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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年2月号

列島縦断ネットワーキング

宮城 「高次脳機能障害者を支援する会」の活動

大坂純

1 見えない障害とよばれる障害をもつ人々の存在

みなさんは「高次脳機能障害」という障害をご存知でしょうか。

高次脳機能障害とは、事故や疾病により脳損傷を受け、後遺症として注意障害(注意力がなく、ミスばかりする、電話をしながらメモをとるなど、二つの行為を同時にできない)、記憶障害(すぐに忘れてしまう)、遂行機能障害(計画を立てて行動することができない:仕事があるのに、夜遅くまで遊んでしまい、出勤時間を守れない)、社会的行動障害(感情や欲求を抑制できない:すぐにキレたり、ほしいものがあると我慢できず万引きしてしまう、依存性や退行:すぐに他者に頼ろうとする、対人技能稚拙:周囲に対して思いやりのない行動をしてしまう)のことを指します。高次脳機能障害は、身体障害や知的障害などとは異なり、障害が外見からは見えにくいというか、医学的診断基準が確立されていなかったことなどから、「見えない障害」と言われてきました。したがって、高次脳機能障害は後遺症としては認知されず、その人の性格特性や養育環境にその原因を求められ、高次脳機能障害者自身や家族は障害の苦しさを理解してもらうことが困難でした。障害者福祉法でも、身体障害者手帳や療育手帳を所持している者が支援の対象であり、生活支援を受けることもできませんでした。

2 高次脳機能障害者を支援する会の活動の実際

高次脳機能障害者を支援する会(以下「支援する会」)では、1.どんな状態でもその人らしく暮らせることを目指す、2.地域に暮らすすべての人と手を取り合いながら、住みよい地域を作る、3.新たに法律の谷間に落ちる人を作らない(必要があれば障害などを問わず、すべての人に支援を行う)という3原則の下、支援を実施しています。

支援する会では、高次脳機能障害の回復段階に合わせて、仙台市内に3か所の作業所を運営しています。基本的には第1段階の作業所から通所を開始しますが、障害の状況によっては、第2段階の作業所から通所を開始する場合もあります。

(1)「れiんぼう倶楽部」の実際

第1段階の施設である「れiんぼう倶楽部」は、医療機関での治療や医学的リハビリテーションが終了した高次脳機能障害者を対象としています。「れiんぼう倶楽部」に通所しているメンバーは、コミュニケーションが取れない人も多く、一人では通所できない人がほとんどです。

「れiんぼう倶楽部」では、メンバーの自己実現のための基礎作りが中心になります。具体的には、基本的な生活習慣の再構築(通所支援、作業に参加する、清潔の保持など)のためのプログラムを設定しています。また、障害を負ったことで、社会から孤立した状況に置かれたメンバーが多いため、社会とつながりを持つための「きっかけ」づくりを大切にしています。「れiんぼう倶楽部」に通所することで、スタッフの支えを得ながら他者とのふれあいの機会を確保し、できるだけ作業を細分化し、それぞれのメンバーの能力に合わせて作業に参加できる場面をつくることで、成功体験や楽しさのある生活を取り戻すことをめざしています。

この段階のメンバーは、支援開始からしばらくの間は定時や定期的な通所は極めて困難な状況にあります。しかし、継続的な支援を実施することで、徐々に単独来所が可能になり、休んだメンバーの様子を気遣う言葉も時折聞かれるなどの変化が見られるようになります。自分自身のことだけではなく、他者への関心を持つようになり関わろうとすることは、地域で生活をするうえで重要な事柄の一つといえ、さらに深く他者と関わることができるようになると次の段階に進むことができます。

(2)「iずみアウトドアリハビリテーション倶楽部」の実践

第2段階の施設である「iずみアウトドアリハビリテーション倶楽部」(以下「iずみ倶楽部」)は、「れiんぼう倶楽部」から移動してきたメンバーが約7割で、「iずみ倶楽部」から通所を開始した者は約3割です。

「iずみ倶楽部」では、プログラムの中心にアウトドアを設定し、生きることの楽しさ、当たり前の生活が定着できるよう支援を行います。アウトドアをプログラムに設定した理由は、非日常を満喫することができ、自然な形で仲間と協力したり、状況の変化に応じたな適切な対応という課題に取り組むことができます。メンバーはアウトドアでの活動を通じて、楽しみながら、高次脳機能障害特有の対人関係技能の稚拙さ等をリカバーするための技術を学んでいくことになります。「iずみ倶楽部」では、次の段階である「雲母倶楽部」への以降も視野に入れつつ、定期的な通所の確立と穏やかな人間関係の構築が目標になります。定期的な通所が可能であり、就労に対して意欲があるメンバーは「雲母倶楽部」への移行が可能になります。

(3)「雲母倶楽部」の実際

第3段階の施設である「南光だi雲母倶楽部」(以下「雲母倶楽部」)は、第1段階と第2段階、ないしは第1・第2のいずれかの段階を経験し、他者と穏やかな関係を築くことができ、就労に対する意欲と努力ができるメンバーが通所します。「雲母倶楽部」は支援する会のリハビリテーションの最終段階の施設であり、就労の準備の場であるため、社会人(職業人)としての基本的なルールを身に付けることが要求されます。「雲母倶楽部」は、「れiんぼう倶楽部」や「iずみ倶楽部」とは異なり、地域で自立した生活を営むための手段である「就労」をめざしています。そのため、「雲母倶楽部」はメンバーにとって「職場」という認識を持ってもらい、自分の感情の起伏をコントロールし作業に従事することや、状況の変化を見極め適切な対応ができることが目標となります。さらに、職場での人間関係が円滑に図れるよう、日ごろから協力し合える関係づくりも重要な課題になります。

「雲母倶楽部」は2004年9月から介護保険事業所として高齢者のデイサービス事業を開始しました。したがって、リハビリテーション機能と就労の場という二つの側面を持つことになりました。「雲母倶楽部」が就労の場としての機能を備えたことで、メンバーは収入を得ることができるようになり、「もっと利用者が増えるためには、サービスの質を向上させることが大切だ」といった意欲的な発言も聞かれるようになってきています。

3 おわりに

支援する会の活動は緒についたばかりですが、今後も三つの原則を達成するために効果的な支援方法を模索し、地域生活自立支援に挑戦し続けたいと考えています。

(おおさかじゅん 仙台白百合女子大学助教授)