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「ノーマライゼーション 障害者の祉」 2004年9月号

わがまちの障害者計画

武蔵野市長 土屋正忠(つちやまさただ)氏に聞く
「自助・共助・公助」の精神で住みよいまちづくり

聞き手:田所裕二(たどころゆうじ)
(財団法人全国精神障害者家族会連合会事務局長補佐、本誌編集同人)

▼武蔵野市では、「高齢者保健福祉計画」「介護保険事業計画」「障害者計画」を包括した『武蔵野市福祉三計画』を総合策定されました。これは他の地域に先駆けた取り組みではないかと思うのですが、この福祉三計画に至る経緯とその目的についてお聞かせください。

皆さんすでにご存知のとおり、近年では介護保険制度や支援費制度の導入など福祉を巡る状況は大きく変化をしています。また、武蔵野市では障害のある市民の約60%が65歳以上であるという特徴から、従来の対象者別の福祉サービスの提供だけでは十分な対応がしきれないことを予想していました。そこで、高齢者福祉、障害者福祉、介護保険を総合的な観点から検討を重ね、「武蔵野市福祉三計画」を作りました。この計画がめざすものは、すべての市民が個人として尊重され、住み慣れた地域で自立したいつまでも安心して暮らせる地域社会を実現することです。

武蔵野市では、平成元年に福祉改革を行いました。「福祉」の範囲を障害者、高齢者、保健医療として「福祉保健部」を作り、子どもなどの施策は、福祉、教育、子育て、女性の自立などの多様な視点から「児童女性部」とし、行政区分を新たな視点で見直したことが最初の試行と言えるかもしれません。当然子どもの分野においても平成3年に全国で初めて「0123子育てコミュニティ」という先駆的事業を立ち上げるなど、計画は「子育てプラン武蔵野」というように別立てにしました。


地図

東京都武蔵野市基礎データ

◆面積:10.73キロ平方メートル
◆人口:131,149人(平成16年4月1日現在)
◆障害者の状況(平成16年4月1日現在)
身体障害者手帳所保有者:2,883人
(知的障害)療育手帳保有者:732人
精神障害者保健福祉手帳保有者:344人
◆武蔵野市の概況:
東京都特別区の西部に位置し、区部と多摩地区の接点にあたる。教育や福祉、緑豊かな住宅街、商業、金融、レジャー、文化、スポーツ、健康、情報など生活密着型多目的機能を併せ持つ生活核都市。
◆問い合わせ:
武蔵野市福祉保健部障害者福祉課
〒180―8777 武蔵野市緑町2-2-28
TEL 0422―60―1904
FAX 0422―51―9239

▼今回策定された「第2期障害者計画」の特色は、どのような点でしょうか。また、武蔵野市はいろいろな点で先駆的な事業が多いと伺っていますが、「障害者計画」に絞って『これはぜひ紹介したい』というような点がありましたらお聞かせください。

今回の計画の特色は、障害のあるすべての市民が自らの選択に基づく多様な生活スタイルを確保して、地域で自立した生活を営み、安心して暮らし続けることができるよう、さまざまな福祉メニューを用意したことです。

武蔵野市の障害者施策は、昭和55年(1980年)に障害者福祉センターをいち早く開設しました。このセンター設立の経緯ですが、1975年頃、車いすの人や肢体不自由の人など、みんなまちに出ようという運動が起こりました。そういったことから地域に小規模作業所ができ、その小規模作業所を受け止めたのが障害者福祉センターだったわけです。

平成5年に障害者福祉の拠点施設としての障害者総合センターを開設しました。複合型施設は他市に先駆けた取り組みでした。現在では、障害者総合センターを中核として、小規模授産所、ショートステイ、グループホームなど、在宅生活に必要なサービスを市民に提供しています。

障害者総合センター
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それから、平成11年(1999年)から、ショートステイ事業を行っています。これは24時間365日いつでもどこでもがキャッチフレーズで、武蔵野市単独事業として実施しています。事業所は2か所あって、運営はNPO法人に委託しています。利用者のニーズに応じて、いつでも使えるもので常にフル稼働をしています。

