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新潟
「第3回にいがた自立生活研究会
シンポジウム」の開催

遁所直樹

 にいがた自立生活研究会が主催するパネルディスカッションおよびシンポジウムが2003年5月24日(土)、新潟県立女子短期大学で開かれました。「障害学は何を主張するのか?」というテーマで立命館大学助教授・立岩真也さんを迎え、新潟市議会議員青木学さん、障害者福祉センター勤務見田幸乃さんと新潟青陵大学の樋澤吉彦さん、コーディネーターとして法政大学の圓山里子さんが出席しました。今回は、パネルディスカッションとシンポジウムの間にチェンバロによる演奏も取り入れ、とかく単調な講演会の催しに素敵な時間を加えることができました。特に、演奏者の水澤詩子さん、新潟大学工学部の林研究室の試みで聴覚障害の方も楽しめる演奏会を計画し、パワーポイントを駆使した映像による効果も加わりました。
 にいがた自立生活研究会は2002年5月18日に設立され、代表に新潟県立女子短期大学島崎敬子さんが就任し、新潟県内の学識経験者・当事者・現場職員・企業などからなる研究会です。過去に、「支援機器は自立生活を変える!?」「施設から地域へは可能か?」をテーマの、当事者主体の公開シンポジウム、毎月勉強会を開くなど地道な活動を続けてきました。
 このたび、1年間の活動を振り返り、障害学という新しい学問を新潟の活動から見てみようと、「新潟県人会つながり」で、出不精の立岩さんをはるばる遠くから呼ぶことにした次第です。当日は新潟県立女子短期大学社会福祉学科の学生も含めて、約120人の参加でした。
 障害学とは、障害を視点として確立する学問、思想、知の運動です。障害学では、社会が障害者に対して設けている障壁や、これまで否定的に受け止められがちだった障害にも肯定的な経験もあることに注目し、文化としての障害、コミュニティとしての障害、障害者が持つ独自の価値・文化を研究します。「日本で、障害学なら石川さんや長瀬さんなのに、なんで私が呼ばれるの?」と立岩さんが嘆くところから始まりました1)
 そもそも、立岩さんは、故高橋修さん(長岡市出身)が代表を務めていた自立生活センター立川と縁があり、自立生活センターの成り立ちや障害当事者の運動そしてその考えを聞き取り調査しながら、その足跡を記録に残してきた経過があります。それをまとめた『生の技法』2)に目をとめた長瀬さんと出会い、『障害学への招待』1)の執筆にかかわった経緯などを話されました。
 青木さんからは、目が見えなくなってから健常者に負けないようにとの思いで勉強してきたが、アメリカの大学院で勉強したときに、障害からくる不利益についてはほとんど解消された現実を目の当たりにし(ノートテーカーの確保など)、いわゆる頑張りすぎないことを再確認したこと、また差別については、障害という言葉からくるその背景にはすごくマイナスのイメージがあること、青木さん自身も失明するまで、視覚障害という言葉に良いイメージを抱いていなかったが、その立場になってみると、そのイメージは社会が作り出してきたということを再確認したという提言を行いました。
 見田さんからは、見田さん自身はかわいそうだと思っていなかったのに、周りから大変だねと言われているうちに障害を認識してしまうことの不快さを訴え、障害をもった当事者の努力よりも先に社会の受け入れが必要ではないかと提案されました。
 樋澤さんからは精神障害者への支援の立場から、自らソーシャルワーカーとしての経験と立岩さんの論文から感じたことを話され、自己決定とパターナリズム(いわゆる保護者主義)の関係から、受け入れられる自己決定とアプローチしていかなければならない自己決定があることの気付きを発表されました。
 実際、私も青木さんを前にして視覚障害の差別用語を使ってしまったとき、彼が笑いながら「私たちはもう理屈では分かっていても、生活のうえで刷り込まれてきているんだ」と言ってくれました。私たちの役目としては、障害学を通じて私たちの次の世代に正しい知識を伝えていかなければならないということを感じたのです。
 見田さんは養護学校を卒業してから福祉住環境コーディネーター2級の資格を取得し、働きながら大学の通信教育を受けて社会福祉士の資格取得をめざしています。がんばっている障害者などとよく言われるそうですが、彼女は当たり前のことをしているにすぎないというに違いありません。樋澤さんの言う自己決定を彼女はしているのであって、数ある選択肢の中から彼女は学ぶという道を選んだのです。特別な存在ではないのです!
 樋澤さんのお話から感じたことは、精神障害や知的障害の人たちとのかかわりが私たち身体障害をもつものは薄かったのではないかと思います。立岩さんから当事者のエンパワーメントまたピープルファーストの新しい動きを紹介していただき、新潟でもピープルファーストの設立を支援できるような横の連携を深めていきたいと思います。
 全体を通して感じたことは、障害の概念を社会モデルを基本にしている現在、障害をもったものが活動し、参加していくために、社会の理解が深まれば障害からくる障害がどんどんと小さくなっていくということ(インペアメント)。でも、まだこの社会は優しくないとすれば、福祉に興味を持つ人々を増やしていくことが必要になってきます。興味を持たせるために、ユニバーサルデザインやバリアフリー、IT機器の開発などにより、福祉は経済効果を生むなどという仕掛けが必要になりますが、ともすれば、福祉に興味を持つ人々は、良い人たちの集まりと誤解されやすいのです。福祉ってそんなんじゃないよみたいな!どんな人でも福祉にかかわるようになるためにも、障害学が必要であることを感じました。

(とんどころなおき 特定非営利活動法人自立生活センター新潟理事)

【参考文献】
1)『障害学への招待:社会、文化、ディスアビリティ』明石書店、1999
2)『生の技法:家を出て暮らす障害者の社会学』藤原書店、1995年増補改訂版

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2003年8月号(第23巻 通巻265号)