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傍聴団に参加して
~視覚障害者の立場から~

指田忠司

 日本盲人会連合(日盲連)では、一連の国際会議で示されたわが国に対する強い期待に応えるべく、窓口を整理し、国際交流を進めていくため、今年度から国際委員会を設置した。筆者は、この委員会の初めての事業として、今回の傍聴団に参加することになった。
 本稿では、会議を傍聴した感想とともに、参加していた関係者との交流の中で得た話題を紹介しながら、会議を振り返ってみたい。

権利条約と視覚障害関係団体の動き

 障害者権利条約については、昨年10月開催された「アジア太平洋ブラインド・サミット会議」でも議論され、同会議で採択された決議において、差別禁止の国内法の整備とともに、各国政府に働きかける重要課題の一つに挙げられており、日盲連の運動方針にも盛り込まれている。
 ブラインド・サミット会議決議の取り扱いについては、11月にシンガポールで開かれるWBU―AP(世界盲人連合アジア太平洋地域協議会)の中期総会で検討されることになっており、決議の具体化に向けた動きはまだみられない。11月の中期総会では、少なくとも各国の権利条約に向けた取り組みの一端が報告されるものと思われる。また、WBU(世界盲人連合)では、ノードストローム会長を先頭に、条約制定に向けて強力な運動を展開しているが、この動きについても9月にブルガリアで開かれる執行委員会で報告検討がなされるものと思われる。
 ということで、視覚障害関係団体の間では権利条約に関する議論はまだ緒に着いたばかりで、内容的にまだ煮詰まってはいない。ただ、ノードストローム氏がIDA(国際障害同盟)の議長として活躍し、タイ盲人協会のブンタン副会長が政府代表として積極的に発言していたりして、存在感が際だっていたこともあり、視覚障害関係団体が権利条約制定に熱心であるとの評価があるのも確かである。

WBU関係者の会合から

 今回の特別委員会には、各国から多数のNGO代表者が参加していたが、そのうち視覚障害者は10人以上いたと思われる。そうした参加者が23日夕、国連会議場の近くのレストランで会合をもった。この夕食会には、前述のノードストローム氏(スウェーデン)、ブンタン氏(タイ)のほか、昨年来日した前特別報告者のリンドクビスト氏(スウェーデン)、ジャマイカの労働・社会保障大臣のモリス氏、英国盲人協会のロウ議長、全米盲人連合のスナイダー博士とセメントキャラ氏(学生)などが顔をみせた。この会合は、主として親睦を深めるためのもので、特に作戦会議のような話題は出なかったが、さまざまな話題について各自隣の人と会話を楽しんだ。
 筆者の隣には偶然ジャマイカのモリス氏が座っていたので、しばしその話を聞くことにした。
 モリス氏は、1969年生まれの34歳。17歳で緑内障のため失明した後、自宅療養をしながら養鶏で生計を立てていた。その後22歳で首都キングストンの夜間大学に進み、それから西インド大学で学士号、修士号を取得。在学中、学生運動をしていたのが首相の目にとまり、1998年に上院議員に任命され、2001年から現職の大臣に任命されたという。ジャマイカには26万人の障害者がおり、うち視覚障害者が2万人いるという。ジャマイカには年金制度や職業訓練施設もあるが、そうした障害者施策を勧めるため、目下、障害者施策に関する基本法を制定するよう努力しているという。今回の特別委員会には、担当大臣として、代表団を率いて出席していた。
 もう一人、政府代表として会議でよく発言していたのがタイのブンタン氏である。同氏に直接聞いたところでは、政府代表に任命される際に、自分の判断で発言してよいかどうか尋ねたところ、責任のもてる範囲でなら自由に発言してよいとの回答があったという。ブンタン氏の場合、盲人協会というNGOに所属しているが、そのブンタン氏が政府の役人(部長)を率いて会議で発言している姿には筆者も感嘆させられた。
 こうした視覚障害者の積極的な参加がみられた一方、今回は、米国の視覚障害者団体からの参加が少なかった。スナイダー博士によれば、米国政府の権利条約に対する消極姿勢が影響しているようだ。各団体とも、政府資金を得て委託プログラムを運営しているが、それが政府と異なる思い切った姿勢をとれない遠因になっているのではないかという。

アクセシビリティの保障に配慮を

 筆者はNGOの集まりに毎日参加したが、そのたびに新たな提案文書が配られていた。もちろん墨字だけである。視覚障害者はこれをだれかに読んでもらいながら議論に加わるわけだが、議論が白熱すると発言者も名前を名乗らなくなり、会議の流れについていくのが一苦労だった。今回の決議では、委員会の関連文書をアクセシブルな形で提供するようにとの一項が取り入れられたが、これが早急に実現するとともに、この考え方がNGOの会議でも実践できるように、今後さらに工夫を続けていく必要があると思う。

(さしだちゅうじ 日本盲人会連合)