障害者の就労「台湾会議レポート」
立岡晄
はじめに
去る9月1日(月)から3日(水)、障害者の就労をテーマに「台湾会議」が開催された。本研修は、台湾の民間組織エデン(台北から飛行機で30分の花蓮市)からの呼びかけで開催され、アジア10か国約35人の出席があった。
概要としては、昨年秋大阪、滋賀で開催されたAPWDに参加したアジア各国の組織や当事者の皆さんが再会し、それ以降の活動報告を行うとともに、目前の第2次アジア太平洋障害者の十年(シンガポール)を準備することも意識されていた。なお、開催国を代表して台湾から、1.福祉工場、2.環境改善、に加えて、3.メンタル治療(リラックス)の3点を強調したいとの提案があった。
参加各国の状況
具体的な研修内容は、商品の販売経路拡大や授産施設の競争力を高めるためのセミナーと、各国からの活動報告および現地施設の視察、あるいは環境改善(バリアフリーキャンプ場)の見学が中心であった。
1993年から2002年までのアジア太平洋障害者の十年キャンペーン会議を通して、障害者問題は大きく前進をしてきたが、地球上約64億人口の中で、障害のある人は約6億人とも言われ、そのうち約4億人弱がアジア諸国に住んでいると報告されている。それだけに世界規模での障害者問題を前進させるためには、さらに2003年から2012年の10年間を第2次アジア太平洋障害者の十年として位置づけ、運動を進めていくことが昨年の最終年会議で確認されたが、まさにアジアのレベルアップはこれからである。
おりしも国連では、障害者の権利条約をめざして地球規模での動きが昨年から始まり、世界のNGOが積極的に運動を後押しするかたちで本格始動を始めたところであり、こうした状況下での本研修は大いに意味のあることであった。
今回の参加各国の障害者人口の状況(但し、参加者の聞きとりによる)
人口 (万人) |
障害者数 (万人) |
割合 | |
---|---|---|---|
台湾 | 2,000 | 100 | 5% |
インド | 100,000 | 5,000 | 5~6% |
フィリピン | 8,200 | 900 | 10.9% |
香港 | 670 | 50 | 7.5% |
スリランカ | 19,000 | 1,330 | 7% |
インドネシア | 20,600 | 1,030 | 5% |
ベトナム | ― | ― | ― |
韓国 | 4,000 | 460 | 11.5% |
日本 | 12,700 | 600 | 4.7% |
たくましいアジア諸国
参加10か国からのレポートは、フイリピンの段差無きセンターからジェス・ドコット氏。インドからドクターのホクリシナ・クビー氏。スリランカから車いすのプラマダ・ヂサナヤキ氏。日本からはきょうされんを代表して立岡晄などが報告に立った。
きょうされんは、主に日本における制度外におかれた共同作業所(無認可)と政府が認める作業所(通所授産施設など)の設置数の比較および、障害者の所得問題をレポートした。とりわけノーマライゼーションの根本は所得保障であり、その所得が一般の人と同等であることが望まれるが、現状は作業所で働いても月給1万円であり、一般労働者との格差の大きいことが日本の課題であることを強調した。
その他、インドネシアのヤックムクラフトのサザンカ・ラファヂオ氏、ベトナムの国家障害者福祉協会のイエンセン氏。韓国から車いすのスク・ユー・チョン氏(韓国エデンハウス会長)などの報告があったが、チョン氏は、自分の体験を次のように報告された。1972年に、脊髄損傷で車いすとなったチョン氏は、エデンハウスを創設したが、当時は障害者のための法律はなかった。1983年にエデンに福祉センターをつくったのが韓国では第1号。それまでは生産者として見なされなかったが、工場を提供し給料をもらえるようにした。政府は1980年に福祉の法律をつくり、1990年1月には就職促進とリハビリテーションの法律ができた。リハビリテーションは非常に重要で、政府は1994年に福祉工場をつくった。チョン氏は自らの体験を通して国に福祉の法律をつくらせるなど、自信に満ちた報告をされた。
おわりに
プログラムの内容であるが、全体としての組み立てには不満が残った。なぜなら、国際心身障害者庇護工場環境改善研修という題目はありながら、各国の報告が主となったぶん全体での一致点がつかみにくく、アジア諸国の今後の方向性を確認するところまではいかなかった。エマ・リーが、日本のきょうされんからの報告が、一番展望を与えてくれたと報告に来てくれた。
しかしながら参加各国の報告を聞いていて、現実は厳しいものを感じ取った。共通しているのは、各国とも経済が冷え込んでいるとの報告が多く、むしろ国の援助を待てない中で、どうしたら自立できるのかといった観点での交流が主になった。
この3日間の研修プログラム以外の食事や休憩時間、そして夜の交流時間を通して、各国の仲間たちと本音で語り合え交流を深められたことは、実に予想外の大きな成果として残った。
(たておかあきら きょうされん理事長)