音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年6月号

フォーラム2004

ACT―J(包括型地域生活支援プログラム)の活動1年をふりかえって

土屋徹

はじめに

本誌の昨年9月号「フォーラム2003」『ACTは果たして日本の地域精神保健福祉活動の救世主と成り得るのか』という題で、ACTの紹介とACT―Jについて触れられる論文がありました。各方面から期待と興味をもたれつつ始めたACT―Jプロジェクトについて、昨年のフォーラムの続編ということではありませんが、この1年間の臨床活動と今後の課題等について書いていきたいと思います。

ACT―Jプロジェクトの概要

このプロジェクト(主任研究者:国立精神・神経センター国府台病院、塚田和美)は厚生労働省こころの健康科学の助成を受け、国立精神・神経センター国府台地区を中心として臨床チームと研究チームの2つで構成されています。臨床チームは国府台病院内にオフィスを借り、国府台病院に入院をした患者さんのうち、一定の基準を満たした方々にサービスを提供しています。2003年5月からサービスを始め、現在では約40名の方々がACT―Jを利用しています。

私たちACT―J臨床チームは、看護師・医師・精神保健福祉士・作業療法士・ソーシャルワーカー・心理士・リハビリテーションカウンセラーなど、多職種のスタッフで構成されています。スタッフはそれぞれの専門やそれまでの経験を活かしながらCM(ケースマネージャー)として利用者と関わりを持っています。研究チームはいくつかの研究課題をもち、利用者やそのご家族、スタッフなどさまざまな方面に対して調査を行っています。

ACT―Jの特徴

私たちの取り組みはACT―J(Assertive Community Treatment Japan)と呼ばれています。ACT―Jの取り組みの特徴について、いくつか紹介したいと思います。

1.スタッフの構成

諸外国のACTには薬物の専門家や就労の専門家がチームに入っていますが、ACT―Jでは薬物の専門家は現在は参加していません。就労の専門家についてはACT―Jでもより多くの利用者を就労へ結びつけられるようにと考え、2名のスタッフを確保しています。今後はコンシューマースタッフやご家族をスタッフとして迎え入れるように準備を整えています。

2.入院中からの関わり

諸外国では入院日数が短いためACTチームは退院後からの関わりが多くなります。そのため利用者と関わりを持つときには退院後の生活の準備ということではなく、利用者が生活している環境や状況をそのまま受け入れることになります。薬と上手くつき合うことができずついつい怠薬がちになってしまう方々には、毎日のように薬を運び服薬を促すこともあるでしょう。また、住居を確保できない方々は路上等で生活していくための援助を考えていかざるをえないと思いますし、お金や食事を得ることのできない方々へは、その日の食事をどのように確保するかということから始まるでしょう。しかし現在のACT―Jチームでは、路上での生活やその日その日の食事を求めるためにサービスをしていくということはありません。住居の確保や生活費を得るための援助などは入院中から行うようにしています。

3.家族支援の大切さ

利用者は退院後にご家族と同居をしたり援助を受ける方が非常に多いということ、また反対に退院や同居を拒むご家族が多いというのもACT―Jの特徴です。病気の再発にご家族の関わりが関係することはご存知だと思いますが、実際に臨床を行っていくとご家族へのサービスも多くなり、退院前にご家族が本人を迎え入れられるように関わりをもちます。さらに退院後も家族同士の集まりをもち、訪問した際に病気や薬の効果・副作用などの情報を伝えたり、利用者との関わりについてご家族と一緒に考える機会を設けています。

4.電話相談の利用

電話対応についてはACT―Jを始めた当初、夜間の電話対応や救急以外の対応などチーム内でさまざまな議論がありました。しかし、実際には利用者だけでなくご家族からの相談もあり、また利用者からは夜間の電話相談も多くあります。そのため、24時間いつでも電話で対応ができるような体制をとっています。

5.主治医との連携

ACTではチーム内の精神科医が主治医権をもっており、チーム内で直接の判断や方針を一緒に立てていくことができます。しかしACT―Jでは国府台病院に主治医がいることが多いため、訪問での状況や緊急時などにはいち早く主治医と関わりを持つようにしています。その時には主治医の方針だけでなく私たちACT―Jチームの方針なども提示し、より積極的に関わりを持つように心がけています。

福祉的な側面からの支援について

ACT―Jでは利用者が地域で生活をしていくために必要な援助を中心にプログラムを考えています。医療的な側面だけでなく福祉的な側面への関わりも重要課題の一つです。フォーラム2003でも住居や所得保障のサービスということが重要視されていましたが、私たちACT―Jチームでも住居に関する支援や所得保障への関わりなどは大切な事と考えており積極的に関わりをもつようにしています。

この1年間をふりかえって

私たちACT―Jチームにおけるこの1年の成果という点では現在の時点では公表する段階ではありませんが、この1年間で学んだことはたくさんあります。一つは利用者の多くは生活していくための力を持っていることが多いということです。私たちが対象としている重症精神障害者というのは、病院から退院したり地域生活を維持していくということが困難であるというイメージがありますが、利用者の何人かは一人暮らしをしていたり家庭内でも役割を持ちつつ生活を維持しています。私は病院内での援助が中心でしたので、その人自身が生活している場をみることが少なかったのですが、ACT―Jに参加して実際に訪問を繰り返すうちに病院以外での利用者の姿をみることができるので、よりその人自身の生活力をみることができるようになりました。

二つ目には家族支援の重要さです。先にも書きましたが、利用者の病状の悪化にはご家族の関わりが非常に重要な位置を占めるということを実感しました。ACT―Jではそのようなご家族に対して家族教室を開いたり、ご家庭を訪問しての心理教育的な関わりを大切にしています。

三つ目には地域での連携の大切さです。私たちACT―Jは保健所や市役所などの行政や地域の社会資源の利用について密に連携をとっていくことが大切だったのですが、実際には出向くことも少なく、何例かの利用者への関わりを通してやりとりをしているのが現状です。地域との情報の共有化など大切なことがおろそかになってしまいました。今後は利用者とのやりとりを一緒に共有することから改めて行っていきたいと思っています。

今後の課題と取り組み

ACT―Jの活動も2年目に入りました。今後の取り組み課題として、次のようなことがあげられます。一つは、利用者やご家族が満足するきめ細かいサービスを引き続き提供していくことです。次はACT―Jが地域に受け入れられることです。この取り組みがよい成果を上げるには、地域住民や関係機関の方々のご理解やご協力が重要です。私たちも積極的に働きかけていきたいと考えています。またスタッフ自身に目を向けると「燃えつきの予防」などの点も避けては通れない事だと思っています。しかし、私たちACT―Jチームは目の前にいる利用者やご家族と共に地域での生活を維持していくことを考え、今後もサービスを展開していくことになるでしょう。

このACT―Jの取り組みが日本でのすべてということではありません。日本で初めて行われたACTという取り組みは国府台病院を中心として行われていますが、今後は運営主体や地域などさまざまな条件によって変化していくと思いますし、利用者のニーズや社会的な動きに合わせてこのACTというシステムが変化し、活動していくことになると思われます。

(つちやとおる 国立精神・神経センターACT―Jプロジェクト臨床チーム チームリーダー)