その他に軽度障害から重度障害の人にも移動の自由を確保しようということで、「ムーバス」「レモンキャブ」「リフト・タクシー」の事業があります。「ムーバス」は、今でこそ全国各地で目にすることが多くなりましたが、全国で最初のコミュニティバス(ワンコインバス)です。現在4路線で運行をしています。「レモンキャブ」は、障害者・高齢者専用のタクシーです。武蔵野市が商店主などに車を貸与し、運行を委託しています。ドア・ツー・ドアの移送サービスで、電話一本で自宅まで迎えに行きます。ムーバスより小回りがきき、料金は30分800円、現在9台が運行しています。ハンディがあればだれでも会員になれます。年会費は1000円で、現在の会員は753人です(7月30日現在)。年間およそ2万人の利用があります。それでも、ランニングコストは年間900万円程度に収まっています

もう一つ武蔵野市の特色は、自閉症児の統合教育を行うことで全国的に有名な「武蔵野東学園」があることです。そのため、全国からの転入者が多く、知的障害者の比率が他市よりも多くなるため、それに応じた施策を実施しています。その中でも、「知的障害者探索事業」は他に類を見ないのではないでしょうか。これは、GPS(=Global Positioning System/現在地球を周回している27個の衛星からの電波によって常に精度の高い測位ができるシステム)を利用して、知的障害者が道に迷ったときに現在地を探し出すというものです。

武蔵野市は、縁あって板山賢治氏、調一興氏、丸山一郎氏、柴田洋弥氏など、今では障害分野の大御所的な皆さんに早い時期から関わってもらえていたことが、このように次々と斬新な事業に取り組めた理由でもあります。

ムーバス
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レモンキャブ
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▼来年以降、「福祉三計画」の見直しが予定されていますが、障害者施策全体に対する抱負をお聞かせください。

障害のある人もない人も、住み慣れた地域で自立した生活を過ごすことができることを市民は皆望んでいると思います。国の補助金削減や財政的に厳しい状況の中で、地方行政ができること、障害者やその保護者ができること、そして地域の市民がどのように協力して障害者にとって住みやすいまちにできるのか。それぞれの立場で、「自助」、「共助」、「公助」の精神で、すべての市民が住みやすいまちづくりをめざします。

私は「心のありよう」というのは非常に大切なことだと思っています。行政としては市民の方々に必要なサービスをすべて担えればいいのですが、実際には不可能です。私たちは福祉の概念として「良福祉中負担」といっています。良質の福祉を中くらいの負担でやろうということです。その一つの例が、ショートステイ事業やレモンキャブのような事業です。これはNPOや商店主など多くの民間の方々の協力があってはじめて市民のためのサービスができるのです。

そのためには、サービスを提供する側は「奉仕をさせていただいている」という気持ちを、サービスを受ける側は「感謝」の気持ちを、常にもつことが大切だと思っています。

▼最後に、本論から外れてしまいますが、一昨日(7月26日)の朝日新聞紙上で、「介護保険制度と障害者福祉制度の統合に反対する」という意見が大きく掲載されていましたが、これについて少しお話をいただけませんか。

私は、障害者福祉は保険料を払わないとサービスを受けられないという社会保険方式になじまず、国の責任による税金で支えるのが当たり前であると考えています。保険というのは給付と負担の関係がはっきりしているから成り立っています。20歳から64歳までの障害発生率が、精神障害を除けば2%に過ぎないうえに、給付を受ける可能性が限りなく低い20歳代若者に保険料を払ってほしいとは言えないのではないでしょうか。

支援費制度の補助金が足りないと言っても、それは予算編成の問題であり、いきなり制度論に結びつけるのはおかしいと思います。福祉サービスを向上させるために税額を上げたいと主張されたほうが、すっきりするように思いますね。

▼従来の縦割りな考え方から踏み出し、ライフステージを基盤とした使いやすい独自サービスの提供や、民間委託型の思い切った支援策など、本当にユニークな事業がたくさん行われていました。これからも、市庁舎正面に掲げられた「福祉宣言都市」を地でいくまちづくりを進めてください。ありがとうございました。