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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年9月号

ここまできた21世紀のクルマ

鎌田実

体に障害をもっていても健常者並みに動き回りたいという欲求を満たすために、自動車運転の果たす役割は大きいと考えられます。また、身内の障害者・高齢者を連れての外出にも自動車の存在は欠かせません。本稿では、いわゆる福祉車両と呼ばれているクルマの現状と今後の展望について、筆者の私感を述べたいと思います。

1 福祉車両の種類と動向

2000年の交通バリアフリー法の制定により、公共交通機関のバリアフリー化が急速に進められることになりましたが、移動のすべての動線において障壁が取り除かれないと、障害者の移動の困難さは残ります。公共交通機関が貧弱な地方の地域ではもっぱらマイカー移動が中心であり、障害者の移動における自動車の果たす役割が大きいことがわかります。

このようなニーズに応えて、福祉車両と呼ばれる自動車があります。約30年前から、下肢が不自由でも補助装置により運転ができるようにする自操車、車いす使用者を移送するためのリフト付き車両が使われるようになりました。ゴールドプランの計画や家族介護目的の個人ユース車両の登場などが90年代になされ、福祉車両の急速な伸び(10年でほぼ10倍)が見られます(図1)。

図1 福祉車両の市場動向
図1 棒グラフ
注:

  1. メーカー扱い完成車として販売されたもの。
  2. 「運転補助装置付車」については、架装メーカー扱いを含めると5,000台程度と推定される。
  3. 小型車には、乗用車と商用車(バンタイプ)が含まれている。
  4. その他は、個別対応、ストレッチャー、後席回転シートなど。
  5. 定員11人以上をバス、定員10名以下はマイクロバス(小型車)とし、車両法区分のバスとは異なる。
  6. 2003は推計値。

日本自動車工業会調

福祉車両の種類としては、個人ユースの自操車と介護車、業務ユースの送迎車があり、年間4万台規模になってきています。最近は各カーメーカでも開発に力を入れるようになり、新型車の登場の際に福祉車両を最初からラインナップに用意したり、専門の展示場を設ける例もあります。

2 自操車の概要

自操車のほとんどが、足で操作するペダルを手で動かせるようにする補助装置を付けた車両です。ペダルを機械的に押せるように手で操作ができるレバーが付いており、手前に引くとアクセル、向こうに押す(あるいは下に下げる)とブレーキになります。クラッチ操作は大変難しいので、AT車がほとんどです(海外ではクラッチとシフト操作を可能とする工夫がなされた装置もあります)。片手を足代わりに使うので、ハンドル操作を片手でできるようにグリップを付けています。

車いす使用者が、車の座席に乗り移るのも大変ですが、移乗動作をしやすくするような座席形状のものや、車いすをたたんで格納しやすくするような車両構造・付加設備等もいくつか提案されています。

電動車いすを使用する重度の障害者には、事実上運転は認められていませんでしたが、海外では、車いすのまま車に乗り込み、そのまま運転席になり、ジョイスティックで運転ができる自動車が開発されました。その車を日本に導入したいと市民団体が活動を起こし、デモンストレーションを行いました(本誌の22頁参照)。彼らの活動により、当時の運輸省(現 国土交通省)、警察庁では、車いすを運転席とするための固定の条件、ジョイスティックを運転補助装置として扱うこと、運転免許の取得条件などについて、新たな見解を示し、電動車いす使用者の運転の可能性を開きました。

サリドマイドのような上肢障害の人でも運転を可能とするために、足だけで運転できるような補助装置も開発されました。フランツシステムと呼ばれる装置は、足を前後に動かすことでハンドルを見事に回すことができます。ドアの開閉も足で操作できるものがあります。

3 介護車の概要

介護車の一つとして、ワンボックス車やマイクロバスの後部に車いすリフトを付けたタイプの車が以前よりあります。ベースがルートバンと呼ばれる商用車だと乗り心地が良くないと言われていましたが、改良されてきています。車内が窮屈だったのが、ハイルーフ化して、窓を設けたりしています。リフトも単なる上下移動だけだったのが、そのまま車内にスライドするタイプも開発され、スムーズな乗降を実現しています。

個人ユースの車では、リフトは大げさであるので、後部を低床化して、スロープで車いすのまま乗降するタイプが開発されました。機械に頼らず人手で乗降できるところが好評ですが、勾配を押さないといけないので、負担軽減や逆走防止のための工夫がいろいろなされています。軽自動車のこのタイプは車両価格も安いので、普及が進みました。

