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東京
2003 Pilot シンポジウム
〈ブレーンマインダーズ〉
一生をかけて脳を守ろう

脳外傷とその後遺症に悩む方々の支援のために

黒岩ななゑ

 6月21日、東京都四谷区民ホールで行われたシンポジウム『ブレーンマインダーズ〈一生をかけて脳を守ろう〉脳外傷とその後遺症に悩む方々の支援のために』は、MOMO東京パイロットクラブの主催。日本脳外傷友の会、桜東京パイロットクラブ、きみさらずパイロットクラブの協賛。後援は厚生労働省、日本障害者協議会、NPO法人PIJD基金です。
 初めに厚生労働省で高次脳機能障害支援モデル事業を担当する藤井紀男氏から「ようやく高次脳機能障害という障害名が世の中に知られつつあり、実際に取り組んでいる自治体や施設のサービス状態を集約し、平成15年度末に報告書にまとめ情報提供していく」と活動の現状が披露されました。
 続いて東京都立保健科学大学助教授・渡邉修先生による基調講演は『脳損傷に起因する社会心理的問題とその対応』。当事者が最初に向かい合うのが生死の問題で、次に知能、記憶、注意・集中力、言語遂行機能などの高次脳機能障害という領域に入り、症状的には自発性の低下、抑うつ、脱抑制など身体的な問題に及び、また自分に起きた環境の変化を受け入れられないために、一種の自己防衛反応としてのイライラや、また自分の障害に対する自覚が希薄になるなどの症状も起き、これらを的確にトータルに評価することで見えてくる本人と家族のギャップを、治療やリハビリ、対処療法などで埋めることが必要になるだろうというガイダンスがありました。また患者、医療者、福祉関係者の密接なコミュニケーション、行動療法、カウンセリング、リハビリテーションなどを包括的に取り入れることが重要で、神奈川リハビリテーション病院で行っている、社会復帰をめざしグループで社会的スキルを学んでいく通院プログラムも紹介されました。
 パネルディスカッション『当事者が語る多様な障害、脳損傷・高次脳機能障害とその支援』の司会は、日本脳外傷友の会の東川悦子会長です。1997年に名古屋に脳外傷友の会・みずほと神奈川に脳外傷友の会・ナナが、99年には札幌に脳外傷友の会・コロポックルが設立され、2000年にはこの3団体で渡米し、TBI(Traumatic Brain Injury)に対するさまざまな取り組みを視察。それをきっかけとして、日本国内でネットワーク化し、脳外傷友の会として情報収集・情報発信を行い、また相互に連繋し行政交渉に当たるようになりました。
 タイミングよくNHKで脳外傷の番組が放映されたこともあり、厚生科学研究班の実態調査に協力。多くの書籍が出版され始め、厚生労働省のモデル事業が展開され、イタリアで行われた国際脳損傷協会の世界大会に出席するなど、積極的な脳外傷友の会の活動が報告されました。
 パネルディスカッションには当事者3人のほか、脳外傷受傷者の生活改善をテーマにしたサークルエコー代表の田辺和子さん、神奈川リハビリテーション病院ソーシャルワーカーの生方克之さん、精神障害者施設で就労相談をしている藤田邦威さんが出席。
 スノーボードで転倒し、視覚と記憶、マヒによる歩行困難の三つの障害をもつ佐藤正純さんは、それまで脳外科医として人の命を助ける仕事をしていたものの、障害を負った患者さんのその後の人生を見届けていなかったことに深く傷ついたこと。また現在は非常勤講師をしているが、6年間の職業リハビリについては、全部自分で考え自分で見出し、家族に探してもらったと話されました。
 車の助手席に乗っていて18歳で事故に遭った岡田博子さんは、意識不明3か月、両足の大腿骨骨折を経て、通院リハビリと半年の入院。その後、発作を起こし、その後遺症もあって、現在も通院が必要といいます。職業訓練校で資格も取得し就職しましたが、新しく赴任して来た課長さんの理解のない対応により退職したと語ってくれました。
 交通事故により障害を負った三田雅さんは、障害者枠で研究補助の仕事を9年間勤めましたが、限界を感じて1年休職した後、退職。今は自分にあった仕事に就こうと活動中であることを話されました。
 サークルエコーの田辺さんは息子さんが大学4年生時に発症し、高次脳機能障害者になって以来、家族全員が生活を変えることになった。経済的問題も含め、大きな問題を抱える家族が多いことを指摘されました。
 ここで、障害者手帳や年金などについて神奈川リハビリテーション病院のソーシャルワーカー生方さんからガイダンス。さまざまな制度があり基準があるが、概して情報が不足している感は否めないということで、司会の東川会長からも「的確に答えてくれる情報機関が非常に重要」とアピールがありました。田辺さんも手帳や年金ばかりでなく回復に役立つような情報は、本もリハビリも病院についてもまったくなく、手探り状態だったと話されました。
 藤田さんは作業所やリハビリテーションの施設など、障害者の基盤になる施設の充実と専門家の養成が強化されるべきだと語り、また現実問題、障害が異なっても施設の相互利用も大切ではないかと提案がありました。
 会場にいる当事者の方から質問を受けたのですが、手帳と年金に関する質問が集中し、個別の状況説明と、知っている範囲での回答とアドバイスが飛び交いました。一人ひとりの切実な声を聞くと、個人の病状に見合った的確な情報提供と、詳細なガイダンスの必要性が浮き彫りにされるようでした。
 高次脳機能障害は、医療の高度化によって出てきた新しい課題を含んでいます。身体障害や精神障害、知的障害に比べて試行錯誤の段階で、社会的な認知も一般的な知識もまだまだ少ない状況です。東川会長は後遺症者・児が社会に正しく理解され、障害認定やサービス、就労や生活の援助、介護などを受けやすくしなければならない。救命救急からリハビリテーション、在宅・社会参加への支援を継続し、情報発信基地として拠点病院の設置及び充実、長期のリハビリテーション過程で臨床心理士の診療報酬制度を改善し、小規模作業所、授産施設などの充実と相互利用を拡大し、必要なサービスを受けられる福祉制度の見直しなどを訴え続けると締めくくられました。

(くろいわななゑ フリーライター)