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ユニバーサルデザインの広場

ユニバーサルサービスってなんだろう?

井上滋樹

公平な情報とサービスの提供が目的

 街で障害者が困っている時、的確なサポートができる人はどれくらいいるでしょうか。買い物の時に、十分なサービスを提供できる店員さんはどのくらいいるでしょうか。残念ながら、障害者と接する際にきちんとした知識と意識をもった人は日本では多くはないようです。
 車いすの利用者をどうサポートしたらいいのか、聴覚障害者にはどう伝えればいいのか、盲導犬にはどう接したらいいのか、最低限のことができていないケースがあまりにも多いです。なかには、接し方がわからずに障害者を無視してしまったといったケースもあります。日本は障害者への対応ができていない社会であると言わざるをえません。
 昨今、日本でも多くの自治体や企業で、ユニバーサルデザインに関する取り組みがさかんに行われてきていますが、見落とされがちなのがユニバーサルデザインの概念におけるソフトの領域、人の対応やコミュニケーションでカバーできる側面ではないでしょうか。
 私どもは、子どもから高齢者、病を患っている方や、身体にハンディをもっている方まで、あらゆる方の立場にたって公平な情報とサービスを提供することを「ユニバーサルサービス」と呼ぶことにしました。
 ユニバーサルサービスは、自治体の窓口、金融機関の窓口、企業博物館、企業ショールーム、デパート、スーパー、CVS、商店街、市場、レストラン、切符売り場、等のあらゆる接客シーンで有効なサービスです。物理的なハード面、たとえばエレベーターを設置する、といった工事には、多くの時間とお金がかかりますが、「ユニバーサルサービス」は、提供する側の知識と意識によってすぐにでもはじめることができるサービスです。
 外見は元気のいい高齢者でも握力や指先の力が弱くなり、レジで小銭が扱いにくくなったり、視力の衰えで商品の表示が読みにくいかもしれません。そんな時、動作が遅いからといってレジで冷たい視線を投げかけるのではなく、ゆとりをもって対応する。温かく接するが老人扱いはしないといった対応が必要です。目や耳、足、腰など身体の機能が低下する傾向にある高齢者が人口の大きなボリュームゾーンを占めていく高齢社会では、こんなさりげない思いやりがますます大切になってきています。今までそういった教育が施されてこなかったことが自体おかしいのです。
 そういう意味において、ユニバーサルサービスは顧客満足を高めることでマーケティングを変えますが、それ以上のものです。
 お店の店員さんも、タクシーの運転手さんも、おまわりさんも、どのように高齢者や障害のある方々とコミュニケーションするか、きちんと学んでいれば、だれもが暮らしやすい社会になるでしょう。
 これから加速する高齢社会においては、接客に限らず、あらゆる人とあらゆる局面でコミュニケーションを円滑にできることが常識として要求されるようになりますし、そのための教育も大切になっています。ユニバーサルサービスのインフラを社会全体で創っていく必要があるでしょう。
 自治体や企業にとっても、あらゆる人に対して配慮されたサービスの提供は、「市場の評価」に加えて「社会的な評価」をもたらすでしょう。企業の社会貢献やメセナという言葉が聞かれなくなって久しいですが、ユニバーサルサービスは自治体や企業にとって、組織のイメージを向上させるかっこうのテーマにもなるのではないでしょうか。

地域全体でユニバーサルサービスの推進を

 博報堂生活総合研究所では、そんなユニバーサルサービスの考え方を広めていくため、ボランタリィーな活動として “ユニバーサルサービスマーク”を制作しました。年齢や障害の有無にかかわらず、だれでも気持ち良く外出や買い物を楽しんでいけるように、いろんなお店でこのマークが目につくようになってくればよいと期待しています。
 将来的には、近隣のお店や商店街、お店の地域の行政、NPOなど、さまざまな機関や人々の協力により、地域全体でユニバーサルサービスの推進(=ユニバーサルサービスタウン構想)づくりをすすめていけるとイイナと、考えています。
 ユニバーサルサービスを実践し、高齢者や障害者の視点で世の中を見つめなおすと、本当に必要なことや、私たちがめざすべき豊かな社会がきっと見えてくるはずです。

ユニバーサルサービスマーク
画像 ユニバーサルサービスマーク

(いのうえしげき 博報堂生活総合研究所客員研究員/UDNJ事務局長)

◆マークに関しての詳しい情報は、以下のホームページをご参照ください。
 http://www.athill.com/LAB/universal.html

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2003年10月号(第23巻 通巻267号)