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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年1月号

障害者権利条約への道

第9条「法の下の平等」

東俊裕

条約草案第9条は、第7条の非差別条項とともに、法の下の平等に関する条項であり、(a)個人としての確認、(b)完全な法的能力、(c)法的能力の支援に関する原則、(d)自己決定等を行う際の情報、コミュニケーション上の支援、(e)財産所有・管理等に関する平等権の確保、(f)財産権剥奪の禁止を規定している。

(a)「個人としての確認」に関する規定は、特に重度の障害のある人を人格のある個人として認めない扱いや社会的態度に重大な警告を発するものであり、締約国がこの条約で改めて障害のある人を法の下に他のすべての者と平等な権利を有する個人として確認したことの意義は大きい。

(b)「完全な法的能力」を他の者との平等を基礎として障害のある人が有していることを締約国は是認するという規定は、無力な存在として侮蔑・哀れみ・保護の客体とされていた障害のある人を、意思と人格を有する権利の主体と把える見方へ転換を迫るものである。とりわけ、知的または精神障害のある人の法的能力・自己決定権が問題となる。ここで言う法的能力とは権利能力・意思能力・行為能力の3点を意味し、それを完全に是認するというものであり、ガーディアンシップの問題に関連する極めて斬新な提案であるというべきである。なお「他の者との平等を基礎として」という前提に鑑みると、未成年を理由とする行為能力の制限については、一般的制度に服することになろう。

(c)「法的能力の支援に関する原則」においては、法的能力の支援は、必要性の程度やその状況に見合うもの、いわば個別の状況に相応するものでなければならないとされ、しかも、その支援はその人の法的能力、権利、自由に干渉するものであってはならないとされている(c―i)。法的能力に前記のように行為能力も含むとすれば、この規定によると、わが国の行為能力に一定の制約を設けている成年後見制度はこの条項に違反する恐れがあることになる。しかし、他方、確立された法的手続きによる場合には法的能力に関連する決定が認められる旨の規定(c―ii)があることから、行為能力に関する制限が認められるという解釈も成り立つ余地がある。

これらに関して、カナダが、独立した公平な機関による能力の判定、代理人の指名などを内容とする新提案をし、多くの国の賛同を得たものの、メキシコやレバノンは、障害のある人が権利を享受する際、アシスタンスがそれを妨げることがあってはならないこと、個人の法的能力に取り替わるようなアシスタントの決定ではならないことを強調した。

このカナダ案に対して、障害コーカスは、アドホック委員会に参加するNGOを代表して、自己決定における相互関係性を前提とし、障害当事者の決定権を残しながら支援するというsupport in decision makingの新しいやり方がパラダイムシフトをもたらすと主張して注目を集めた。

(d)「自己決定等を行う際の情報、コミュニケーション上の支援」に関する規定について、その必要性・重要性を積極的に否定する意見はないようであったが、本条に規定すべきか、別条項に移すべきかは議論のあるところである。

(e)「財産所有・管理等に関する平等権の確保」に関する規定は、あまり詳細にわたるということで削除を主張する意見もあった。

(f)「財産権剥奪の禁止」に関する規定については、パラ(a)でカバーできるという意見と存続すべきという意見があった。

これに加えて、日本政府はNGOの意見をもとに「障害のある人が市民的政治的権利に関する国際規約(B規約)14条において認められる権利(司法手続き上の権利)を行使するために、物理的またはコミュニケーション上の障壁を除去し、理解する上での困難を軽減する適切で効果的な措置を執る」という新たな条項(g)を提案し、多くの国とNGOの支持を受けた。特にコスタリカやメキシコ、チリは、日本提案を受け、法的能力と司法へのアクセスに分けて別個に規定すべきであると主張した。

さらに、権利が侵害された場合の救済規定に関して、第4条の締約国の一般的義務に入れるべきであるという意見と第4条は社会権を含むので別の条項、たとえば、コスタリカの司法へのアクセスに入れるべきだという意見や第7条の非差別条項に入れるべきだという意見などが、本条に関連して議論になったところである。

(ひがしとしひろ 弁護士)