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ワールドナウ

現地レポート
アフガニスタンの障害者事情

長田こずえ

筆者からのメッセージ

 2002年の中旬頃まで筆者は、国連西アジア経済社会委員会(ESCWA)で障害問題を扱っていた関係上、“アラブからの便り”を約10年にわたり本誌に投稿させていただいた。その後しばらく女性の地位向上の問題を扱っていたが、偶然、国連ESCAPより今年の4月から高嶺豊氏(現在琉球大学教授)の後を引き継いで、新たにアジア太平洋地域で障害問題を担当することになった。思えば過去約20年の国連機関での私の仕事は、最初のILOでの3年や東チモールでの1年を含めほとんどが障害畑であった。今後は“アジア太平洋からの便り”を開発と障害などの問題を中心に投稿させていただく予定である。

暫定政権下でのアフガニスタン

 9月に約1週間にわたり新政権下のアフガニスタンの首都カブールに国連ESCAPの代表として出張の機会を得た。筆者はこれまで東チモールや、イラク、ヨルダン、レバノンといった政治的に不安定な土地に15年ほど赴任してきたので、これは大変に興味のもてるやりがいのある仕事だと思い、赴任前日からはりきっていた。ドバイから国連機に乗りカブールに着いたのは9月13日であった。
 国連UNICEFの統計(2001年)によると、アフガニスタンの社会開発度は世界187か国の中で下から4番目、そして残りの下位3か国は全部アフリカ諸国なので、アジアの中では最低である。幼児死亡率は257/1000、これは新生児1000人のうち257人が生後1年以内に死ぬということを意味する。ちなみに日本は4/1000、世界第一位の座にある。アフガニスタンの平均寿命は47歳(日本は80歳を超えている)であり、タリバン政権時代はアフガン女性の約1割しか小学校に通えなかった。これは男性の3分の1の比率。国民一人当たりの総生産は250ドル、ちなみに日本は3万2千ドルと100倍を超えている。
 さて、貧困と障害の関連性は栄養失調、医療の問題など取り上げてみても一目瞭然である。さらに、タリバン時代、そしてそれ以前のソ連の侵略の時代を通して内戦状態が継続しているので、戦争、特に地雷の被害など多くの問題を抱え、現在新政権(暫定政権)後も障害と貧困の問題は国の最優先問題である。
 アフガニスタンは山に囲まれた大変美しい国だ。多民族国家で、現在主流のペシュトウー人、タジク人、ウズベク人、そしてアジア系の被差別民族ハザラ人など多種で、ハザラ人は日本人によく似ている。

 こういった状況を踏まえ、カルザイ暫定政権は戦傷者と障害をもつ人を扱う独立した省庁、戦傷者と障害者省を設け(以後、省)、障害問題担当大臣を任命した。大臣は以前は独立をめざす内戦のイスラム兵士であり、この省は障害問題を扱うより、戦傷者を扱うほうが課題であるようだ。いずれにしても独立した省があることはよいことである。筆者の仕事は、大臣のために障害当事者、国連関係者、非政府機関、他の関連省庁などと協力してアフガニスタンの障害関連国家プランを検討、作成することである。
 これに関しては多くの当事者リーダーたち(ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業で、日本で約9か月の研修を終えたザーザイ氏(4期生)などを含め)、NGO、INGOなどと話し合い、案件を検討している。幸運なことにイタリア政府がODAからまとまった資金援助を二つ返事で約束してくれたので、今月(10月)の19、20日にアフガン国内で(カンダハール、ジェララバードの各地方からの代表をカブールに招待して)初めての国レベルでの障害者プランを検討する会議を開く。昨年の10月に開かれたESCAPの琵琶湖ミレニアムフレームワークはドラフト案に組み込まれ、また現地の関係者たちは、リハビリテーション、教育、労働の3項目を最重点と考えている。かなり詰まった案件がこの全国的な会議に提出される予定である。
 筆者は、現在検討中の新アフガニスタンの憲法(現在草案の作成中)に障害をもつ人の人権が保障され、差別禁止が明記されるように憲法の草案委員会を訪れた。戦傷者問題は国家の重点課題であるので、必ず障害者の人権を擁護する条文(1―2)が組み込まれることを確認できたのはよいが、そういった条文は、戦傷者、戦傷者の寡婦、そしてそれ以外の障害をもつアフガン市民をひとまとめにした権利となるようである。筆者が経験したパレスチナなどと同じで、障害の中心となるのは、戦争により障害をもつ男性ということになり、障害をもつ女性や、生まれつきの障害をもつ人、そして精神障害や知的障害をもつ人などは肩身の狭い思いをするのではないかと心配している。

