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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年11月号

提言

精神保健福祉法改正に向けて

日本病院・地域精神医学会

1 はじめに

日本病院・地域精神医学会は、主に精神保健福祉法検討委員会の活動を通して精神保健福祉法および関連法規に関するいくつかの提言や意見表明を行ってきた。2001年以降、本学会はいわゆる「心神喪失者等医療観察法」に関して、法案の段階から数度にわたって反対声明や撤廃を求める理事会見解を出し、総会決議の採択を行ってきた。精神保健福祉法と観察法の関係は不明瞭なままであり、前者が後者に従属させられる恐れがある。

精神保健福祉法に関しては、病院調査や会員へのアンケートなどの調査活動のデータに基づいて意見表明を行ってきた。1997年には本学会の理事・評議員に対してアンケート調査を行い、また1998年には会員病院に対する調査を行った。これらのデータを基礎にして法改正に関する提言を行ってきた。今回は2003年に法改正を視野に入れて再び病院調査を行った。これらの活動を行ってきた本学会の立場からいくつかの意見を述べたい。

2 法の基本構造

精神保健福祉法は、強制入院法であった1950年の精神衛生法の基本的枠組みを残している。その後の法改正で名称が変更され、任意入院制度が追加され社会復帰や福祉に関する条項が加わったが、いびつな接ぎ木のごとくであり、いまだ入院医療を中心とする強制入院法の色彩を色濃く残している。この構造こそが精神障害者の地域保健と福祉施策の遅れを招いた。

将来的には法を医療法、保健法、福祉法とに解体すべきであろう。少なくとも当面は、精神医療・保健と精神障害者福祉は別立ての法で担うべきである。精神医療・保健法のうちの医療については、医療法特例を撤廃し一般医療に近づけるとともに、非自発的入院の厳格な運用とより高いレベルの人権保障をめざすべきであろう。そして、精神保健を都道府県・市町村の重要な責務と位置づけ、従来の相談、訪問、啓発等の精神保健活動のみならず、周辺的な事例(児童・思春期の前医療的な諸問題、DV、児童虐待、自殺問題等)にも柔軟に対応できるようにすることが必要である。

精神障害者福祉も障害者福祉法に一本化し、都道府県、障害福祉圏域、市町村と三層構造化を図り、それぞれの役割を明確化すべきである。必要なことは精神障害者が地域生活をしていくうえで必要な社会資源の同定であり、現在の貧困な状況を克服することである。それがないままに、精神障害者施策を介護保険に一元化するとする動向を安易に容認すべきではなかろう。

さて、このように精神保健福祉法を医療・保健法、そして福祉法とに解体すると、精神障害の定義も見直さざるをえない。医療法部分、とりわけ非自発的入院を扱う規定は厳格な疾病概念を要請するであろうし、福祉法の対象はより一般的な障害概念となろう。

3 精神科入院患者の実態(病院調査)

ここでは今回の病院調査から得られたデータからいくつかの問題点を挙げる。48施設から回答が得られ、回答施設の総病床数は1万3140床、在院患者数は1万1021人であった。

入院形態別では、任意入院65.9%、医療保護入院32.2%、措置入院0.95%である。この割合は厚生労働省が公表している全国の統計(2002年)と大差はない。ただし学会調査によれば、任意入院者の35.1%が閉鎖処遇を受けている。疾患別在院者数は、統合失調症66.7%、痴呆(現 認知)性疾患14.8%、アルコール関連4.8%、躁うつ病3.8%、器質・症状性精神障害3.5%である。痴呆(現 認知)性疾患の増加が目立つ。在院期間別の患者数は、1年未満が36.0%を占めるものの、5年以上が38.6%、10年以上が26.0%、20年以上が14.7%となっている。厚生労働省の統計では、それぞれ後の3者が42.4%、28.4%、14.8%である。長期在院者の問題には大きな努力が注がれなければならない。

行動制限の現状を見てみると、指定医判断を要件とする隔離は在院患者の2.1%に施行されており、その15.1%は任意入院者である。また、1か月を超える隔離が在院患者の1.1%に施行されており、10.3%が任意入院者である。身体拘束は在院患者の1.8%に施行されており、15.8%が任意入院者である。このように、ハードな行動制限の対象のかなりの割合を任意入院者が占めている。任意入院者は、入院にあたって必要に応じて行動制限を施行される可能性のあることを告知されるとはいえ、実態は行動制限の乱用といっても過言ではない。本学会の病院調査のデータ、そして厚生労働省の統計を見ると、長期在院者の問題と、閉鎖処遇を含めた任意入院者の行動制限の問題は早急に解決すべき課題である。

4 おわりに

入院医療の実態を踏まえるならば、精神病院在院者はノーマライゼーションの理念からほど遠い地点に置かれている、といえよう。これは端的に精神科のアンダースタッフの反映であろう。精神科の病院医療の質の向上と在院者の権利保障の充実を訴えざるをえない。

厚生労働省は10年間で7万2000人の社会的入院者の退院をめざすとしているが、地域の社会資源の整備状況や貧困な補助金という現状を考えると、この低い目標でさえ達成が危ぶまれている。社会的入院者の退院をいうとき、従来の病床の福祉施設への転用でお茶を濁すようなことを許すべきではない。新たな囲い込みは排除されねばならず、国や地方自治体の責務を明記すべきである。

(中川実(なかがわまこと) 日本病院・地域精神医学会精神保健福祉法検討委員会担当理事)