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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年1月号

ほんの森

しなやかに 生きる 見えない女たち

評者 甲賀佳子

お花畑の中を鳥や動物たちが飛び交う淡い色使いの表紙に誘われてこの本を手にすると、『しなやかに 生きる 見えない女たち』というタイトルが飛び込んでくる。ページを開くと14人の視覚に障害をもつ女性たちの心の声が聞こえてくる。

まず初めに岸田さんの底抜けに明るい文章に圧倒される。プロフィールを読まなければこの人が本当に全盲の女性なのだろうかと思う。定家(さだいえ)さんの子育て奮闘記は、自分たちでは補いきれない視覚的教育のサポートとしての保育園活用など、見えないことを正面から受け止めている。高橋さんは、大手玩具メーカーに働く女性だ。見えないことは自分の大切な特徴の一つと言い切る力強さを持っている。

続く沢田さんの文章のすばらしさには驚かされた。ステージで歌う彼女の声が聞こえてくるようなしとやかな言葉の数々は、このエッセーに添えられている写真の中の彼女と重なり合う。山崎さんはわが子の先天性白内障の治療に命を燃やしつづける。佐々木さんの文章には成長した子どもたちへバトンタッチしていく姿がある。杢尾(もくお)さんの4人の子育て奮戦記は、もうそれだけで脱帽である。

後半の7人に読み進むと少しそれまでとは趣を異にしている。「命と障害を手のひらに握り締めて走るリレー走者」と自らを位置づける広沢さん。「子育てなんて低空飛行だから落ちてもすぐにはい上がれるし、よく落ちるからはい上がり方も上手になった」と名言を書いた水出さん。ピアノと琴の指導者として自立して生きる黒葛原さん。後藤さんは夫との歯車がかみ合わなくなり離婚を決意した。雪が降ってきたから危ないとお子さんが電話してきた話は、一緒に生活をしたものでなければ言えない命の言葉である。

さて、表題「しなやかに生きる」とはどういうことだろうか? 松谷さんが示唆している。「昨日と違う今日の風を受け止めて、明日の風向きを楽しみだと思えるしなやかさ」。スポーツウーマンの岡崎さんからはとにかく元気をもらうことができた。そして最後の大藪さんは、自分の父が他の兄弟たちの父と違ったという事実を明かす。屈折した心とそれまで自分を慈しんでくれた人たちへの感謝で結んでいる。

14人の女性たちの言葉は優しく呼吸し、自分だけの「人生」という舞台で精一杯輝いて生きる。その姿に心引かれていつのまにか彼女たちの周囲にコミュニケーションのネットワークが生まれる。緩やかだけれどお互いに支えあえる確かな関係。この本と出会うことで読者もその輪の中に入ってしっかりと手をつなぐことができる。

(こうがけいこ 日本点字図書館職員、視覚障害をもつ親の会「かるがもの会」代表)