介護車のもう一つのタイプとしては、乗降を容易にするために、車の座席が可動のものがあります。神奈川県立総合リハセンター等での検討で90年代の前半にその種の車両の効果が示され、座席が回転するものや回転した後、外に出て下がってくるものが各社から発売されるようになりました。回転だけであれば手動で可能ですが、座面が下がってくるものは電動でないと無理で、そのタイプは価格も高くなります。しかし、要介護高齢者を車いすから座席に移乗させて車に乗せるには、介護者に相当の負担がかかりますから、この種の車のありがたみは絶大です。助手席を回転シートにするには、Aピラーと呼ばれる支柱と頭の干渉を避けなければならず、制約が多くありました。そのため、ミニバンにリフトアップシートを付けたものは2列目シートを対象としていました。しかし、運転者との顔を合わせた会話が可能なように助手席へというニーズが市場から寄せられ、助手席シートを対象としたものも後から追加されるようになりました。

車いすから座席への移乗を省略するため、車両の座席がそのまま外へ出て車いすになるタイプや、さらにモータが付いていて電動車いすになるタイプも開発されています。

4 今後の展望:21世紀のクルマへ

自操車では、より多くの障害者が、より容易に自動車運転を可能とするような技術開発が今後の課題です。そのいくつかを以下に示します。

車いすから座席へ移乗し、車いすを折りたたんで格納するというのは大変な動作であり、近距離移動で頻繁にその動作をするのは苦痛です。もっと容易にその動作ができるには、車両の間口の拡大が有効です。車いすの格納を容易にするために後部座席のドアをスライド化したものがありますが、ベース車そのものがセンターピラーが無いとか間口が大きい等であれば、窮屈な姿勢で車いすをお腹の上を通らせる必要がなくなります。さらに、車いすのまま乗り込めてしまえれば、そのまま運転席になるにしろ、車内で移乗するにしろ、雨の日の移乗動作によるずぶ濡れが回避できたり、交通量の多い道路での危険を縮小することができます。

このように車両構造の空間的余裕を増すことで、車いす使用者にとって使い勝手の良い車両がめざせますし、これは健常者にとっても便利になると言えます。最近は、ピラーレス構造や大型1枚スライドドアの低床・高屋根車も登場してきており、さらなる展開も期待されます。

筆者は、横浜のデザイン会社と共同で、車いす使用者の近隣移動を容易にするため、車いすのまま運転ができる1人乗りの超小型電気自動車を開発しました(図2)。車の使い方の割り切りで、このような1人乗り車でも十分な移動ニーズはあるものと考えています。このプロト車は仮にKappo2(高齢者向けプロトを「活歩」〈闊歩の門構えを取った〉と名付けたものの第2弾)としていますが、筆者はpをsに置き換えて「滑走」(障害者でも滑るように走れる)という名前もよいと考えています。

図2 車いすのまま運転できる超小型電気自動車
図2 写真

一方、障害者でも格好よくスポーツカーを乗り回したいというニーズがあります。元レーサーが手動補助装置付きの車を運転しているところのCMが人気を博し、各社からイメージリーダー的存在としてスポーツカーの補助装置付きがHCR等に出されました。車いすをどう格納するかなど課題もありますが、障害者の活動が広がるのをもっと伸ばしていきたいと思います。

運転操作系に関しては、既存の装置は運転補助装置でしたが、今後はベース車の操作系装置もバイワイヤといわれる電子制御技術により、従来のハンドル・ペダルによる運転から変わってくる可能性があります。そうなれば運転席周りの自由度は格段に広がり、ジョイスティック操縦が一般的になるかもしれません。すると、障害者用補助装置という概念そのものがなくなるでしょう。

介護車でも、技術の進歩により、いろいろな展開が期待されます。これまでは、高齢者・障害者が車に乗り込むのが大変なので、座席が外に出てくるタイプが開発されました。低床で間口が広い乗降口が用意されれば、容易に乗り込めるようになるかもしれません。最近の新型車で、床高30cm、車内高1.39mというのがありますが、ニールダウンで段差15cm程度になればいろいろな可能性を広くと思われます。

終わりにあたって、3点ほど付記したいと思います。

一点目は安全に対する配慮です。自動車に乗るということは、事故等の衝撃に対して大丈夫なような準備が必要です。3点式シートベルトをきちんと締めること、車いす固定をきちんとすることは必須ですし、20Gと言われる強度規準を満たす車いすでないと安全を担保できないことを十分周知することが重要です。

二点目は中間ユーザー(PT、OT)の役割です。これまではどちらかというと屋内での生活を実現するためにリハの専門家は携わってきました。今後は障害者も高齢者も外出してQOLを高めることが重要と考えられ、自動車に乗って移動するということに関して、中間ユーザーの方々にもっと関心を持っていただき、車両開発等に発言してほしいと考えています。

最後は社会の認識です。たとえば、障害者用駐車スペースがうまく運用されていない等の問題など、社会としてノーマライゼーション実現のために改善しないといけない問題があり、国民一人ひとりの意識の改革も必要と考えられます。

(かまたみのる 東京大学大学院工学系研究科教授)