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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年4月号

私たちの大学生活

情報保障運動を続けながら

山根さやか

まず、本文に入る前に私の障害について簡単に説明したいと思います。

私は、生まれた時は中等度の感音性難聴で、補聴器を活用すれば音を聞き取ることができる聴力でした。発音も明瞭だったので、友達との会話も口を大きく開けてゆっくり話してくれたら理解できたので、特に「困った」とは意識していませんでした。しかし、小学校の高学年から徐々に聴力が低下し、中学校入学後に完全に失聴してしまいました。補聴器を使っても全く音が入らないので、失聴してから手話を覚え始め、今も手話を主としたコミュニケーション手段を取っています。

初めは聴力が軽かったので中学校まではインテグレーションしてきましたが、失聴してからは、友達との会話にもついていけず、授業もまったく理解できない状況でした。全く理解できないまま50分も座っているのが私にとっては苦痛でしかなかったのです。ですから、高校は「分かる授業を受けたい」、そして「同じ障害をもった友達をたくさん作りたい」という思いから、ろう学校の高等部に進学しました。ろう学校では、手話を使った授業を受け、先生の冗談に笑ったり、友達とも手話を交えて話をすることができ、絆を深めることができました。そういう経験ができたことから、私にとって「高校時代」が一番刺激が強かったと思います。

大学に進学する際、私が考えていたことは、ろう学校の教師をめざしているので、福祉的観点から障害を学べる環境にあること、聴覚障害に理解がある(支援制度がある)こと、そして、同じ障害をもつ仲間がいることを条件として探して日本福祉大学を選びました。「同じ障害をもつ仲間がいること」を条件にしたのは、同じ障害をもつ仲間が集えば大きな力になるし、講義などの情報保障で何らかの困難にぶつかった時に共に考え、要求していける仲間がいると非常に心強いと思ったからです。今通っている大学は、私立大学では聴覚障害者の受け入れ数はトップであり、支援センターも設置しており、支援体制も充実していると思い受験を決めました。入試時も試験官が板書を増やすことやチャイムの合図など心がけてくれ、安心して入試に臨むことができました。

大学入学後は、新入生オリエンテーションでノートテイカーの募集を呼びかけ、それをきっかけに集まってくれた人に講義のノートテイクを依頼しました。ノートテイクとは、聞こえない人の耳の代わりで、健聴学生が講義で話している内容を紙に書き込むのです。ろう学校時代は、分かる授業を受けたので、大学ではきちんと講義についていけるのかと不安でしたが、ノートテイクをつけたおかげで、講義内容、先生の冗談話なども理解でき、楽しく講義を受けることができました。初めてノートテイクをつけた時、「みんなと一緒に講義を受けているんだ」と感動した思い出は今でも鮮明に残っています。また、オリエンテーションなどには支援センターが手話通訳を派遣してくれるし、講義のビデオ視聴の際は詳細レジュメを作ってくれる先生もいます。そういう意味では、この大学は非常に情報保障には恵まれた環境にあると思います。

しかし、聴覚障害学生が30人を超えるために、ノートテイカーの数が絶対的に足りない状況になってきていることが今問題になっています。その問題を解決するために、今年度からOHCを講義に導入しました。これは、テイクの紙をカメラで撮り、テレビに映す機械です。これを使えば、同時に複数の聴覚障害学生が見ることができるので、テイカーの数は従来のノートテイクの数で足りるようになってきます。OHCに関する問題点なども聴覚障害学生が集まって話し合い、ルールなども作って活用しています。また、テイカーの選択肢を広げるためにもパソコン要約筆記を導入できたらよいのではないかと考え、ワーキンググループを結成し、技術の養成や研究を進めてきました。現在はまだ講義導入まで至りませんが、小さなイベントなどで情報保障として派遣し、学生や教員への理解を広めつつあります。将来的には、講義に導入できたらと思い、現在も活動を進めています。

パソコン要約筆記ワーキンググループなどの活動を通して思うことは、情報保障の制度はあっても、より充実させるためには、制度だけで終わってしまっては何も始まらないということです。些細な問題点にもしっかり目を向けて、どう対策していくかを常に考えることが大事だと思います。

実際に情報保障を担うのは聴覚障害学生であり、その問題を一番よく知っているのも聴覚障害学生です。私たちが大学生活を営むうえで、何に困っているのかなど常に問題意識を持ち、そしてその問題を友人や大学側に理解してもらうだけの説得性のある説明ができなくてはいけません。情報保障が大事だというのはみな同じだと思いますが、具体的に何をすべきか考えられる人はまだまだ少ないです。情報保障は一部の人のみではなく、多くの聴覚障害学生がその問題を共有して初めてできるものだと思います。学生生活も残り1年ですが、制度だけで満足せず、その中身をより充実させるためにも、聴覚障害学生が話しあう場を通し、意見交換をしながらどのような問題を持っているのか確認しあいながら、情報保障運動を進めていきたいと思っています。

(やまねさやか)