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バリアフリー社会の死角
―なぜ羽田の動く歩道は、左側に立てと限定してしまうのか―

齊場三十四

 羽田ビッグバードの移動に動く歩道、エスカレーターは不可欠である。完成したばかりの頃、のんびりと動く歩道移動を楽しんだ。しかし、数か月後、不幸が始まったのである。スタスタと歩ける社会的強者ともいえる人たちの急ぎのために『急ぐ人に右側を開けろ、ともかく左側に立て』との指示が…。私は左手すりでは不安定になるのだ。動く歩道が『早歩きマシン』化、強者優先の設備に変化、私に刃向かってきた。今では、強迫的に歩かないといけない場所になっている。あれ程せかせかと私を追い抜いていった人が同じ飛行機に乗る経験を何度もしている。いつの間にかだれかが思いついた強者の意見のみを取り入れたことで、動く歩道、エスカレーターは『早歩きマシン』になってしまったのである。このことにより、立ち止まって利用する杖障害者や高齢者、大きな荷物を持った人が、早歩きする人に気を使わねばならないのである。
 この動く歩道の右側開けろのメッセージは、その後の移動補助支援機器の通行方法に大きな影響を与え、関東では右側を開けることが当然となり、エスカレーターにも波及している(関西は右側に立つことが原則であるが、強迫的な状況ではない)。羽田のような大きな建物内移動には、動く歩道やエスカレーターを使わなければならない人たちが高齢社会で増加している。その人たちの中に、左側の手すりにつかまれる人ばかりでないことを理解しておいてほしいものだ。私のように利き手の関係で、右側の手すりをつかまないと不安定になる者とか、左半身マヒ・左手腕の切断者や高齢者の方も一緒にこの社会の中で生活しているである。『そこのけそこのけ強い者が通る』を優先したのは、ノーマリゼーションや共に生きる社会とはかけ離れた理念であることに気づいてほしいものだ。
 羽田の管理者側は、そのことをきちんと理解し『障害者や高齢な方、幼児、乳児連れの方などが利用されています。お急ぎの方は注意してご利用ください』とか『動く歩道上は歩かないでください』とすべきではなかっただろうか? 社会全体が優しくなるべきアナウンスをすべきだったのに、その点が見逃されたために弱い立場の人が困る早歩きマシン化を全国的に広げていく原因となっている。障害・高齢者らがのんびりと利用できる『本来機能』に戻すことは、今としては不可能であろう。何かさみしい気がしてならない。

(さいばみとし 佐賀大学医学部地域医療科学教育センター)