野沢さんは毎日新聞社の記者でもあり、知的に障害のある人とともに、だれもがわかる新聞『ステージ』の編集に携わっておられます。『ステージ』では、「二重否定をしない」「接続詞・修飾語をあまり使わない」ということを心掛けており、このような表現方法への配慮は、知的に障害のある人のみならず、だれにとっても大切であるということを、市販されている新聞と見比べながら解説されました。意味を正確に伝えるということと、わかりやすく伝えるということがいかに難しいことであるかを実感しました。
 特別講演では、スウェーデン特別教育協会のアドバイザー、リリ=アン・サーベルストロームさんより、「スウェーデンにおける特別教育」というテーマで話していただきました。特別教育協会は、障害のある子どもや成人への特別教育(特殊教育)を行う教師や親に対して、支援技術の指導や情報提供を行っている国の機関です。支援者である教師や親が、障害のある人一人ひとりの障害の程度や能力を的確に見て取り、それぞれにあった教育やトレーニングをチームで行うことの大切さを語られました。またその具体例として、文字を読めない障害のある子どもがピクト(絵文字)を使ってスケジュール管理している様子などがビデオで紹介されました。
 午後からは、障害のある人の情報環境を整備していくうえでの、重要な二つの視点について報告がありました。一つ目は「メディア」の視点です。なかでもIT革命とも言われているWebの技術は、私たちの生活を画期的に変化させていますが、使える人と使えない人との情報格差を生んでいるのも事実です。株式会社ユーディットの主任研究員である濱田英雄さんは、だれもが使いやすいWebを増やしていくには、Webの製作者が利用する側のさまざまな問題点を強く認識すること、また一つのサイトが完璧にアクセシブルになるよりも、100のサイトが一歩前進することが大切であると述べられました。二つ目は「テクノロジー」の視点で、財団法人ニューメディア開発協会の山田栄子さんが、テクノロジーは生みだす人とそれを利用する人のほかに、その人たちをつなぐ人の存在が必要であると話されました。
 私たちが実施したプログラム開発「わかりやすい契約」「思いを言葉にするプログラム」の研究発表のあとは、「個の実現を支える情報支援のあり方を考える」と題してシンポジウムを行いました。五大エンボディ株式会社代表取締役の佐藤忠弘さん、毎日新聞社総合メディア事業局企画室の岩下恭士さん、社会就労センターたんぽぽの家施設長でこの研究事業の研究員である増子大介さんの3人をパネリストに迎え、自立生活問題研究所所長の谷口明広さんのコーディネートによってすすめられました。まず佐藤さんからは、情報支援機器を開発・提供する企業の立場として、日本とスウェーデンの取り組む側の意識や仕組みの違いについて、岩下さんからはアメリカでの情報バリアフリーの先駆的な事例が報告されました。増子さんからは、情報を操作してしまいがちな福祉施設のあり方に疑問が投げかけられ、利用者主体の多様な情報支援環境の整備、また施設のミッションを再確認することの必要性が述べられました。
 今回、「個の実現」をめざす支援費制度へ移行する時期に、こうした研究集会を開催し、障害のある人の情報支援環境について多くの人と課題を共有できたことは、非常に意味があったと思います。これから障害のある人が、自分の人生を自分でデザインしていくうえでも、さまざまな情報の中から、自分にあったサービスを選択することが必要となります。私たちは情報環境のさまざまなバリアをとりのぞき、生き方の選択肢の幅を広げていくこと、そのためにも多様な個性を認め合っていくことを意識し、その実現に向けて取り組んでいかなければなりません。それが、一人ひとりが人間として豊かに生きることができる社会をつくることにつながると思います。

(やまもとよしのり 財団法人たんぽぽの家)