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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年1月号

障害者施策の今後に思う

誰もがその人らしく地域で暮らすために

千葉県知事
堂本暁子

「健康福祉千葉方式」

私は、知事に就任して最初に、完全な情報公開をお願いしました。なぜなら県民の皆さんに県の政策をつくっていただきたいと思ったからです。地域には特徴があり、それぞれの都合があります。にもかかわらず、これまで中央で縦割りの福祉政策が決められ、必ずしも一人ひとりの障害者にとって、公的なサービスが使い勝手のよいものとはなっていませんでした。これを打破するには、障害者自身が発想し、主体的に政策を作り上げていく以外ありませんでした。

そのため千葉県では、障害者が日ごろ感じている不便や要望を踏まえ、まっ白なキャンバスに県の施策や計画を自由に描いていきました。「千葉県地域福祉支援計画」(昨年3月)と「第三次千葉県障害者計画」(昨年7月)です。これらの計画を作るに当たっては、県内13か所でタウンミーティングが開かれ、障害者が元気に、時には手話通訳を使い、「施設ではなくまちに住みたい」「多様なサービスを自分で選びたい」と、声を上げ訴えました。

「新たな地域福祉像」と対象者横断的な施策展開

タウンミーティングは、さまざまな障害者がお互いにその存在を知り、地域住民が障害者への理解を深める場でもありました。こうした議論を通じて、千葉県では、「新たな地域福祉像」として「誰もがありのままにその人らしく地域で暮らす」が提案されました。

また、これを実現するため「子ども、障害者、高齢者等の対象者を横断的に捉えた施策展開」が提案されました。その目的は、1.対象者別施策の枠を超えて最も利用したいサービスを利用できるようにすること(オーダーメイド福祉)、2.制度の隙間に陥ってしまう課題に対するセーフティ・ネット、3.家庭や地域における複合的な問題への対処、等です。

グランドデザイン案に対する見解

昨年10月の、いわゆるグランドデザイン案については、まず長年放置されてきたさまざまな課題について網羅的に一定の方向性を打ち出そうとしている姿勢を評価したいと思います。

また、「市町村を中心に、年齢、障害種別等を超えた一元的な体制を整備し地域福祉を実現する」「障害者のニーズと適性に応じた自立支援を通じて地域での生活を促進する」といった基本的な視点は、当事者を含む県民との協働により進められている千葉県の障害福祉施策の方向性と同様のものといえます。

しかしながら、このグランドデザイン案が、真の意味で障害者の地域での生活を実現するものになるかどうかは、応益負担のあり方や障害程度区分の作り方など、今後の各論の議論しだいです。その検討に当たっては、常に当事者の視点を中心に置いて、「障害者がその人らしく地域で暮らせるようにする」という大目的を見失わないよう、関係各方面と十分な意見交換を行っていただきたいと思います。

今後の展開

私は、障害者がその人らしく地域で暮らすためには、福祉サービスの充実だけでなく、すべての県民が障害者への偏見を拭い去り、差別をしないことが大事と思います。そのため、千葉県では、差別を禁止する条例を作ることにいたしました。

昨年、その第一歩として「差別に当たると思われる事例」を募集しました。何より「理不尽な悲しい思い」をしてきた当事者の経験から出発したいからです。早急に研究会を設置し、集まった事例を基に、「差別とは何か」「どうしたら解消できるか」など徹底して突き詰めていきたいと思います。条例になじまない事例もあるかもしれませんが、たとえば、学校の教材に使う、相談の指針として活用するなどさまざまな取り組みをミックスして、一つ一つ確実になくしていきたいと思います。条例の内容よりも、県民一人ひとりが、障害者差別や差別のない地域づくりについて話し合うプロセスが大切だと考えています。

県民主体で作った計画を「絵に描いた餅」に終わらせてはならないと、グリム童話「ブレーメンの音楽隊」にヒントを得た、実践のための運動が盛り上がりを見せています。さまざまな人が、それぞれの能力を生かしながら協力して暮らす「ブレーメン型地域社会」づくりを進めていこうというものです。これは、福祉の領域を超えて、就労、農業、教育、環境など数多くの分野がクロスオーバーした全く新しい分権型の地域社会です。

障害者差別の禁止に関する条例づくりも、こうした「ブレーメン型地域社会」を実現するための不可欠な取り組みの一つです。千葉県では、引き続き、当事者を真ん中に置いて、県民全体でさまざまな障害者の課題について取り組んでいきたいと思います。

(どうもとあきこ)