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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年4月号

授業でのサポートを充実させるために
~大学における障害学生の受け入れ状況に関する調査2002より~

殿岡翼

障害学生支援という言葉がまだ一般的なものになっていなかった1994年9月に、「障害学生の大学で学べる機会を広げることの一助となるに違いない」との認識から、東京都八王子市にある自立生活センター「わかこま自立生活情報室」が、日本にあるすべての大学に「大学における障害学生の受け入れ状況に関する調査」を実施して、その結果を『大学案内障害者版』として発表しました。当時、障害をもつ学生がどこの大学にどんなサポートがあるのか、自分を受け入れてくれる大学はどこにあるのか、一覧することはほとんど不可能でした。このような状況に対してこの本は、障害学生に新しい大学選択の道を開くものとなりました。

『大学案内障害者版』の発行は、マスコミをはじめさまざまな場面で取り上げられ、それを契機に、全国から「障害学生の進学に関する情報がほしい」など、問い合わせが増えていきました。1997年5月には、わかこま自立生活情報室の中に「大学における障害者の受け入れ状況に関する調査プロジェクトチーム」が発足しました。これが、現在の全国障害学生支援センター設立の基礎となりました。プロジェクトチームはその後『大学案内98障害者版』、『学生生活を通して見えてきたもの』の出版に協力しました。

これらの活動を通じて、さらに障害学生や大学担当者からの問い合わせが徐々に増え、私たちはより積極的な障害学生支援の必要性を感じました。そこで1999年4月、障害のある学生のさまざまなニーズに応えられればという思いから、全国障害学生支援センターを設立し、同年10月をもって、わかこま自立生活情報室から大学案内関係の業務を引き継ぐ形で、町田市での活動を開始しました。

みなさん想像してみてください。入学試験を点字で受けたり、講義を手話通訳を使って受けたりする学生がいます。全盲や電動車いす使用の医師も誕生しています。日本では毎年3000人もの障害をもつ学生が大学を受験して、そのうち500人余が入学しています。私たちは、彼ら彼女たちを障害学生と呼んでいます。しかし、国内のすべての大学が、障害学生に門戸を開いているわけではありません。障害ゆえに受験を拒否する大学も、まだ残っています。

「大学における障害学生の受け入れ状況に関する調査」はこれまで6回実施しています。現在その項目は、受験可否をはじめ、授業・設備での配慮の状況など、1000を超えています。調査は、全国すべての大学、大学院大学、放送大学、および大学校(文部科学省所管外)が対象です。最新調査である2002調査は2001年4月から8月に行われ、計682校が対象となりました。今回はこの2002調査をもとに、障害学生が入学後、授業を受ける際の配慮に絞ってその現状を見ていきます。また、障害学生のニーズにかなったサポートをどのように実現していけばよいか、課題にも触れたいと思います。

なお、調査・出版事業のほかに当センターでは、主な事業として、相談事業、情報提供事業、『情報誌・障害をもつ人々の現在』の発行、障害をもつ学生交流会の開催を行っています。相談事業は障害をもつ当事者が電話・ファックス・面接で相談に応じています。障害学生からの受験や学生生活での悩み、大学からの支援体制についての相談などを行っています。交流会事業では、毎年夏に障害をもつ高校生・大学生を対象に「障害をもつ学生交流会」を開催しています。受験や学生生活はもちろん、障害について話し合ったり、友達を作る場となっています。

さて、障害学生は授業での配慮と、どのように向き合うのでしょう。多くの学生は入学したばかりの時、大教室での講義を体験し、クラスがあった高校までとは違った悩みに直面します。たとえば聴覚障害学生なら、高校までは友達にノートを見せてもらい、自分で教科書を見ることで授業についていくことができたとします。しかし大教室での講義では、先生との距離も遠く、決まった友達と常に同じ授業を受けることがありません。授業は障害学生を考慮することなく進められてしまいます。その結果、障害学生は自分に情報保障が必要であることを痛切に感じるのです。このような悩みを通じて、障害学生は「自分にも、授業での配慮が必要なのだ」と実感するきっかけとなることがよくあります。

