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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年6月号

評価と課題 障害者差別禁止法への一里塚

森祐司

1 はじめに

障害者・団体そして多くの関係者が1日千秋の思いで待ちに待った「障害者基本法の一部を改正する法律案」(以下「改正基本法」という)が今国会で成立する運びとなった。

この改正基本法が施行されることにより今後、障害者の人権保障が、飛躍的に進展するものと確信している。

2 戦後の十障害者福祉施策について

この機会を利用して、わが国の障害者施策の形成に大きな影響を与えたと考えられる十施策を振り返ってみたい。

(1)1949年身体障害者福祉法の制定

わが国の障害者福祉の根拠法である。

(1960年知的障害者福祉法・1995年精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)

(2)1960年身体障害者雇用促進法の制定

障害者雇用を「社会連帯の責務」との理念のもと本格的に障害者雇用施策が始まった。

(3)1964年東京・パラリンピツク開催

日本の「障害者観及び施策」を大きく変えた。

(4)1975年国連「障害者の権利宣言」

この宣言の延長が1981年の「国際障害者年」から「国連・障害者の十年」「アジア太平洋障害者の十年」「新アジア太平洋障害者の十年」へと展開された。

一方、障害者の権利保障面から、1990年「アメリカADA法」・国連「障害者の機会均等化に関する基準規則」採択へ、そして「障害者基本法」制定へと進展した。

(5)1979年養護学校教育義務制の実施結果、「就学猶予・免除返上闘争」は終結した。

(6)1959年バンク・ミケルセン等の「ノーマライゼーション理念」の普及。「国際障害者年」のテーマ「完全参加と平等」へ。

(7)1986年障害者基礎年金制度の創設

「費用徴収制度の導入」「父母・兄弟姉妹の扶養義務化」に対する反対闘争、翌年国は「扶養義務者」から外したので終結した。

(8)1993年障害者基本法への改正

1970年の心身障害者対策基本法を抜本的に変更して「三障害者・自立と社会参加・障害者基本計画策定・バリアフリーの促進・障害者白書・障害者の日・創設」する等、障害者福祉を大きく進展させた。

(9)1998年「精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律」

2001年「障害者に係る欠格事由の適正化等を図るための医師法等の一部を改正する法律等」一連の「差別用語・欠格事由の見直し」の改正を行った。

(10)2003年支援費制度「措置から契約へ」

「社会福祉基礎構造改革」のラストランナー。

3 改正障害者基本法の評価について

今回の改正基本法について、問題点も含めて述べてみたい。

第一に「基本的理念」(第三条)

「何人も障害者に対して、障害を理由として差別することその他の権利利益を侵害する行為を禁止する」この規定こそ「改正基本法」の魂。今後、「障害者差別禁止法」制定に向け大きく前進するものと確信し、高く評価する。

第二に「障害者週間」の創設(第七条)

「障害者週間」に行事などを通して「市民との連携」を期待する。

第三に「施策の基本方針」(第八条)

障害者福祉施策は、障害者が地域で自立した日常生活を営むことができるように配慮すること。この規定は、「新障害者基本計画」「新障害者プラン」の「施設」から「地域生活」へのシフト替えに対応するものである。しかし、残念ながら具体的施策は見えない。

第四に「障害者計画の策定」(第九条)

都道府県及び市町村に、「障害者計画」の策定を義務づけ、懸案事項の解決を高く評価する。

第五に「障害教育」に「交流と共同学習」の積極的な推進を期待する。(第十四条)

第六に障害者の地域の作業の場(小規模作業所等)への国及び地方公共団体の助成規定は画期的であり高く評価する。(第十五条)

第七に「難病等」への施策の推進が明記されたことは一歩前進である。(第二十三条)

第八に内閣府(現 総理府本府)に「中央障害者施策推進協議会」を創設。実際の運用を注目したい。(第二十四条~第二十五条)

第九に附則に「5年を目途に改正後の実施状況等を勘案して必要な措置を講ずる」と明記。このことは「障害者権利条約」の採択等により「障害者差別禁止法」の立法化を想定した規定であると理解している。

4 今後の課題について

今後「改正基本法」は大きく羽ばたき、まさに「障害者差別禁止法への一里塚」になるであろう。そのためにも国連での「障害者権利条約」が1日でも早く採択されることを心から祈願する。

条約の採択には、障害者・団体及び関係者の一層の精進と政府との協調、さらには国民全体の「障害者差別禁止」に対する理解と協力が必要である。

(もりゆうじ 日本身体障害者団体連合会事務局長)