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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年9月号

フォーラム2004

新たな職業能力開発の展開

西村公子

障害者基本計画がスタートして2年目、新しい職業能力開発が動き始めました。職業能力開発は、障害のある人が地域の中で経済基盤を確立して生き生きと生活するための重要な柱である雇用・就業へ向かうことを支援する役割を担っています。このため本年度、障害のある人を対象とした職業訓練について、数・内容ともに大幅な拡充を図りました。

■障害者職業能力開発研究会の指摘

IT化の進展、産業構造の転換が進み、企業の即戦力志向が強まる中で、雇用・就業を希望する障害のある人の数は増え続けています。このような情勢に対応した職業能力開発をいかに展開していくべきか。厚生労働省職業能力開発局能力開発課では、昨年4月~8月、障害者職業能力開発研究会を開催し、精力的に検討を重ねました。

研究会からは、障害のある人が全国どこでも身近な地域で職業訓練を受講することができるよう、国、都道府県が一体となって次のような取り組みを進めることが当面の最重点課題であるとの指摘をいただきました。

  • 障害者職業能力開発校における訓練実施数の拡大
  • 県立の職業能力開発校(以下「一般校」と言います)を活用した障害のある人を対象とした職業訓練の実施
  • 地域の多様な民間資源を活用した委託訓練の大幅な拡充

以上の指摘を踏まえて、一般校を活用した障害者職業能力開発事業及び障害者の態様に応じた多様な委託訓練の実施等を重点とする16年度新規施策の予算要求を行い、現在、いよいよ実行という段階になったのです。

■一般校を活用した障害者職業能力開発事業

【趣旨】従来から一般校では、施設等のバリアフリー化を推進して障害のある人の職業訓練の受講を促進し、障害者職業能力開発校(19校)では一般校での受講が困難な人に対して障害の特性や程度に配慮した職業訓練を実施していました。しかしながら、障害者職業能力開発校の設置は全国で17都道府県であり、一般校で職業訓練を受講することが難しい障害のある人にとって、職業訓練の機会は限定されたものになっていました。

このため、本年度から、障害者職業能力開発校の設置がない地域において、一般校に知的障害のある人等を対象とした訓練コースを設定して職業訓練を実施する本事業を開始しました。併せて、本事業は、職業訓練の成果を普及することなどを通して、地域における障害者職業能力開発のネットワーク作りを行うことも目的としています。

【訓練内容】本事業実施県では、地域のニーズに応じて、知的障害のある人等を対象とした次のような訓練コースを一般校に設定して職業訓練を実施します。

〈職業訓練コースの例〉

  1. OA事務コース……OA機器作業の知識・技能を習得し、事務職としての就職をめざす
  2. 販売実務コース……小売店等における商品管理、物流作業、接客に関する知識・技能を習得し、販売実務職としての就職をめざす
  3. 介護サービスコース……老人介護に関する知識・技能を習得し、老人施設等での介護補助職としての就職をめざす

【事業実施県】愛媛県(松山高等技術専門校)、熊本県(熊本高等技術専門校)で知的障害のある人を対象とした販売実務コースを5月から実施しています。また10月以降、さらに14県で職業訓練がスタートする予定です。

■障害者の態様に応じた多様な委託訓練(図参照)

【趣旨】企業、社会福祉法人、NPO法人、民間教育訓練機関等、多様な委託先を活用した委託訓練を機動的に実施することにより、障害のある人が、身近な地域で、就職に必要な知識・技能を習得するための職業訓練機会を大幅に拡充することを目的にしています。

【委託訓練実施規模】全国47都道府県で5000人規模を予定しています。

【委託元】委託訓練は、都道府県立の一般校及び国立・都道府県営または府県立・府県営の障害者職業能力開発校が委託元となって行う公共職業訓練です。都道府県では、委託訓練実施の総合窓口機能を果たす職業能力開発校を拠点校として定め、委託訓練の円滑な実施を図ることとしています。

【委託先】企業、社会福祉法人、障害のある人の支援を行うNPO法人、民間教育訓練機関などを委託先としています。

【委託訓練の内容】訓練コースは、大きく2つに分かれます。

  1. 知識・技能習得訓練コース(民間教育訓練機関、社会福祉法人、NPO法人等を委託先として、就職の促進に資する知識・技能の習得を目的として実施)
  2. 実践能力習得訓練コース(企業等を委託先として、就職に必要な実践的な職業能力の開発・向上を目的として実施)

【態様に応じたパタン設定】委託訓練は、一人当たり3か月以内・月当たり100時間を標準として、訓練内容と訓練期間・訓練時間をニーズに応じて弾力的に設定できるのが特徴です。たとえば、知識・技能習得訓練コースでは、委託先機関内での職業訓練(パタン1)だけでなく、知識・技能習得訓練コースを受託した機関が実習先を開拓して1か月以下の短期間(パタン2)または1か月~3か月の職場実習を組み合わせて(パタン3)実施することもできます。また実践能力習得訓練コースでは、1~2か月(パタン1)、3か月(パタン2)のほか、短時間の訓練から段階的に訓練時間を延ばしていくことが効果的な場合は、訓練期間を6か月まで延長して総計300時間で職業訓練を行う(パタン3)こともできます。

【障害者職業訓練コーディネーター】このような弾力的な実施が可能な委託訓練を対象者と委託先の状況に応じて効果的にコーディネイトするために、都道府県に障害者職業訓練コーディネーターを配置しています。

【推進会議】厚生労働省においては、委託訓練の効果的な推進のあり方等について推進会議を開催して協議・検討を行っています。

これらの新しい職業能力開発を国と都道府県が一体となって積極的に推進することにより、職業訓練を障害のある人にとって身近なものとし、就職への途を一層強力に支援することとしています。

また、今年度から障害のある人がe―ラーニングによりIT技能の習得を図ることを目的としたモデル事業、知的障害のある人の職域を拡大するための職業訓練カリキュラムの開発にも取り組んでいるところであり、その成果を踏まえて職業能力開発の一層の充実を図っていきたいと考えています。

図 障害者委託訓練の概要
図 障害者委託訓練の概要

(にしむらきみこ 厚生労働省職業能力開発局能力開発課主任職業能力開発指導官)