障害学生に授業でサポートが必要だということは、一般的に知られてきています。しかし、学内で実践することはそれほど簡単ではありません。調査で回答した328校のうち、授業で大学として何らかの配慮をすると答えた大学は249校あります。その中で、授業全体での配慮として、一定の基準となるガイドラインを作成し各教員に示しているのが24校、履修している授業の教員に該当する障害学生の配慮内容について個別に依頼している大学が117校あります。その他、チューター制度を取り入れている大学もあります。授業での配慮は、その大学での障害学生に対する配慮内容全体の方針を示すものでもあります。ですから障害学生にとって、その大学で実施されている配慮を十分に活用できるかどうかの鍵が、授業での配慮にあるといえます。そこでまず、授業での配慮の状況について各分野ごとに見てみます。

一般講義での配慮について

何らかの配慮を行うと答えた大学は146校です。内容は、座席位置を配慮するのが110校、補助機器の使用を認めるのが84校、講義に補助者をつけるのが47校、補助機器や教科書の置き場所を確保するのが45校、教員が講義ノートをコピーして渡すのが8校、欠席日数を考慮するのが3校、などとなっています。一般講義は、大学での講義の大部分を占めています。それだけに、ここでのサポートの有無は、障害学生の学習環境に直結しますので、できることが少しでもあればサポートを実現させていきたいものです。

語学授業での配慮について

何らかの配慮を行うと答えた大学は68校です。内容は、補助者をつけるのが28校、授業の中で別の課題を与えるのが14校、別の科目を履修することで代用しているのが7校などとなっています。言うまでもなく、本人の希望に反して語学授業が受けられないような事態は問題です。実際に外国語の授業をノートテイクしたり手話通訳すること、教科書を点訳することは、高い技術を要します。英語以外の外国語においては、さらに困難があります。

最近では、このような支援を学外の優秀なボランティア団体に依頼するだけではなく、長い時間をかけて学内でサポートする人を育てることが大切だといわれています。その場合、支援を必要とする学生よりも高学年の学生が、技術を向上させて支援に当たるのがもっとも望ましいとされています。

体育実技での配慮について

何らかの配慮を行うと答えた大学は146校です。内容は、実技の内容や種目を変更するのが61校、特別クラスを編成して実技を行うのが53校、実技を見学するのが40校、実技をレポートで代用するのが30校、などとなっています。特別クラスを編成する大学が非常に増えており、障害者スポーツを取り入れる大学やパラリンピックに出場する選手が輩出されている大学もあります。その一方で、運動器具の工夫や補助者の同伴によって通常のカリキュラムで授業を行う大学はまだ少ないのが実情です。そこで、器具の工夫・補助者の同伴については、実際に各大学で行われている配慮の方法を共有していくことが、今後求められます。

実験での配慮について

何らかの配慮を行うと答えた大学は46校です。内容は、実験に補助者をつけているのが19校、使用する器具を工夫するのが17校、実験の中で別の課題を与えるのが10校、レポートにより代用するのが10校、実験を見学するのが8校、などとなっています。多くの大学で対応が担当教員に任されているのが実情です。理科系に進む障害学生も増えてきています。このような場合、ある学部に進学したいと望む障害学生を、実験ができないというだけで入学を断ることは少なくなってきています。まだ数は少ないですが、配慮についての事例を積み重ねていく必要があります。

実習での配慮について

何らかの配慮を行うと答えた大学は54校です。内容は、実習先に配慮を依頼するのが23校、実習に補助者をつけるのが20校、使用する器具を工夫するのが11校、実習先をできるだけ斡旋するのが11校、などとなっています。社会福祉実習や教育実習を行う障害学生が増えています。しかし、大学内では配慮が行き届いていても、実習先でスムーズな受け入れが行われないことは多くあります。また、プライバシーなどの問題から、補助者を同伴することを実習先が断るケースもあります。このような場合に、障害学生自身が、補助者を同伴して実習を行うことの合理性といった基本的なことから実習先に説明しなければならないような自体は、骨が折れることです。この領域については、よりいっそうの啓発活動が望まれます。

定期試験での配慮について

何らかの配慮を行うと答えた大学は120校です。内容は本人が担当教員に配慮内容を依頼するのが53校、本人と大学が相談して個別に対応を決めるのが73校、大学で一定の基準を設けているのが21校です。入学試験と比べて定期試験で配慮を行う大学は少なく、そのつど障害学生と担当教員との間の個別対応になっている大学が数多くあります。このように、担当教員によって対応が異なっている場合、その負担が障害学生本人に課されていることが多く、厳しい負担と言わざるをえません。定期試験の配慮を通して学内教職員の連携を作り上げていくことが、よいきっかけになります。障害学生の評価に関わることだけに、十分な検討が必要です。そして、正当な評価を受けられるように、大学として最低限の基準作りを行うことが望まれます。

