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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年1月号

列島縦断ネットワーキング

東京 障害学会発足―障害を社会、文化の視点から見直す、社会、文化を障害の視点から見直す

長瀬修

設立総会

2003年10月11日に障害学会が発足しました。同日、発足のための設立総会が目黒区駒場の東京大学先端科学技術研究センター(先端研)で開催されました。設立総会では、会則案の承認が行われ、「障害を社会・文化の視点から研究する障害学(Disability Studies)の発展・普及と会員相互の研究上の連携・協力をはかることを目的とする」障害学会の設立が承認されました。

次に、役員案の承認が行われました。初代理事は以下のメンバーです。旭洋一郎(あさひよういちろう)(長野大学)、石川准(いしかわじゅん)(静岡県立大学)、市野川容孝(いちのかわやすたか)(東京大学)、倉本智明(くらもとともあき)(関西大学ほか非常勤)、杉野昭博(すぎのあきひろ)(関西大学)、立岩真也(たていわしんや)(立命館大学)、田中邦夫(たなかくにお)(国会図書館)、土屋貴志(つちやたかし)(大阪市立大学)、土屋葉(つちやよう)(武蔵野大学)、長瀬修(東京大学)、福島智(ふくしまさとし)(東京大学)、三島亜紀子(みしまあきこ)(会津大学短期大学部)、森壮也(もりそうや)(アジア経済研究所)、要田洋江(ようだひろえ)(大阪市立大学)、横須賀俊司(よこすかしゅんじ)(県立広島女子大学)。初代会長には静岡県立大学教授の石川が、事務局長には長瀬、学会誌の編集委員長には倉本がそれぞれ選出されました。

先端研に勤務している私は、設立総会の実行委員長を務めましたが、全国からの参加者は159名で、障害学会への期待の大きさを物語っています。とりわけ9月25日付け朝日新聞で「障害者問題を新視点で」と報じられてからは、多くの方からの申し込みがありました。当初予定していた、80名程度の小さめの会場では到底入りきらない人数の参加があり、同じ先端研の同僚が予約していた先端研で最大の会場を譲ってもらえなければどんな事態になっていたかと思うと空恐ろしい気持ちです。

発足の経緯

日本で、私たちの意図するディスアビリティーズスタディーズという意味での「障害学」という名乗りをあげたのは、1999年の『障害学への招待―社会、文化、ディスアビリティ』(石川准・長瀬修編、明石書店)という本の刊行でした。おかげさまで本当に大きな反響を呼び、従来のリハビリテーション、社会福祉、また単なる差別としての「障害」、「障害者」の位置づけに満足できていない方が私たちの社会には多数いることを強く感じさせられました。

一言で障害学と言ってもさまざまなアプローチがありますが、私は障害学の柱は、(1)特定の属性を持つ個人ではなく、社会が築いている障壁を問題とする社会モデル、(2)障害者が生きることを文化の形としてとらえる文化モデル、(3)障害者自身の視点の重視、の3点からなると考えています。

『障害学への招待』の刊行を機に、関西、関東で障害学研究会を立ち上げ、学会設立時までにそれぞれ19回、35回の研究会を重ねてきました。また、『障害学への招待』の執筆者用に当初開始したインターネットのメーリングリスト(1997年開始)には現在、350名以上の内外の参加者がいます。また、この間、2000年には『障害学を語る』(倉本智明・長瀬修編、エンパワメント研究所)、2002年には『障害学の現在』(大阪人権博物館編集・発行)の刊行があり、同年秋には待望の『障害学への招待』続編である『障害学の主張』(石川准・倉本智明編、明石書店)の刊行がありました。

こうした背景をもとに、石川、倉本、長瀬の3人が障害学会の設立を呼びかけ、前記の理事が発起人となったのです。

ポール・プレストン氏の記念講演

設立総会には、障害者である親をはじめとする家族支援に取り組んでいるNPOの代表であり、『聞こえない親をもつ聞こえる子ども』(澁谷智子、井上朝日訳、現代書館)の著者であるポール・プレストン氏を米国カリフォルニア州からお迎えしました。プレストン氏は翌週に同じく先端研で開催された手話学会の基調講演のために来日が予定されていたため、障害学会の設立総会でもお話をお願いしました。「障害の親と、非障害の子ども」というテーマでの講演をいただきました。NPOでの現場での経験、全米の調査結果に基づき、また、親がろう者であり、プレストン氏自身は聞こえる立場(コーダと呼ばれる)からの大変興味深い内容でした。講演録は障害学会のインターネットのホームページ(http://www.jsds.org/)に掲載されているので、関心のある方はぜひ、ご覧ください。

海外の学会の動き

米国の障害学会(Society for Disability Studies : http://www.uic.edu/orgs/sds/)は1982年に設立され、すでに20年以上の歴史を持っています。同じく障害学の盛んな英国では、1986年に研究誌 “Disability, Handicap & Society”(1994年に現在の “Disability & Society”に改称)が創刊され、活発な研究活動を行ってきましたが、2003年9月に英国障害学会(U.K. Disability Studies Association)としてランカスター大学で設立総会を行ったばかりです。私も参加する機会に恵まれましたが、知的障害者が支援者と共に参加するなど、幅の広さを感じさせられました。

設立総会の基調講演を行ったプレストン氏は米国の障害学会員であるほか、さまざまな形ですでに国際交流はありますが、日本の障害学会が着実に発展を遂げ、海外の学会との共同研究や、国際シンポジウムを開催できる時が来るようにしたいものです。

今後の活動

来年の6月中旬に次の総会を企画しています。場所は石川会長の所属する静岡県立大学で検討中であり、発表を募集します。詳しくは、インターネットの学会のホームページをご覧ください。学会誌も論文の募集を行い、2004年中には発刊を予定しています。

また、入会申し込みを前述のホームページで受け付けています。年会費(2003年度は無料)は一般6000円、学生4000円です。関心のある方は、学会ホームページにアクセスするか、長瀬(Nagase@bfp.rcast.u-tokyo.ac.jp:電話・ファクス03―5452―5063)までご連絡をお願いします。

(ながせおさむ 東京大学先端科学技術研究センターバリアフリープロジェクト特任助教授/障害学会事務局長)