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ほんの森

満点人物伝
ちびまる子ちゃんのヘレン・ケラー

評者 松井亮輔

 障害者福祉の向上と世界平和実現をめざして全身全霊を傾けて取り組む「奇蹟の聖女」、「(見えない、聴こえない、話せないという)三重苦の聖母」として、また1937年、48年、54年の3回にわたり来日し、全国を巡回して多くの市民に直接語りかけたことなどから、かつてはわが国でもヘレン・ケラーはきわめて著名であったと思われる。しかし、現代の若い世代に限って言えば、その名前はともかく、彼女のひととなりを多少とも知っている人は、ごくわずかではないだろうか。
 本書は、彼女についてほとんどなじみのない人々、とくに小学生を対象に漫画として描かれたものである。しかし、その構成は、漫画だけでなく、多くの貴重な写真やふんだんな解説、さらに詳細な情報を知りたい人のための関連ホームページの案内などからなり、ヘレン・ケラーについてある程度の知識を持っている人にとっても、教えられるところが少なくないと思われる。
 本書はヘレン・ケラーおよび彼女と深くかかわった人たち(サリバンおよび岩橋武夫など)の生と死の物語ともいうべきものである。わたし自身本書を読んで、強く印象に残ったエピソードは、「最初は家庭教師として、そして後には共働者として50年近くにわたって歩みをともにすることで、彼女の生涯に決定的な影響を与えたアン・マンスフィールド・サリバンと出会うきっかけをつくったのは、電話の発明でよく知られるグラハム・ベルであったこと」「日本ライトハウス創設者岩橋武夫との縁(岩橋との出会いがなければ、彼女の来日はおそらく実現しなかったと思われること)で、彼女が1937年4月から8月にかけて初めて来日した際、その間39都市で97回もの講演をするという、まさに殺人的な過密スケジュールを自らの意思でこなしたこと、その滞在中に日中戦争が勃発し、日米関係が一段と悪化したため日程を繰り上げて帰国せざるを得なかったこと」および「戦後2度目の来日(1948年8月から10月)が、1949年12月の身体障害者福祉法制定に大きく寄与したこと(この来日を記念して9月が障害者雇用促進月間と定められたこと)」などである。
 本書でヘレン・ケラーを偶像化することなく、生身の人間として、しかも感動的に描きえたのは、監修役として本書の企画・作成に参画され、かつ本文でも登場される大阪市職業リハビリテーションセンター所長関宏之氏のご助言によるところが大きいと思われる。ぜひ一読をお勧めしたい。

(まついりょうすけ 法政大学現代福祉学部)