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―年のはじめにじっくりと読んでほしい本―

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年1月号

ブックガイド

福祉を学ぶ学生におすすめの本3
―年のはじめにじっくりと読んでほしい本―

成田すみれ

今回は外山義著『自宅でない在宅―高齢者の生活空間論―』(医学書院、2003年、1,800円税別)を紹介します。

この本は高齢期を過ごす人間と住まい・施設のあり方や、高齢者の生活空間を考えるためのものですが、障害のある人々の生活を考えるうえでも非常に示唆に富む著作です。

筆者は日本の大学で建築を学んだ後、北欧スウェーデンで高齢者ケアと住環境をめぐる研究に取り組み、サービスハウス(高齢者向けのケア付き集合住宅とデイサービスセンターが合築されたもの)や、認知性高齢者のグループホームでのフィールドワークを積み、帰国後わが国の高齢者ケアのあり方に、重要かつ大きな一石を投じた人材です。

寝たきりゼロ作戦、特別養護老人ホームの個室化、認知性グループホームや新型特養の制度化、身体拘束廃止への提言など、高齢者施設を『施設』ではなく『住まい』に変革していった先駆者でもあります。

本著は、まず日本の高齢者の多くが今なぜ住み慣れた地域での生活の継続や、人生の終末を迎えられていないのかという疑問から始まり、高齢者が生活を『施設』という場に移した時のさまざまな「落差、たとえば空間や決まりごと(規則)、言葉、そして役割の喪失」について、平易ながらも的確に鋭く解説し、次にこの落差を埋めるための「思考=考えかた」を、実際の高齢者施設での生活実態調査(生活スタイル)データを用いて検証しながら、実証的に居室の個室化の必要性を説きます。

著者の考える個室とは、単なる一人部屋ではなく、「身の置き所、その人の居場所としての個室」であり、そこは一人ひとりの入居者がその人らしい生活を個性豊かに繰り広げることのできる住空間です。

さらに、施設の中でこのような身の置き場としての居室=個人的領域を確保するために、それぞれの居室間の関係、居室と共用空間の関係、共用空間のあり方に着目し、居住空間での中間領域があることの重要性を指摘、そこでのケアに関わるスタッフの役割や動きも交えながら、施設というハードと支援というソフトのあり方にも触れています。

後半は、落差を埋めるための「実践」としての『ユニットケア』について、空間と対応するケアのあり方や生活支援の方法も視野に入れ、さらにグループホームにも言及しながら全面展開がされていきます。

著者はユニットとは入居者にとっての「生活単位、つまり施設に生活の場を移した高齢者の視点からみた生活の規模」であり、その単位で提供される生活支援の総称を『ユニットケア』と捉えます。

実際、具体的な食事・入浴・排せつといったケアのあり様から、関わる職員の人数とケアの質と量の関係を施設での実態調査からのデータを用いて解析し、どう生活を変えていくことが望ましいのかを提言します。

併せて『ユニットケア』がうまく機能しているかは、1.利用者にとって時間がゆったりと流れているか、2.生活のかたちが保たれているか、3.場が成立しているか、4.利用者が主役になっているかの4点が大事なチェックポイントであることも示されています。

グループホームについては、『ユニットケア』の源流であると理解し、特に認知性高齢者グループホームでの実践に触れ、そこには従来の施設での介護を「する側」と「受ける側」といった「垂直」関係から、側面から支える「水平」関係へ、そして時には適宜役割を変化させ交換しながら両者の総合の「横断性」を創り出すという本質があると指摘、これこそコミュニティの元としての人間関係そのものでもあると言います。

また、この本質から新たに施設や在宅を逆照射することで、地域コミュニティ全体がノーマライズされていくことに気づき、これをノーマライゼーションの新たな定義ではないかと語る部分は貴重な意見ではないでしょうか。

最後に「自宅でない在宅」の実例として、協働生活型高齢者居住の阪神淡路大震災仮設住宅と、尼崎のグループホームが紹介されています。

高齢期を生きる人間にとっての建築空間や物理的環境が持つ意味、ケアにおいて物理的環境が果たす役割についての本ですが、決して小難しい専門書ではありません。著者の人間性に溢れる感性豊かな内容は、高齢者ケアに携わる人のみならず、これから福祉を学ぶ若い方々や、高齢者の方にも十分理解していただけると思います。

『ユニットケア』の考え方は、今後の介護保険のあり方を検討する重要な事項として、施設サービスでの個別ケアへの取組において導入され、現在の検討が始まっています。

なお著者建築家、京都大学大学院教授外山義氏は、2002年11月に逝去されました。

(なりたすみれ 横浜市総合リハビリテーションセンター、本誌編集委員)

【参考文献(前記以外)】

  1. 外山義著『クリッパンの老人たち:スウェーデンの高齢者ケア』ドメス出版、1990年、3,000円(税別)
  2. 外山義著『グループホーム読本:痴呆性高齢者の切り札』ミネルバァ書房、2000年、2,500円(税別)
  3. 外山義他編『個室・ユニットケアで介護が変わる』中央法規、2003年、2,000円(税別)