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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年6月号

評価と課題 障害者等関係団体の結束でさらなる推進を

東山文夫

障害者基本法は、昭和45年に制定された心身障害者対策基本法を平成5年に障害者の自立と社会参加の一層の促進を図るため改正したものである。基本的理念として、障害者のあらゆる分野への活動に参加する機会を与えられるものとする旨が加えられたこと、法律の名称が「障害者基本法」に改められたものである。

平成5年改正の背景には、「完全参加と平等」を世界共通のテーマとした「国連・障害者の十年」の終了、及びこれに引き続き、さらにアジア太平洋地域の障害者施策を推進することとした「アジア太平洋障害者の十年」が国連ESCAP総会で決議された。

わが国においても、平成5年3月の中央心身障害者対策協議会の意見具申「国連・障害者の十年以降の障害者対策のあり方について」を踏まえた「障害者対策に関する新長期計画―全員参加の社会づくりをめざして」を障害者施策推進の基本指針として策定されたところである。

今回の基本法改正の背景にも、平成5年改正時と同様の障害者を取り巻く社会経済情勢の変化が伺える。「アジア太平洋障害者の十年」の最終年である平成14年のESCAP総会において、わが国の主唱により「アジア太平洋障害者の十年」をさらに10年延長することとなったこと。平成15年4月から障害者施策が措置費制度から事業者との対等な関係に基づき、障害者自らがサービスを選択し、契約によりサービスを利用できる仕組みである支援費制度に移行したこと。平成15年12月に閣議決定された障害者基本計画や障害者プランの推進、国連障害者の権利条約の制定への動き及び障害者の権利にかかる国内法整備の実現へ向けた動き等があげられる。

改正法の評価

基本的理念に障害を理由とした差別の禁止及びその他の権利利益を侵害する行為の禁止規定、国及び地方公共団体の障害者の権利擁護及び差別防止の規定ならびに国民の責務としても人権の尊重及び差別防止の規定が条文に明記されたことは、基本的人権の尊重の観点はもとより、国連の権利条約の制定への動き、将来への国内法整備への布石として評価される。

また、都道府県障害者計画及び市町村障害者計画の策定が努力規定から義務規定に改正されたことは高く評価される。特に、市町村は、地域住民に最も身近で行政サービスを提供する第一線機関であることから、障害者施策についても、自ら提供するサービスと国や都道府県、民間の提供するサービスを活用して、障害のある人もない人も地域の中でともに暮らしていける社会を作るための役割を果たすことが期待されている。

障害者基本計画の策定に当たっては、地方障害者施策推進協議会や障害者等関係者の意見を聴くことは当然であるが、多くの障害者施策の実施主体が市町村にあることから、計画の実施に当たっては、財政事情や実施体制の整備状況等の諸事情があるにせよ、市町村格差を生じないよう国による進捗状況の調査及び都道府県との密接な連携の下に着実な実施が求められる。

難病や慢性疾患を障害者の範疇に含め、法の対象にしてほしいとの要望があるが、前回改正時の参議院附帯決議からして当然であろう。障害者に含めるか否かについては、種々議論があろうと思われるが、その後における国の障害者基本計画や今回の改正法で、難病等の調査、研究の推進及びそのために日常生活上または社会生活上制限を受ける者に対する施策の推進規定が創設されたことは、一歩前進と受け止められる。今後とも、その実施状況について当事者及び関係団体は十分見守っていく必要がある。

今後の課題

今回の基本法改正は、近年の障害者を取り巻く社会経済情勢の変化等に対応し、改正されたものであるが、具体的な改正内容等について、各政党とも障害者団体から意見を求め、また各団体からも要望が出され調整されてきた。障害者及び障害者団体等が政策の策定段階に直接参加することは、今後の障害者施策を推進していく観点からその意義は大きい。

今後とも、障害者及び障害者関係団体等が結束し、基本法を中心とした福祉、医療、年金、教育及び就労等の各分野における法制度の整備及び実施状況等を十二分に見極め、適宜、行政に意見具申していく必要がある。特に、三位一体の行財政改革が進行する中において、障害者施策が後退しないよう各障害者団体においても、個々の障害種別にこだわらず、共通する分野はもちろんであるが、お互いの障害を理解し、密接な連携の下に法律の目的達成に努力していくことが望まれる。

(ひがしやまふみお 日本障害者リハビリテーション協会事務局長)