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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年5月号

ワールドナウ

オランダのソーシャルワークショップ再訪

松井亮輔

この1月28日から2月4日にかけての約1週間アムステルダム、アーネム、ユトレヒトおよびマーストリヒトのソーシャルワークショップ(以下、ワークショップ)および全国ワークショップ連盟(NOSW)などを訪ねた。筆者は、30年以上前の1972年5月にも1週間ばかりオランダ各地のワークショップを訪問している。したがって、今回の主な目的は、過去30年あまりの間に同国のワークショップがどのような変容を遂げたのか、その理由は何か、またワークショップはこれからどのように変わろうとしているのかなどについて、関係者からのヒアリング調査を通して知ることであった。

1 ワークショップの推移

オランダのワークショップは、1969年制定の「社会雇用法」に基づいて設置されたもので、同法では、それは「通常の条件で雇用機会がない人、あるいはその機会を得られる状態にない人のために、その人の労働能力をできる限り維持・回復させ、向上させること」を目的とした職場と規定されている。ワークショップで就労する障害者には、一般雇用の場合と同様、労働法規が適用され、最低賃金以上の賃金(最低賃金の100~315%)が支給される。福祉工場を除き、わが国の障害者授産施設の利用者は、基本的には福祉サービスの対象者と位置づけられ、労働基準法をはじめ労働法規の適用除外となっているのとは、大きな違いである(注1)。

1972年当時は、180か所のワークショップで約4万4000人の障害者が社会雇用されていたが、現在ではワークショップ数は92か所と約半減する一方、そこで社会雇用される障害者数は9万2000人(注2)と倍以上に増え、オランダの就業人口(2002年)約740万人の約1.2%を占めるまでになっている。これをわが国の就業人口(6446万人)にあわせ換算すると、約80万人にも相当する。

1972年には、ワークショップ1か所あたりの平均社会雇用者数が240人あまりであったのが、2003年にはその4倍以上の1000人(最少65人から最大6500人までの幅がある)にまで増えている。これは集約化を図ることで、ワークショップの経営効率や生産性を高めるねらいがあったと思われる(注3)。

図表:社会雇用る障害者数の推移(オランダ)
図 グラフ

社会雇用法は、これまで1989年と1998年の2回改正されている。同法制定当初は、ワークショップの収入不足分について、国90%、地方公共団体(以下、市)10%の割合で補助することになっていたのが、89年の法改正で、1.国からの補助金に上限(15億4000万ユーロ(約2002億円))が設けられ、不足分は市の負担とすること、および2.社会目標(ワークショップの待機者数、ワークショップ内外で就労する障害者の昇進、および一般雇用への移行数)による評価を導入すること等となった。

また、98年の法改正では、1.ワークショップで新たに社会雇用される障害者に対する第三者委員会による評価の導入、2.ワークショップ対象者についてより厳密な基準の設定(注4)、3.障害程度(軽・中度および重度)による補助金配分(注5)、4.一般雇用への移行を促進するため、ジョブコーチの支援による「援助付き雇用」の導入、ならびに5.社会雇用障害者の労働条件について、国(社会・雇用省)に変わり、市が労働組合と労働協約を締結すること等となった。

2 ワークショップの現状

現在ワークショップで社会雇用されている障害者約9万2000人のうち、約8万5000人はフルタイムで就労(週36時間労働)、そのうち約1万1000人はワークショップから企業に出向き、企業内で就労している。こうした企業内就労形態は、その企業に引き続いて雇用される可能性が高く、本人にとっても、また一般雇用への移行促進を図るワークショップにとっても好ましいことから、ワークショップで社会雇用される障害者のうち、企業の協力を得て、企業内で就労する者(企業内就労者)の数は、今後さらに増加するものと思われる。

なお、ワークショップで就労している障害者のうち、援助付き雇用、つまりジョブコーチの支援を受け企業に就職した障害者数(2003年)は、1200人である。

ワークショップで社会雇用されている障害者の障害種別内訳は、身体障害41%、知的障害33%、精神障害21%、その他(社会的障害とされるアルコールや薬物中毒患者および刑余者など)5%となっている。この構成を1972年と比べると、身体障害はほとんど変わらないのに対し、知的障害および精神障害の占める割合が7%近く増える一方、その他が6%近く減少している。

企業内就労者も含め、ワークショップの就労者が従事している生産・サービス作業内容は、ワークショップ内就労では金属、電子、繊維、組立・包装などの製造業関係が最も多く54.5%を占めているのに対し、企業内就労の場合、多様な仕事に従事していることから「その他」が58.1%を占め、最も多い。ワークショップ内就労および企業内就労とも次いで多いのは、土木・園芸、植栽・植林等の戸外でのメインテナンス作業で、同じく32%を占める。この対比からも明らかなように、ワークショップ内での作業は、製造業分野に大きく依存していることがわかる。