アフガンの当事者団体の活動

 8月にはカブールでDPIのリーダーシップ訓練がアフガニスタン障害者連盟をパートナーとして行われた。大変に有意義なコースであったようだが、この障害当事者のNGOを含め、この国のNGOは大変に政治的でNGO間の協力、政府機関との協力が難しい。
 現在この国には2つの登録された当事者NGOがある。アフガニスタン障害者連盟は、ほとんどペシュトウー人の男性で占められ、女性やハザラ人などはほとんどいないし、いても形のうえだけである。そのうえ、身体障害をもつ人が大半で、視覚、聴覚障害をもつ人はほとんどいない。このほか、全国聾唖者グループが当事者団体として登録されて、現在登録を申請している団体として、アフガニスタン視覚障害者連盟とアフガニスタン障害をもつ女性の同盟などが上げられる。全国聾唖者グループは手話教育などの活動を始めている。女性同盟はなかなか面白いグループでナフザという活動的な女性(地雷の被害者)が中心となり、このグループの規定などを作成している。筆者が国連の職員を中心に約15万円の寄付金を集め、この女性グループに寄付した。リーダーの研修とグループの識字教育に資金を使うらしい。はやく登録して、資金活動に励んでもらいたい。
 さて、登録を邪魔する要素もあるようだ。現地NGO、特に当事者のNGOの申請、登録は簡単ではない。ひとつには、登録済みのNGOの妨害(資金援助をめぐる闘争)、INGOの現地NGOに対する懸念などである。また、政府が障害者を“問題を起こしうる反政府的要素”と見るからだろうか?懸念は筆者が述べたように、現地の政治闘争、異民族間の抗争、資金などに関する不透明性などを含む。少数民族を除外したり、特定の障害者(障害の種類、原因、程度など)を排除する閉鎖的なNGOはこの国の障害問題にとってマイナスであり、プラスにならないかもしれない。当事者NGOの発展はこういった要素を考慮して慎重に促進するべきであると筆者は思う。

国際NGOの活躍

 当事者団体のほかにも数多くの国際NGOがカブール、その他の地域で活躍している。主だったところを紹介してみる。まず、国際赤十字(ICRC)はまったく持って見上げたものである。筆者は世界中でいろいろなICRCを見てきたが、ここは特別である。赤十字はアフガニスタンで理学療法治療、理学療法士養成、義肢義足の製造とリハビリテーション、車いすの製造、職業訓練、草の根銀行と医療を中心に多目的な活動を行っているが、このセンターの職員の95%は障害をもつ人である。また女性の作業療法部などではほとんど全員が障害をもつ女性で占められ、男女比も完璧であり、民族構成も問題なく少数民族側も雇用されている。所長のアルベルト氏はアフガニスタンの障害者の父と呼ばれ尊敬されている有名人である。赤十字の本部ですら、“何で障害者ばかり雇用するのか”と文句を言ったほどである。この人の意見によると国のプラン、政策として最も大切なのは雇用率の設定であると言うことだ。
 このほか、イギリス系のIAMというキリスト教系のINGOも視覚障害者の医療、リハビリテーション、教育の関係で抜群の活動を行っている。FIFAという現地のNGOも聴覚障害の分野で手話教育、ヒアリングエイドの提供(日本政府の草の根プロジェクト)などで活躍している。この団体は立派な教員養成プログラムを持っている。ここの所長も障害者の雇用率を重要視している。国の政策の点に関しては、隣国のイランの影響が強いのかもしれない。イランの政策は雇用率重視である。
 スウェーデンのNGOは国連UNDPのプロジェクトの大半を運営している。SERVEというINGOも聴覚障害や視覚障害の分野でがんばっている。

終わりに

 最後に、現地のNGOで障害をもつ人の雇用を中心に活動しているABRAARというNGOがある。ここは地雷の被害者などで義足をつけている(片足あるいは両足)男性を雇用し、自転車でピザの配達や郵便物の配達を行っている。このプロジェクトはうまく運営されており、かなりの人が雇用されている。スポーツクラブもできた。女性のために家庭内でバレーボールやサッカーボールを内職で製造するプロジェクトも始めた。やはり、雇用が中心である。どうやら、アフガニスタンでは当事者が模索しているように、基本的なリハビリテーション、教育、そして就業が最重要課題である。
 さて、最後に現在の省は約1万の欧米などから寄付された車いす(全部成人用)を配布するのに困っているとのことである。車いすの供給過多である。確かに子ども用の車いすなどは必要であるが、車いす以外の寄付がほしいということである。基本的な道具、たとえば会議用のいす、リフト付きのマイクロバス、通常のバス、コンピュータ、鉛筆やノート、そういったものである。ICRCを中心に国内で車いすを作る施設もある。寄付を考えておられる方はぜひ参考にしていただきたい。
(ここで述べられた意見は筆者個人のもので国連ESCAPまたは国連の見解ではない。筆者の個人的な観察、見解として理解していただきたい。)

(ながたこずえ 国連ESCAP)