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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年5月号

支援費制度の課題と対応

間隆一郎

障害者の地域生活支援、自己決定の尊重、利用者本位のサービス提供などをその基本的な理念とする支援費制度が平成15年4月にスタートしてから1年が経過しました。利用者の方から一定の評価をいただいていている一方、制度の根本に関わる課題が顕在化しており、その対応が急務となっています。

1 支援費制度の施行状況

支援費制度は、障害者がその利用を申請し、行政の支給決定を受けてサービスを利用するものです。居宅サービスについてみると、施行直後の平成15年4月において、居宅サービスについて支給決定を受けた方は約19万2千人でした。これに対して実際に利用した方は約11万7千人でした。

(1)居宅サービスの利用の急速な伸び

身体障害者、知的障害者及び障害児を対象としたホームヘルプサービス、デイサービス、ショートステイ、グループホーム(知的障害者)は、居宅サービスと呼ばれています。

この居宅サービスについては、平成15年度において、当初の予想を大きく上回って利用が伸びています。特にホームヘルプサービスやグループホームについて、全国的にその伸びが大きい状況にあります。

【ホームヘルプサービス実施市町村数】

支援費制度の施行のほぼ1年前の平成14年3月の段階で、身体障害者ホームヘルプサービスを実施した市町村は全市町村の約72%であったものが、平成15年4月の段階では全市町村の約73%となっています。

これに対して、知的障害者ホームヘルプサービスについては、同じく平成14年3月の段階で実施した市町村は全市町村の約30%に過ぎませんでしたが、平成15年4月には5割増加して全市町村の約47%がサービスを実施するに至っています。

これは、これまで本当はサービスを利用したかったけれども、措置制度の時代には市町村がサービス提供を実施していなかった例が多くあることを示しています。

このようにより多くの障害者が必要なサービスを利用できるようになったことが、支援費制度の大きな効果の一つといえます。

【サービスの利用時間】

サービスの一人あたりの平均利用時間についてみると、全体的には支援費制度の施行前後ではそう大きな変化はありませんが、全身性障害者が利用するホームヘルプサービスの日常生活支援については、月一人あたり平均利用時間をみると、平成13年度の実績で83時間であったものが、平成15年4月には135時間と大きく伸びています。

【4月以降の利用の伸び】

平成15年度中もサービス利用は伸び続けています。とりわけ、もともとのサービス利用者数などが少ない知的障害者や障害児でその伸びが大きく、平成15年4月のホームヘルプサービスの事業費を1とした場合の11月の事業費は、身体障害者は1.24、知的障害者は1.72、障害児については実に2.20と伸びている状況にあります(資料1)。

資料1 平成15年4月から11月までのホームヘルプ事業費の伸び(4月=1)
図 グラフ

(2)伸びるサービスへの予算的な対応

すでに見たように大きくサービスの利用が伸びました。これは国や一部の自治体の予想を上回っていました。

このような結果、市町村が申請してくる国庫補助基準内の国庫補助所要額が、予算を大きく(約100億円超)上回りました。

これについては、制度施行初年度において、利用者や市町村に不安を与えないよう、厚生労働大臣の指示のもと、多くの関係者の協力を得て、極めて特別な対応をし、ほぼ(98%)国庫補助の予算を確保しました。

しかし、今後もサービスの利用が伸びていくことや、国も地方も財政状況が極めて厳しくなっていることを考えると、サービスの質と量を確保できるよう、引き続きさまざまな制度運営上の工夫をしていかなければならない状況にあります。

(3)サービスの地域差

サービスの利用状況をみると、大きな地域差があります。

まず、ホームヘルプサービスがどのくらい普及しているか、広く利用されているかをみるために、人口10万人あたりの支給決定者数をみてみると、最も高い滋賀県と最も低い福井県との差が7.8倍となっています。これは都道府県間の比較であり、市町村間では当然さらに大きくなります。

地域差は、その地域の住民のサービス利用に対する考え方、サービス提供体制の整備の状況、市町村の支給決定の考え方などに左右されますから、地域差があることそのものを否定的にとらえることはできません。

しかしながら、他制度の似た指標として、介護保険制度の要介護認定者数でみてみると、やはり地域差は存在するものの、その差は1.7倍程度となっています。

このように考えますと、現在の地域差は必ずしも合理的な範疇(はんちゅう)とはいえず、また、今後、現在利用の進んでいない地域で新たに利用を始める障害者が増えてくることが予想されます(資料2)。

次に、ホームヘルプサービスの利用時間をみると、都道府県間では4.7倍の地域差があります。ただし、全身性障害者の利用する日常生活支援を除いてみると、地域は2.8倍まで縮小します。

資料2 人口1万人当たりの支援費ホームヘルプサービスの支給決定者数と介護保険の要介護認定者数の割合
図 グラフ

2 支援費制度と障害者施策の課題

支援費制度を施行して1年が経過しましたが、多くの課題が見えてきました。

(1)今後のサービスの伸びへの対応

すでに述べましたように、サービスに地域差があります。これは、障害種別にみるとさらに大きく、身体障害者のサービスと比べて、知的障害者や障害児の地域差はさらに大きいのが実情です。さらに支援費制度の対象になっておりませんが、精神障害者のサービスにも相当な地域差があります。

このようなことから、今後、全国的には大きくサービスが伸びていくのは間違いなく、とりわけこれからサービスを利用し始める方のニーズへ財政的に対応できる仕組み、サービスの急速な伸びに対応できる仕組みとすることが必要です。

