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障害者の人権条約を巡る国連第2回特別委員会参加報告

東俊裕

1.設置目的

 今年の6月16日から27日まで、ニューヨーク国連本部にて「障害者の権利及び尊厳の保護及び促進に関する包括的かつ総合的な国際条約」に関する第2回特別委員会が開催された。NGOの積極的な参加を求めた第1回特別委員会の決議を受けて、今回は、国際障害同盟(IDA)傘下団体はじめ多数のNGOが参加した。加盟国の発言が終わった後に時間がある場合という限定付きではあったが、10日間の会期中、NGOの発言も十分に認められた。また、政府代表団の一員としてNGOの参加を認めた国も、日本のほか十数か国にのぼった。なかでも、特別委員会の直前に開催されたESCAP専門家会議に参加していたタイのモンティアン氏(視覚障害)が、自らタイ政府を代表して幾度も意見を述べていたことがとても印象的であった。
 私自身も日本政府代表団の一員としてこの会議に参加したが、このレポートは私の個人的意見であることをお断りしておく。

 今回の特別委員会では、専門家のパネルディスカッションも開かれ、条約の内容(障害の定義等)についての議論もなされた。しかし、加盟国間の協議の場面では、今後の手順が問題となり、加盟国のこの条約に対する考え方や思惑を反映して、

  1. 作業部会のメンバーを専門家にするのか、加盟国の代表にするのか。
  2. 国連の5つの地域が指名する加盟国の代表枠を平等にするのか、加盟国の数や障害者人口を考慮すべきか。
  3. 作業部会がなすべきこととして、一定の方向性をもった文案を作成するのか、それとも、評価を入れず、選択肢が存在する場合には、複数の意見を取り込む形の論点整理的な文案を作成するのか。
  4. 作業部会が考慮すべき文書の対象範囲を時期的に、または提出団体に関して限定すべきか。
  5. 作業部会のメンバーとして、NGOの代表の参加を認めるべきか、認めるとして、その人数枠をどうするか、選任の指針をどうするか、助言者としての地位にとどめるべきか。
  6. 国内の人権機関からもメンバー選出を認めるべきか。
  7. 作業部会における特別委員会議長の地位。
  8. 会期や期間をどう設定するか。
  9. 財政的援助に関して、利用可能なファンドや援助対象の範囲。

 等の諸点を巡って、最後の最後まで議論が紛糾し、コンセンサスが成立するか否か危ぶまれたものの、最終日の定刻を過ぎた頃、やっと、条約案について討議する際、その討議の土台となる文案を準備し、提示するための作業部会を設置するという決定がなされた。
 決定のおもな内容は以下の通りである。

 作業部会は、特別委員会の加盟国等が今後条約案について討議する際、その討議の土台となる文案を準備し、提示すること。ただし、事前に提出されたすべての文書を考慮に入れ、二つ以上のアプローチがある場合、それぞれのアプローチを反映する選択肢を提示すること。

2.メンバー構成

(45日以内に議長団に報告され、メンバーが決定される)

加盟国枠:
各地域から指名された27名の政府代表者によって構成。
アジア7名、アフリカ7名、ラテン・アメリカ及びカリブ諸国5名、西ヨーロッパ及び米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド5名、東ヨーロッパ諸国3名。
NGO枠:
特に特別委員会に参加が認められている障害者組織など、非政府組織の中から12名の代表者(実際には、国際障害同盟IDAに参加する7つの国際組織の代表と5つの地域代表)。
この代表者は、障害とNGOの多様性を考慮し、また途上国やすべての地域の人々が代表されるよう配慮しながら、関連組織によって指名される。
国家人権委員会枠:1名

3.開催期日

 2004年初旬に10日間の予定で1回開催。

4.成果物の配布時期

 第3回特別委員会の開催期日より遅くとも3か月前に、できる限り多くの障害者にもアクセス可能なフォーマットで作成され、国連文書として配布される。

 今回の特別委員会の決定には、大きな歴史的意義があると思われる。会期の途中、議論が紛糾し、アナン国連事務総長が加盟国に向かって「CONVENTION?YES!」と呼びかける場面もあったが、表向きには条約の制定を否定する意見は最初から出ることはなく、むしろ、条約の大枠に多大な影響を与えると思われる今後の手順を巡っての議論がメインであった。
 むろん、作業部会はあくまで、特別委員会の検討材料を提供するものであって、それ自体が、条約の大枠や内容を決める組織ではなく、しかも、作業部会の作業において、条約の制定を否定する見解が選択肢の一つとして提供されることはあり得るであろうが、実質上条約制定に向けた大きな一歩を踏み出したと言えるのである。国連の障害者の機会均等化に関する基準規則の条約化に向けた動きが失敗したときの状況と比べると雲泥の差があるのである。
 また、従来の人権条約制定過程にどれだけNGOが参加していたのか、詳細について知るところではないが、特別委員会においても発言権が確保され、作業部会にも多くのNGO代表が平等な資格で参加できることなどの意義は極めて大きい。
 2004年夏頃、開催が予定されている第3回特別委員会は、いよいよ条約の内容が議論の俎上にのぼることになるであろう。条約の内容に関しては、これまで、おおよそ三つのモデルが紹介されている。反差別モデル(The non-discrimination model)、包括的モデル(The holistic model)、ハイブリッドモデル(The hybrid model, social development model)の三つのモデルである。反差別モデルは、差別禁止を中核とする自由権に力点を置くものであり、包括的モデルは従来、自由権、社会権と呼ばれてきた人権を包括するものである。最後のハイブリッドモデル(ないしは社会開発モデル)は、第3世代の人権と呼ばれる発展への権利(社会開発の権利とも呼ばれる、The right to development)に力点を置くタイプである。しかし、問題は、条約に何を織り込むかであって、次回からは、条約の中身について、本格的な議論が始まるであろう。

(ひがしとしひろ DPI日本会議常任理事、弁護士)