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みんなのスポーツ

自然は平等、風をきって
一緒にセーリングを楽しもう

大塚勝

1 一緒にセーリング

 ブルーの空をバックに青い海を行く白いセール。ヨットから身を乗り出して波飛沫を浴びての帆走。冷たいビールを片手に優雅にセーリング。島や港をめぐる長期クルージング。遊びや楽しみに重点を置いたレクリエーション的なものやアメリカズカップ、オリンピック、パラリンピックなどを頂点とするヨット競技までセーリングの幅は多岐にわたります。また船の大きさも1人乗りの小さなものから15mを超えるものもあります。装備では帆走目的だけのものから幾日も船の上で生活できる豪華なものまで多種多様なものがあります。そのなかから、体力や環境、趣味や好みなど自分のライフスタイルに合わせて選ぶことができ、長年続けている人が多いのも特徴で、年齢的には小学生低学年のジュニアから70歳代の高齢者まで幅広い人々が楽んでいます。
 ヨットは基本的に自然を利用して走るため、ウインチやブロックなど非力な人力を補助する装置が設置されています。これを工夫利用すれば障害のハンディがずっと少なくなります。またクルーとしてセーリングの一環を担うパートが必ずあります。海の上では見張りや音を聞くこともクルーとしての大切な仕事なのです。遠慮せずにヨットに乗りましょう。まずは各地の体験会に参加してみてください。
 広い意味で遊びに使う船をヨットと総称しますが、ここでは帆走することをセーリング、帆走するための船をヨットと表します。

2 ヨットが走るには

 ヨットではセールが自動車のエンジンにあたり、セールに流れる風の揚力により進みます。飛行機は翼を流れる上下の風で揚力が生まれ飛びますが、ヨットのセールもこれと同じ要領です。セールも翼もその断面はよく似ています。
 ついでに、飛行機とヨットには共通点がたくさんあります。名称について言えば操縦席がコクピット、台所がギャレー、乗り組み員がクルーで船長がキャプテン。夜間の灯火ライトが左が赤で右が緑。ヨットでは左側をポートサイド(港に接岸する側)、右側をスターボードサイド(星を見て位置を出す側)と言いますが、飛行機の乗り降りもなぜかポートサイドです。飛行機に乗るとき奇麗なオネイサンに確かめてみてください。
 話が飛びましたが、ヨットにはセール以外にもう一つ大事なものがあります。船体水面下にある普段は見えないキールです。ヨットが進むのはセールの揚力によりますが、このとき横流れを防止し前進する力を助けるのがキールです。また大型艇では、このキールを鉄や鉛などで作りバラストとして利用して傾きを小さくしたり、起き上がりこぼしのように横倒しになっても起き上がることができます。セールの揚力とキールの作用でヨットは風上に向け進むことができます。

3 ヨットの種類

 自然の風を利用するヨットは、ディンギーとクルーザー二つのタイプに分けることができます。
 ディンギーはセーリングすることに重点を置いた1~2人乗りの小型ヨットで、帆走する装置以外の設備はなく、その分セールをコントロールする装置がたくさんあり、オリンピックを頂点としたヨットレースへの参加が主体となります。ヨットから身を乗り出して海面近くを帆走する爽快感、自然との一体感、ヨットを乗りこなす充実感など得ることができます。またレース参加で人より少しでも早く走るための練習や創意工夫などの結果が順位として出る楽しみもあります。小型ゆえに保管やコストの割安感にも魅力があります。
 クルーザーは、生活空間を持ち、バラストやエンジンを装備し、クルーも多く乗船できます。このような特徴を生かし長期のクルージングやレース、セーリング以外に釣りやキャビンを利用しての仲間との交流が楽しめます。問題は係留など維持管理が高いことです。

4 障害者セーリング

 自然はだれにでも平等です。海の上では障害に関係なく自己責任が大切で、海上衝突予防法や国際レース規則など基本的に健常者と同じルール規則で行われます。ヨットの上は動き回ることも少なく座っていることが多いため、健常者と障害者の差が少ないスポーツといえます。
 障害者のセーリングに使用するヨットは、ディンギーからクルーザーまでわが国に輸入されており、国産のクルーザーも開発されています。これらは座ったままで操縦ができ、人が移動しないで各種のコントロール操作ができる、主に下肢障害の方々を対象としたものが多いようです。切断の方やマヒ、視覚障害の方は、一般のヨットの中から自分の障害に合わせ改造することもできます。パラリンピックのヨットは、シングルクラス(1人用)の2.4mR型、クルーボートクラス(3人乗船)のSONAR型ともに障害者専用ではなく、一般用に販売されているものを使用しています。両型とも世界選手権が行われ障害者もこれに参加し、2.4mR型ではチャンピオンになった人もいます。
 障害者のヨットレースは、専用のヨットを使用した障害者だけのレースも行われていますが、東京湾や関西ヨットクラブ月例レースなど、一般のヨットレースに健常者をクルーにして参加し好成績を上げる方々も増えています。また障害者がヨット体験とレース体験が同時にできる大会もあります。ヨットの上では障害より経験が尊重されます。まずは各地で実施のセーリング体験会に行きましょう。

5 体験会にきませんか

 「雨が降ったらどうしましょう」ご安心ください、海の上ではあなたにだけ雨が降ることはありません。「車いすなんだけど」ご安心ください、ヨットには体を支える専用の椅子が準備されています。不安やら心配やらはヨットが海に出たとたん消し飛んでしまいます。
 車いすからヨットに乗り換えた2人の障害者(体験者)と2人のボランティアが乗り込んだ体験ヨットは、エンジンの音も軽快にマリーナを出港し、体験者が舵を持ってこれから約2時間のセーリングです。キャプテンは、この道ウン10年のベテラン、「舵を押してみよう」ヨットは簡単に向きを変えます。航路を出るとセールのアップです。すべての操作が手元でできるよう工夫されています。
 いよいよここから風の力だけのセーリングの始まりです。ぐっとヨットがヒールします。
「もう少しシートを引いて、舵を引いて」キャプテンから体験者に声が掛かります。風の感覚、波を切る音、自然との一体感を満喫するディズニーランド沖に到着。このころ当然のように喉が乾き冷たいビール。もうちょっと走ろうか…。そこには障害を超えたヨットの世界が広がります。

6 船長の免許

 クルーやゲストで乗るには免許はいりませんが、エンジン付きのヨットの操船(船長)には小型船舶操縦士免許が必要となります。近年、この小型船舶免許の欠格条項が改正されました。身体検査の判定基準が障害により一律に規制した身体障害基準から試験船に自力で乗降できること等々の能力基準に判定方法が変わり、障害者にも小型船舶操縦士免許の受験ができるようになりました。
 今、海の分野でも障害者に大きく門戸が開かれました。この機会に船舶免許を取得し、健常者に伍してレースにセーリングに自然とともに海を満喫してはいかがでしょうか。次は海の上でお会いしましょう。

(おおつかまさる ヨットエイドジャパン代表)

◆障害者のヨット体験会
九州、近畿、東海、関東ほか各地で毎月行っています。
◆障害者のヨット&レース体験
7月20日愛知県蒲郡港「ひと・人・ヒトヨットレース」
10月26日東京都夢の島マリーナ「フリーダムカップヨットレース」
◆パラリンピックへ向けたヨットレース
パラリンピックチャレンジヨットレース
7月21日愛知県蒲郡港。7月27日茨城県土浦市。
◆世界障害者セーリング選手権大会
9月3日~7日 ギリシャ、アテネ
【お問い合わせは】ヨットエイドジャパン
TEL 03―3690―8633まで