(2)身近なところでサービスを利用できる体制

障害者を年齢別にみると、65歳以上の高齢者も多く、身体障害者の約6割、知的障害者の3%、精神障害者の約3割が高齢者となっています。

このように高齢の障害者の存在は、現実問題として、障害者施策と高齢者施策(介護保険のサービス)とが重なり合っていることを示しています。

他方、障害者福祉施策は、基本的に障害種別ごとになっていますから、それぞれサービスを整備することになります。しかしながら、市町村では、高齢者と比較するとサービスを利用される障害者の数は少ないことから、障害種別ごとに施設を建設するなどの対応が難しい場合が少なくありません。

このため、それぞれの市町村では、障害者にとって身近なところでサービスが利用できるよう、障害種別を超えた相互利用が進んでいるほか、構造改革特区制度における自治体からの提案として、高齢者のデイサービスセンターで知的障害者や障害児を受け入れるという提案がなされており、多くの自治体において実験的な取り組みが進められています(障害特性を踏まえたケアが行われるべきなのはいうまでもありません)。

現在、年齢や障害種別で縦割りになった制度となっていますが、利用者中心、地域中心、市町村中心で考えた場合、身近なところでサービスを受けられる体制や地域の実情に応じたサービス提供体制を整備する観点からは、年齢や障害種別で制度を分けておくことが合理的かどうか、再検討する必要が出てきています。

(3)就労支援

障害をもつ人の生活を支える観点からは、とりわけ成人期において、本人の働く意欲と能力に応じて就労できるようにすることが極めて重要となっています。

これまでも企業雇用や、あんま・はり・灸を初めとする開業に向けて取り組みが進められてきましたが、とりわけ企業雇用についてより一層の取り組みが求められています。

福祉施設を利用する障害者の4割から6割は企業で働きたいとの希望を持っていますが、その親は障害者本人よりも消極的であるケースが多く、また、障害者雇用に理解のある企業がまだ十分ではないのが実情です。このような結果として、福祉施設を利用する障害者のうち、就職を理由に退所する方は、利用者全体の1%程度にすぎません。

しかしながら、障害者雇用に積極的に取り組んでいる企業をみると、障害の種類にもよりますが、相当重度の障害者でもいわば企業の戦力として雇用しているケースも出てきています。

障害者の願いを実現するため、障害者を企業等で実際に働けるよう支援する福祉施設や企業へのサポートを強化して、雇用関係に基づいて働く障害者等を増やす施策がいっそう必要になっています。

(4)市町村における対応

支援費制度の実施者である市町村等からは、制度についての多数の要望が出されています。その主なものをあげますと、

  • 安定的な財源の確保
  • ケアマネジメントの制度化
  • 支給決定基準の設定
  • 三障害(身体・知的・精神)共通の枠組み(制度)
  • 各種サービスの提供条件・利用条件などの弾力化

といったものがあります。

これらは、制度の実施に責任を持っている市町村の切実な要望と受け止めています。

まず、サービスの利用が大きく伸びていく中では、現在の税財源のみに頼った財政システムでは、長期に安定的に制度を運営していくことが難しいのではないかということです。

また、障害者にとってより適切にサービス提供と生活を支援するためにはケアマネジメントをきちんと制度的に位置づけることが必要ではないかということです。

さらに、障害者のニーズに的確に応え、また、利用者間の公平を保つためには、支給決定基準を設けるべきではないかということです。

そして、地域の実情に合ったサービス提供をするためには、制度の垣根を越える必要があるのではないかということです。

3 今後の取り組み

(1)「三位一体改革」の大きな影響

現在、わが国では、地方自治体が主体的に取り組んだほうがよい事業の権限と財源は地方に任せるという地方分権の考え方に沿って、「三位一体改革」が進められています。

これは、国の補助金や負担金を減らして、その分地方自治体に財源(税源)を移して、地方自治体が住民と相談しながら行政を進める体制を作ろうとするものです。平成16年度から3年間で、国の補助金・負担金の約2割にあたる四兆円を削減することが決まっています。

このような中で、昨年秋には全国知事会と全国市長会からは、障害者福祉に係る補助金や負担金すべてを廃止してもよいとすることなどを内容とする提言が出されました。そして、今後このような提言を尊重して議論が進められます。

すでに述べましたように、サービスの地域差が大きい中で補助金等がすべて廃止され、地方自治体にゆだねられたらどのようなことが起こるのか、障害者福祉の行方を左右するこの問題について、大変な危機感をもっています。これは、支援費制度が施行された時にはだれも想定していなかった新たな事態なのです。

(2)介護保険の見直し

平成12年4月に施行された介護保険制度は、その法律の規定に基づいて、平成17年に見直しが行われることとなっています。その際には、制度創設時からの課題である障害者福祉施策との関係も議論の対象になってきます。

(3)今後の障害者福祉

すでに述べたさまざまな課題に対応し、支援費制度で示された地域生活支援、自己決定の尊重、利用者本位のサービス提供といった理念を発展させていくために、支援費制度が施行されてわずか1年ではありますが、三位一体改革や介護保険の見直しといった動きを踏まえながら、障害者施策の体系や制度の在り方について、社会保障審議会障害者部会や障害者(児)の地域生活支援の在り方に関する検討会で議論が進められています。

この問題は障害者自身に関わる問題であり、新しい展望を切り開くために障害者の方をはじめ、多くの関係者が議論に参加されることを期待しております。

(はざまりゅういちろう 厚生労働省障害保健福祉部企画課)