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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年11月号

提言

平成17年精神保健福祉法改正要望と日精協の基本姿勢

日本精神科病院協会

社団法人日本精神科病院協会(以下、日精協)では、過去約10年にわたる内部論議を集約する形で平成13年度末に「入院中心の医療から、地域医療・地域生活支援へ」の転換を進めるという基本方針を掲げ、以後今日までそのための政策提言づくりと実現に向けて努力しています。

しかし財政事情の逼迫を背景に、国は地方分権化と「三位一体」改革を推進しつつあり、国庫補助の廃止・地方への財源移譲は、地方財政の逼迫状況からみて著しく立ち遅れている精神障害者福祉の基盤整備が一層難しくなることを予想させます。

平成17年法改正に向けては以上の観点から、精神障害者福祉の基盤整備に関する事項を中心とする要望にしましたので、主要項目をご紹介します。

1.社会復帰施設の体系的整備、地域生活支援体制の確立など精神障害者福祉の基盤整備を、国・地方公共団体の義務として明記すること。

(第二条 国及び地方公共団体の義務)の「努力する義務」を「義務」として規定すること。また、(第五十条の二 精神障害者社会復帰施設の設置等)で、都道府県および市町村の果たすべき役割を明確にし、社会復帰施設整備を含む計画および設置を義務付けること。

わが国の社会復帰施設のほとんどは、国庫補助を受けながらも民間精神科病院が資金を負担して設置してきました。しかしご承知のように、精神科医療費は他の診療科の約半分のうえ医療費改定はゼロ前後という状況が続き、民間精神科病院としては限界に来ています。

日精協としては、国や地方公共団体が率先して自ら社会復帰施設の設置や地域生活支援体制づくりを行うべきであると考えており、地方に財政と権限を委譲する以上は、精神障害者福祉の基盤整備について国および地方公共団体の役割分担を明確に法に規定するとともに、計画と設置を義務付けるのは当然の責務と考えています。

2.24時間支援体制のある新たな居住型施設類型を設置するとともに、「精神障害者短期入所事業」の対象施設とすること。(第五十条の二 精神障害者社会復帰施設の種類)

複数スタッフが配置される生活訓練施設や福祉ホームB型さえ、夜間・休日のケアを前提としていません。日精協の調査では、夜間・休日のケア体制があれば退院できる患者さんは、3年以上の長期入院者に限っても約2万2千人いることが分かっています。そのために、20人に夜勤1人程度の配置ができる新たな施設類型を整備するよう求めています。絶えず傍らに経験豊かなスタッフがいて即応できる体制を確保することは重要であり、個室制の20人規模の施設を提案しています。「地域生活」は、一般住宅での生活だけを指すのではなく、施設生活も地域生活のひとつのあり様であると考えています。

スタッフは利用者の生活管理者ではなく、一人の地域生活者である利用者の生活の質を支え援助する役割に徹することが必要です。地域での社会生活を楽しんでいただくとともに、馴れた地域で単身自立を希望される利用者にはそのお手伝いをします。

3.地域生活支援の技法として精神科ケアマネジメントを位置づけ、精神科を標榜する医療機関が当該技法を用いて地域生活を支援する仕組みをつくること。

日精協の基本方針を展開するためのソフトとして、精神科ケアマネジメント技法を主体とする地域生活支援システムを構築する考えです。すでに慢性期の入院患者さんを対象にこの技法は応用され、退院促進の効果を上げております。これらを含めて、精神科病院の医療・看護・生活援助のノウハウを地域生活の支援に活用することが必要です。そのため、一定の医学的知識と一定期間の臨床・援助経験を条件にした専門研修によって、精神科ケアマネジャーを養成することが必要と考えています。

地域生活支援センターは人口30万人に2か所とされながらも予定の半数程度しか整備されておらず、今後の整備も困難が予想されることから、看護師・精神保健福祉士ら2~3人規模の小回りのきく「地域生活支援室」を精神科病院に付設することを要望しています。主治医と支援スタッフは緊密な連携がとれるので、支援利用者にとっても安心・安全が得られる利点があり、退院促進事業の展開が図りやすいという利点があります。

他にも、(第三十四条 医療保護入院のための移送)を有効に活用するための見直し、等の要望もありますが、紙面の都合上省略いたします。

(花井忠雄(はないただお) 社団法人日本精神科病院協会常務理事)