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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年1月号

障害者施策の今後に思う

一人ひとりが自己実現できる社会づくりを

熊本県知事
潮谷義子

ノーマライゼーションは実現されたか

障害者施策の世界的な流れを見てみますと、国連での「障害者の権利宣言」(1975年)から社会への完全参加と平等という意識が広まりはじめ、1993年からの「アジア太平洋障害者の十年」によりノーマライゼーションの理念が各地に広がり、国際的な取り組みも進んできています。

わが国においても、障害のある人を特異な存在とし、また慈善・保護の対象と位置付けてきた歴史がありましたが、1993年の「障害者基本法」により、障害者も同じ権利の主体であることが規定されました。

しかし、今なお障害者のまわりには、意識面をはじめさまざまな障壁が存在し、その自立と社会参加が阻まれている現実があります。また、私たちが歩んでいる少子・高齢社会では、障害者が多い、多くなることも事実です。

こうした状況の中で、私たちは現在の施策が本当に障害者のニーズに対応しているか、一人ひとりの自己実現が図られているのか、という視点から、しっかりと見直していかなければなりません。

県独自の事業で制度の「すきま」をつなぐ

私はこれまで、制度があっても地域実態に合っていないもの、また行政そのものが縦割で制度と制度の谷間にあり対応できないことがないかなど、福祉現場での「クライアント・センタード」(利用者中心主義)の徹底の視点から制度を点検し、機会あるごとに国にも提案して参りました。

平成15年4月に、介護保険制度に続き、障害者自身がサービスを選んで利用する「支援費制度」が始まりましたが、障害者のケアマネジメントは制度化されず、精神障害の分野も取り込まれませんでした。

本県では、制度で対応できない「すきま」をつなぐ事業が必要と判断し、全国で初めて、三障害すべてに対応するケアマネジメントを事業化しました。これからは種々の福祉サービスのプランニングにとどまらず、障害者の生活全般にわたって支えていくという視点からこの事業を進めたいと思います。

また、障害のある方の自己実現につながるよう、IT活用による自立支援、生活支援に力を入れ、昨年設置のITサポートセンターでは、NPO法人に委託してパソコン教室やボランティア派遣を総合的に実施しており、障害者の在宅就労を支援する「チャレンジド・テレワーク」なども成果を上げています。

現在、民間のノウハウを活用しながら当事者を中心においた小規模多機能サービスやワンストップサービスなどが提供できるよう、福祉機能を付加した県営住宅の建替えを行っており、先駆的な地域共生ケアのモデルを、ぜひ創りたいと考えています。

どんな障害があっても普通の暮らしを

昨年10月に、「障害者施策の改革のグランドデザイン案」が国から発表されました。この案では、「障害保健福祉の総合化」として、障害種別による縦割りを廃止し、どんな障害であっても身近なところでサービスが受けられるよう、施策を再編・一元化する方向性や、自立支援の軸を就労と地域生活に置いたことは、大変評価しています。ぜひ、これまで遅れていた精神障害の分野にも、早く浸透していってほしいと思っています。

そして、こうした制度を支え、グランドデザインを実効性あるものにしていくためには、財政基盤の整備のみならず、障害者の特性に応じた質の高い個別支援計画を策定するケアマネジャーの能力や、マンパワーの確保などが大きな課題です。

また、どんな重度の障害があっても地域で生活できる基盤づくりや、まだ対象とされていない難病や高次脳機能障害の方などをどう取り込んでいくかなど、具体的な道筋をつけることが必要だと考えます。

さらに、今後は、障害者をはじめ、女性、高齢者の力を社会の中にどのように生かしていくかがもっと意識されなければならないと思いますし、このことは本当の意味での一人ひとりの自己実現、ひいては地域社会の活性化にもつながるものと確信しています。

地域の力を結集した豊かな地域福祉の実現へ

私は、県政運営の基本として、だれもが生活しやすい社会を創造するという「ユニバーサルデザイン」を掲げ、次代を担う子どもたちが健やかに生まれ育つ環境づくりや、年齢や障害の有無にかかわらず住み慣れた地域で安心して暮らせる地域福祉社会の実現をめざしています。

しかし、こうした取り組みは行政だけでできるものではありません。今後とも、福祉関係者はもとより、NPOやボランティアなど、多くの皆様とのパートナーシップのもと、「支え合い」という人の力、地域の力をエネルギーとして、障害者施策を着実に進めてまいりたいと思います。

(しおたによしこ)