「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年1月号
みんなのスポーツ
冬山の大自然を満喫 ―スキー
山川洋
1 はじめに
澄みきった空気の中を颯爽(さっそう)と滑るスキー。いや、滑らなくてもかまいません。スキーは、ゲレンデにいるだけでも、冬山の大自然が満喫でき心身ともにリフレッシュできる機会を与えてくれる素晴らしいスポーツです。スキー場の早朝、ゲレンデから少し離れた場所にはウサギの足跡が見られますし、双眼鏡で向かい合った山肌を観察しているとカモシカや猿を発見できるスキー場もあると聞きます。
「そのような場所に行くことは可能なのか?」「受け入れ体制は?」と心配されることと思いますが、“みんなのスポーツ”として、少しずつではありますが、道は開かれてきています。
2 日本身体障害者スキー協会の設立
国内で組織的に障害をもつ方々のスキー活動が始まったのは1973年「日本身体障害者スキー協会」の設立からといっていいでしょう。その当時は、現在のように情報のやりとりは少ない時代でしたので、まさに手探りの状況で、協会の方々は苦労されたことと思います。当初はアウトリガーを使用する大腿切断者を対象に始まりましたので、他の障害や特定の地域においては、独自のスタイルで研究を重ね進展した例も見受けられました。
3 長野パラリンピックを契機に普及
1998年の長野パラリンピックを契機に「競技力の向上」や「どこのスキー場でも指導が受けられる」等、初心者から上級者まで系統だった取り組みの必要性が広く認識されるようになりました。その声に答えるべく、障害者のスキー団体を取りまとめ、スポーツにおけるノーマライゼーションをめざし、2001年11月に「日本障害者スキー連盟」(以下、連盟と記します)が設立されました。
また、一般のスポーツ競技団体でも子どもから高齢者まで、幅広く対象者を設定してその普及に取り組むようになり、一部では障害者も含めた活動にまで広げています。社団法人日本職業スキー教師協会(以下、SIAと記します)では、昨年「障害者スキー教本」を編集して、スキー指導員の資格取得のカリキュラムに使用するようになりました。
4 代表的な用具
前の項で一部紹介しましたが、ここで改めて、代表的な用具の紹介をします。
◆アウトリガー(写真1)
上/移動時
下/滑走時
滑走時、両脚や片脚で立位のバランスが不安定な場合に使用します。雪上を移動する際には先端を杖と同様な働きを持たせるために立たせて使用します。
◆バイスキー・チェアスキー(写真2)
下肢の機能障害またはマヒで立位姿勢での滑走が難しい方に適しています。バイスキーは2本の板が付いていますので、より簡単に滑走が楽しめます。
手には座位用の短いアウトリガーを持ちます。
◆交差止め(写真3)
(トライスキーアップ)
脚の機能によってはスキー板を一定方向に維持すること(進行方向に対して、片かなの“ハ”の字をつくるプルークの姿勢)が難しいことがあります。そのような場合には、板の先端を固定して滑走中に重ならない工夫をします。
チェア全体
5 講習会
では、実際に初めての方が講習会を受けようとすればどのようにしたらよいか、代表的な手順を紹介します。
(1) 連盟に問い合わせる
連盟には正会員団体として4つ(問い合わせ一覧にまとめて記します)の団体が加盟しています。各団体では、ブロックや支部単位で講習会を催しており、講習希望の方の障害や住居を考慮した適切なアドバイスをしていただけます。
(2) 行政に問い合わせる(都道府県・外郭団体等)
雪の多い地方では、その特色を生かしたスポーツ活動を展開しています。福祉局や社会福祉協議会、障害者スポーツ協会または障害者福祉(スポーツ)センターが独自にスキー教室を開催している場合もあります。
(3) スキースクールに問い合わせる
SIAでは4年前から指導の対象に障害をもつ方々も含め、スキー指導の編さんにあたりました。まだ、活動が始まったばかりですので、対応できるスクールの数は少ないですが、指導のプロ集団として、その質は高いです。
(4) その他
独自の活動を行っている団体もあります。問い合わせ一覧に掲載します。
6 競技大会
連盟主催の大会が定期的に開催されています。ごく少数ですが、一般の大会で「障害者も可能」というものもありますが、技術レベルの制限があります。
競技をめざすようになりますと、日本国内最高峰の大会として、ジャパンパラリンピックが毎年開催されています。ここでの成績を参考にパラリンピックの強化選手の選考が行われます。
7 おわりに
ノーマライゼーションという言葉が使われて久しいですが、いまだ理想の形とは遠い現状があると思います。私はスポーツの場面、いやスキーだけでもその理念に近づきたいとの思いから、リレハンメル、長野、ソルトレイクのパラリンピックに関わってきました。そして、障害をもつ方々の可能性をアピールすることはできたと思っています。
スキー界(ゲレンデ、宿舎、リフト、指導者、用品メーカー)の理解は広がりつつあります。勇気をもって、素晴らしい大自然の中に飛び出してみてください。
(やまかわひろし 横浜ラポールスポーツ課担当係長、長野・ソルトレイクパラリンピックアルペン競技監督)
●問い合わせ先一覧●
◆(特)日本障害者スキー連盟
Tel. 03-5974-1310
Fax. 03-5394-7656
http://www.sajd.com
E-mail info@sajd.com
◆日本身体障害者スキー協会
Tel・Fax 03-5993-4300
http://www.d2.dion.ne.jp/~slw/kyoukai.htm
◆日本チェアスキー協会
Tel. 0467-58-0065
Fax. 0467-58-0030
http://www.chairski.jp/top.htm
E-mail h.inoue@chairski.jp
◆日本障害者クロスカントリースキー協会
Tel・Fax 03-5690-5388
http://www.WeLoveXCSKI.com/JXC/
E-mail fwks5576@mb.infoweb.ne.jp
◆(特)日本知的障害者スキー協会
Tel. 03-5294-6851
Fax. 03-5294-6852
◆(特)スペシャルオリンピックス日本
Tel. 096-352-4000
Fax. 096-352-1820
http://www.specialolympics-nippon.gr.jp/main.html
E-mail so-jpn@fa2.so-net.ne.jp
◆スキー・フォー・ライトジャパン
Tel. 03-3818-3009
Fax. 03-3818-0778
http://www.pobox.com/~sflj/
E-mail sflj@pobox.com
◆ICE TEE事務局
Tel. 090-7552-0299
http://www.icetee.net/icetee.html
E-mail saeko@icetee.net
◆パルネットワーク
Tel. 03-5659-6802
Fax. 03-5659-6801
http://www.palnetwork.net/
◆ファクトリースマイル
Tel. 0257-87-5998
http://www.bea.hi-ho.ne.jp/csa-factory/fstop.html
E-mail info@factorysmile.com
◆(社)日本職業スキー教師協会
Tel. 03-3567-4770
Fax. 03-3561-6575
http://www.sia-japan.or.jp
E-mail info@sia-japan.or.jp