続いて、障害別に配慮の状況を見ていきます。

視覚障害学生に対する配慮について

何らかの配慮を行っている大学は75校です。内容は、掲示板など本人が必要とする情報を大学側から確実に伝達できる体制を取るのが35校、本人が希望する形式のプリント類を準備するのが33校、教員が板書やビデオの内容を説明するのが25校、大学で点訳サービスを行うのが25校、本人が希望する形式の教科書等を準備するのが23校、などとなっています。視覚障害学生が希望する形式の媒体としては、点字・拡大文字・CD―ROM・フロッピー・録音テープなどがあります。障害の状況が同じであっても、人によって必要な媒体が異なる場合があります。本人が希望する媒体を、そのつどすべてそろえるのは簡単ではありませんが、緊急性の高いものから準備していくとよいでしょう。また、デジタルデータによる提供に関しては、学内の教職員に協力を求めることで、二度手間を防ぐことができます。

聴覚障害学生に対する配慮について

何らかの配慮を行っている大学は、75校です。内容は、授業にノートテーカーをつけるのが50校、授業以外の学内行事に通訳者をつけるのが20校、放送の内容など本人が必要とする情報を大学側から確実に伝達できる体制をとるのが20校、手話のできる教職員がいるのが10校、授業に手話通訳者をつけるのが15校、授業にパソコン要約筆記をつけるのが5校、などとなっています。この分野では調査終了後に大幅に状況が改善しているので、実数はかなり増えていると思われます。一方で、人件費や交通費等のコストが常にかかってくる分野です。こうした謝金の支払いや補助者の養成などのノウハウがまだまだ各地で不足しており、それらの普及が望まれます。

肢体障害学生に対する配慮について

何らかの配慮を行っている大学は92校です。この数字は視覚・聴覚障害に比べてかなり多くなっています。内容は、机やいすの配慮を行うのが65校、アクセスしやすい教室に変更するのが61校、学内での生活に必要な介助者をつけるのが19校、授業に補助者をつけるのが15校、授業で上肢障害の学生にノートテーカーをつけるのが13校、などとなっています。設備などの配慮に比べて人的サポート要員に関する配慮が少ないのが特徴です。この数は他の障害のそれに比べても少なくなっています。肢体障害学生の中でも全身性障害の場合、日常生活全般にわたって、常時介助が必要となります。そこで授業での補助者、学内での介助者、学外での生活支援というように、継ぎ目のないスムーズな支援を作り上げることが望まれます。

今回は、授業での配慮を中心にみてきました。障害学生にとっては、自分がもっとも快適に授業を受けられる環境を探り出すとともに、安心して授業を受け続けるために「大学にきちんと要望するべき配慮は何か」を考え、「友達にやってもらえばいい」と思うことは、それがなくなっても重大な問題が起こらないことに限定しておく必要があります。また大学にとっては、目に見える形での体育実技での配慮などに比べて、定期試験での配慮や一般講義での補助者の同席などは、障害学生が初めて入学した場合など、大学として配慮の方法にとまどうことも多いと思います。まずは実施しやすい配慮内容から準備していき、ある程度経験のある大学には点訳教科書など一歩踏み込んだ配慮内容を検討することが望まれます。

なお、ここで述べてきた大学数は、個別の情報として『大学案内2002障害者版』に掲載されています。当センターに問い合わせていただければ、具体的な学校名などもお答えすることができます。また、当センターは障害学生・大学双方からの相談を受け付けておりますので、ご利用ください。

◆全国障害学生支援センター◆
 Nation-wide Support Center for Students with Disabilities (NSCSD)
 〒194―0022
 東京都町田市森野2―28―2 A―107
 TEL・FAX
 042―720―0027
 URL:http://www.nscsd.jp/
 E-mail:mail1@mua.biglobe.ne.jp

(とのおかつばさ 全国障害学生支援センター代表)


掲載者注:
上記は、雑誌掲載当時(2004年4月)の連絡先である。
全国障害学生支援センターの現在の連絡先は以下の通りである。
◆全国障害学生支援センター◆
〒252-0318 神奈川県相模原市南区上鶴間本町3-4-20 田園コーポ3号室
TEL・FAX 042-746-7719
URL:http://www.nscsd.jp/
E-mail: info@nscsd.jp