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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年9月号

私の車紹介

国産軽自動車の改造と運転補助装置

米津知子

私の障害は、2歳8か月の時に罹ったポリオ(脊髄性小児マヒ)による下肢マヒです。右足には全く力がなく、6歳の時から長下肢装具を付けていますが、30歳を過ぎるまでは体力も十分で、徒歩と電車でどこへでも行きました。でもポリオの経験者は、全員ではありませんが、罹患して数十年経ってから、新たな筋力の低下や痛みなどを発症することがあります。ポストポリオ症候群(PPS)と言います。私も7年前、49歳の時に、マヒはないと思っていた左足の筋力が急に低下し、PPSと診断されました。現在は右足の装具に加えて、杖と電動車いすも使っています。

ポリオを経験した筋肉は、その力の範囲で適度に使ったほうがいいのですが、使い過ぎると逆に症状を悪くします。今ある筋力と生活の幅、その両方を保つために、私は外出の方法も体調や出先の状況で変えています。体調が良くて短い距離なら歩く。遠くなら車で行き、着いた先で歩くこともあるし車いすを使うこともある。車いすで電車に乗る日もありますが、車は最もよく使う移動手段です。

運転免許は22歳で取りました。左足だけでペダルを操作する、オートマチック車限定です。長い距離を歩くのが辛くなった40歳以降、自分で車を持って日常的に運転するようになりました。今の車を買ったのは97年。PPSの症状を自覚し始めた頃でしたから、新しい車は電動車いすを積み込めるものがいい、その操作も自分一人でできるようにしたいと考えました。複数の自動車メーカーから資料を取り寄せた結果、既製品ではなく、三菱の軽自動車ミニカトッポを改造することにしました。その後、多くの問題が指摘された会社ですが、当時、障害者自身が運転する車の改造に熱心な営業マンがいて、自分に合った車が造れそうだと思ったからです。その人が、各地の機械メーカーがもつ技術を紹介してくれ、私の希望に沿って組み合わせました。

改造は次のようなものです。1.後部座席を外して床を新設、車いす固定装置を取り付け(運転をだれかに頼めば、私は車いすに座ったままの乗車も可能。そのために天井の高い車にした)、2.後部ドアの内側に、二つ折りしたスロープの取り付け(スプリングの力で、出し入れは軽い)、3.後部の車高を下げる装置の取り付け(段差を減らしてスロープの傾斜を緩くする)、4.アクセルとブレーキを腕で操作する、運転補助装置の取り付け。

車いすを下ろすスロープは全長162cm。傾斜も緩い
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2つに畳んだスロープ。ドアの裏のバーは手すり
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床中央の車いす固定装置は、車いす底部に付けたパイプを自動的に掴んで固定
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私は外出先で、運転席から車の後ろまで歩き、後部ドアを開けて車高を下げ、スロープを延ばして、電動車いすを運転して積み降ろします。自分が座ったままでも、自分は下りて車いすだけの積み降ろしも、どちらも可能です。スロープを上り下りするために、後部ドアの内側に手すりも付けました。

運転補助装置は、弱くなった左足の助けになりました。ペダル操作は足と腕どちらでも有効なので、慎重な運転を要する場面ではペダルは左足で踏み、ハンドルは両手でしっかり握ります。足が疲れたら腕だけで運転し、腕が疲れたらまたペダルを左足でと切り替えることで、疲労を分散できます。

この車のおかげで、長い時間歩けなくなってからも、私は行動範囲を狭めることなく暮らしてきました。でも、課題も感じています。近頃は両腕の力も落ちているため、運転補助装置の操作が辛い日があります。もっと少ない力で使える機種がほしくなりました。また、将来は車いすのまま運転できる車もと、考えています。今使っている車の改造には、自動車本体の価格に近い費用がかかり、車検も2年おきです。私には必要なことと割り切りましたが、車の購入時に運良く臨時収入があったからできたことでもありました。

障害をもつ人の身体と生活には個人差が大きいので、それぞれに応じる工夫や改造の技術がたくさんできて、それをもっと気軽に使えるようになればいいなと思います。

(よねづともこ 東京都在住)