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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年6月号

ほんの森

松矢勝宏監修、養護学校進路指導研究会編
『大学で学ぶ知的障害者 ―大学公開講座の試み』

評者 中野敏子

市民に開かれた大学公開講座は、今日、地域住民への貢献として各地で広く実施されている。対象者を限定した公開講座としてはシニア向けなどが先駆けとして見受けられる。本書によると、知的障害のある市民を対象限定した大学の公開講座としては初めての試みであり、しかも、大学主催の予算化され出発したところに特徴があるとのことである。もちろん受講者は受講料を支払う。1995年に発足した東京学芸大学の大学公開講座『自分を知り社会を学ぶ』の9年間の取り組みが、公開講座の記録、講座活動案、評価としての受講者の声を中心にまとめられている。

執筆者はほとんどが養護学校教諭である。講座を始めるきっかけは、養護学校関係者による「進路学習の実践研究」である。「学ぶ意欲の知的障害者がいて、そこに大学があり、そこに学びを支援する人々がいるなら、知的障害者が大学で学ぶことに何ら障害はない」「後期中等教育に接続した高等教育(専門教育)の必要を一概に要求している訳ではない。つまり修学年限の延長を単純に主張しているわけではない」「知的障害者にとって最も重要な学びの場は、社会参加そのものである」(平井、176頁)、という課題意識から、知的障害のある人へ、「青年学級」を超えた「大学」での生涯学習提供を提案する。本書からは、教育関係者が「進路」を見通したときの「模索と葛藤」の側面が、「生涯学習」という形を追う過程を通して語られているという印象を受けた。

「障害のあるなしに関係なく、すべての市民が共に参加するユニバーサルタイプの生涯学習の場を創出する」(松矢、17頁)ことこそが、求められるのだろう。本講座の受講者が関心を寄せる「教養科目」には、だれもがもっている「知る満足」に応える「事実」があると言える。

現在、教育や社会福祉、労働領域で「社会参加」を促進するために知的障害のある人に準備されたさまざまなサービスには、何を提供することが求められているのか、あらためて考えさせられる。地域生活支援が注目され、個別教育移行支援計画や個別支援計画などの論議が盛んであるが、「社会参加」の位置づけひとつで「生涯」の見方も変わってしまう。監修者が触れている「オープン・カレッジ」という取り組みも合わせて、知的障害のある人の学ぶ機会の保障という課題を手がかりに論議を深めていきたいものである。

(なかのとしこ 明治学院大学教授)