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大阪
福祉が変わる!!
好きな街に住みたいねん

酒井比呂志

はじめに

 2001年、全国グループホームスタッフ・ネットワーク(以下、全国GHネット)は朝日新聞厚生文化事業団の後援を受け、東日本(2000年)、東海(1998年)、近畿(1997年)、西日本(2001年)の4つのグループホームスタッフ研修会が全国的な広がりとつながりを持つことで、グループホームをよりよいものにすることを目的に設立されました。障害の種別に関係なく、グループホーム、生活ホームなどに勤務する世話人、または関係職員を中心に構成され、現在の会員は約600人です。
 これまで各地区の研修会では、世話人としての専門性の向上を目的に、研修・研鑽を積み、情報交換に努めてきましたが、今回、全国GHネットとしてグループホームが地域に根ざし、よりよい地域生活をつくっていくための啓発として公開講座を開催しました。
 去る10月11日(土)、クレオ大阪西で開催されたシンポジウム「福祉が変わる!! 好きな街に住みたいねん」には全国から約200人が集まり、熱気あふれる公開シンポジウムとなりました。その概要を紹介いたします。

だれもが「好きな街に住みたいねん」

 はじめに当事者の声を聞くということで、それぞれのシンポジストからご自身の体験を話していただきました。コーディネーターは大熊由紀子氏(大阪大学大学院人間科学研究科教授)、シンポジストは松本隆幸氏(大阪「みんなの会」会長)、山本深雪氏(NPO法人大阪精神医療人権センター事務局長)、玉木幸則氏(メインストリーム協会副代表)、尾上浩二氏(日本DPI事務局次長)の4人です。
 今回のシンポジウムの特徴は、実は大熊さん以外、シンポジストの4人はそれぞれ施設入所体験や入院体験をもっていて、現在、地域生活を支援する職業についている障害当事者であることです。そこでまず、それぞれの原体験とも言える入所、入院体験談を話していただきました。
 コーディネーターの大熊さんは、シンポジストが話されたような入所施設や雑居部屋は世界的には無くなっていく方向に向かっている。しかし、日本では、障害者が「好きな街に住みたいねん」と言うのは、施設入所者や精神障害の社会的入院者にとっての「叫び」のようなものと捉えられると話されました。
 現在、全国GHネットでは『障害者のグループホームスタッフ・ハンドブック きほんのき』を作成しています。この日も「当事者の声を聞く」ということと関連して、このハンドブックの紹介を行いました。
 続いて、シンポジストが順番に自分たちが今行っている活動の報告を行い、休憩をはさんで後半は、会場からの質問に答えるという形で進行しました。あらかじめ、配られた質問用紙の回収は70件を超え、とても全部に答えられるものではありませんでした。この数をみても「好きな街に住みたいねん」という思いの強さが表れています。
 松本さんの「支援費制度になっても地域で住めない」という発言を受けて、尾上さんや玉木さんからは現在の支援費制度の問題点、地域福祉を推進すると言いながら、一方で入所施設が増え続けている現実が報告されました。
 山本さんは、ご自身の体験から、精神障害者の地域での拠点やグループホームを計画すれば、反対運動が起こるという地域の問題を報告されました。また山本さんは、現在のNPO法人人権センターでの病院訪問の話や、ピアサポートの活動の様子を紹介され、精神障害者の社会的入院の解消に向けての取り組みを話されました。
 玉木さんは入所施設にいる障害をもつ人を地域での自立生活にどのように結びつけていくのか、その過程で自立生活センターなどが実施している自立生活体験プログラムの大切さを説かれました。
 尾上さんはご自身が所長を務める「自立生活センター・ナビ」の具体的な自立生活体験プログラムを紹介されました。その中で、印象に残った話は、「プログラムに合わせるのではなく、障害者のニーズに合わせてプログラムを組む」という一見、当たり前のことでした。福祉に携わるものとして、ハッとするお話でした。主体はあくまでも障害当事者であることを忘れてはならないというお話でした。
 また長年施設や病院にいると、山本さんの言葉を借りれば「浦島太郎状態」になるので、プログラムはできるだけ具体的に組むことが大切で、自立生活体験室とウィークリーマンションを組み合わせて段階的に利用しているという話や、病院の閉鎖病棟に退院促進事業で支援員が付いて社会体験をするという事例は、特に興味深く聞きました。
 尾上さん、山本さんからは、施設から地域に出て自立生活を始める時に必要になるのが賃貸物件を借りるときの「保証人」、この保証人のなり手がいないことが多く、法的制度の整備(公的保証人制度)が急がれると提言されました。この問題は、知的障害者やホームレスの人にも共通の課題で、国も検討中であることが報告されました。
 松本さんは支援者への要望として「目を見て話をきいてほしい。できないことを一緒に考えてほしい」「グループホームの世話人を選ばせてほしい」などをあげました。
 山本さんは、障害種別を超えて今回のような催しを企画していくネットワーク構築の必要性を強調されました。
 最後に大熊さんが、「好きな街に住みたいねん」が現実に実践を積み重ねて、それを臨床化して記録し、ネットワークを構築していけば、これは希望ではなく、現実のものになるのではないかと締めくくられてシンポジウムを終了しました。

(さかいひろし 全国グループホームスタッフ・ネットワーク代表)