98年の社会雇用法改正で、新たにワークショップで社会雇用する障害者の少なくとも25%を一般雇用に移行させることが努力目標となったが、現在のところその移行率は、6~7%に止まっている。新たに受け入れる障害者も含め、ワークショップは、すべての就労者(職員も含む)について個別(能力)開発計画(POP)の策定を義務づけられている。POPは、今後ワークショップにおける障害就労者の一般雇用への移行を促進するうえで、有力な手段になると考えられる。

なお、一般雇用に移行した障害者で、企業での定着に失敗した者は、2年以内であれば、ワークショップへの再受け入れが保障されている。

一方、企業での障害者の採用を支援するため、98年補助金制度が設けられた。同制度では、新規に採用した障害者一人あたり1年目5455ユーロ(約71万円)、2年目3636ユーロ(約47万円)、3年目1818ユーロ(約24万円)の補助金が支給される。ただし、ワークショップから採用される障害者については、この補助期間は5年となっている。

筆者が今回訪問したワークショップの一つである、アムステルダム郊外のAMグループは、周辺の5市により共同設置されたもので、2004年2月末現在427人の障害者および長期失業者・(慢性疾患による)長期休職者116人を合わせ、全体で543人に訓練および就労機会を提供している。後者については、6か月間はワークショップ内で訓練を受け、その後6か月間はジョブコーチ(5人)の支援のもとに地域内の一般の職場で就労することになる。

AMグループの年間予算のうち、65%は国および5市(社会雇用障害者一人あたり2万4000ユーロ(約312万円))、残りの35%は、生産・サービス作業収入である。その主なものは、企業内就労者への企業からの支払い、クリーニング、ビルメンテナンス、園芸などで、従来収入の多かった印刷や下請け作業(包装・組立)等からの収入は、大幅に減少している。AMグループとしては、今後、生産・サービス作業収入が全体に占める割合を45~55%にまで高めることを目標としている。そのため、その質および生産効率を一般企業と競争できるレベルまで高めるべく取り組んでいる(注6)。

おわりに

ワークショップ数を減少させようという世界的な潮流にもかかわらず、オランダが社会雇用法制定以降今日まで、その規模を拡大してきた理由としては、1.「すべての障害者は、他の人びとと同様に、自分の能力に応じて雇用につく権利を有する。通常の条件下での適切な職場を一般労働市場において見出せない場合には、社会雇用によって(この権利は)保障されなければならない」という社会雇用法の目的に明示されているように、障害者も含め、「完全雇用」の実現が国是となっていること、また2.100%社会給付で所得保障をするよりも、働く意思と能力がある障害者については、社会雇用も含め、就労機会を提供することを通して所得保障をすることが、障害者自身の生活の質(QOL)からも望ましいと考えられていること等による。

しかし、同国でも企業内就労および援助付き雇用の導入、ならびに数値目標の設定等により、ワークショップから一般雇用への移行促進の強化や、近年の国および市の財政事情悪化等に対応して、ワークショップの生産性を高めることで、公的補助の占める割合を下げる方針が表面化するなど、これまでの拡大路線を修正する動きが強まってきている。こうした市場主義への傾斜により、ソーシャルワークショップの「ソーシャル」な役割の喪失を危惧する声もワークショップの現場から聞こえるが、オランダのワークショップは市場性と社会性のバランス、ならびに障害者および地域社会から求められるニーズにより的確に応えることを重視しながら、今後も着実に発展するものと思われる。

(まついりょうすけ 法政大学現代福祉学部)

1)オランダにおいても、社会雇用法制定前のワークショップは、わが国の授産施設とほぼ同様の状況であった。

2)社会雇用障害者のほか、運営管理部門および専門職などを合わせ、約8500人の職員が配置されている。

3)ワークショップは、社会雇用法に基づき国の補助を受け、市が設置する。運営の責任主体は市であるが、多くの場合、市はその運営を民間団体に委託している。市の数500で計算すると、5、6市が共同で1か所のワークショップを設置・運営していることになる。

4)社会雇用後2年目以降、ワークショップ対象者かどうか定期的に再評価し、対象者ではないと判断されれば、一般雇用または趣味活動などを中心とした活動センター(デイセンター)への移行をすすめる。

5)2004年現在の年間補助額は、中・軽度障害者一人あたり1万9019ユーロ(約247万円)、重度障害者一人あたり2万4091ユーロ(約313万円)である。ちなみに、社会雇用障害者の平均賃金は、2万2196ユーロ(約289万円)。

6)AMグループは民間団体であるが、施設長の任命は、5市で協議して行う。現在の施設長はワークショップの効率的運営を期待し、約1年半前民間企業から採用している。

7)ヨーロッパ連合(EU)の規定では、ワークショップへの官公需の優先発注は禁止されており、すべて競争入札が原則。