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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年2月号

列島縦断ネットワーキング

茨城 KUINAセンターの取り組み

志井田美幸

数年前に同じ職場で働いていた友人がカナダに移住して、早いもので約6年になります。その友人を含めた何人かのスタッフと現在のKUINAセンターの前身を一緒に立ち上げました。

KUINAセンターは、生活訓練施設(援護寮)「KUINA寮」と地域生活支援センター「KUNA」からなり、2施設を併せて「KUINAセンター」(以下センター)と呼んでいます。KUINAという名前の由来は、沖縄にヤンバルクイナという鳥がいますが、この鳥は、飛べません。でも、ニワトリのように地上を歩き回り、昼間に活動して、夜間は地上数メートルの木の枝に登って休みます。飛べないのに実に上手に生活をしています。このクイナのようにメンバーさんにもスルリと世の中で上手に生活していってほしいという願いから、施設名を「KUINA」とつけました。

センターがあるひたちなか市は、人口が約15万人で、県のほぼ中央部にあり、東京から約110km圏に位置し、市のほぼ中央にJR常磐線勝田駅があり、上野駅から特急で約70分程です。作業所、通所授産施設、生活訓練施設が各1か所、地域生活支援センターは2か所あります。精神科を有する病院は無く、診療所が2か所あります。

アウトリーチ型支援を始めた経緯

センターは、今から4年前に、医療法人立の施設としてスタートしました。私たちがセンターでアウトリーチ型支援を始めたきっかけは、前述のカナダに移住した職場の仲間がキーパーソンとなりました。彼が移住して間もない頃、偶然に知り合ったのが、トロントに17チームある「ACT」チームの1つである、Mt.Sinai病院のACTチームの心理士でした。そのご縁で私たちは数回に渡り、そのACTチームやアメリカのマディソン群にある「THE PACT」で研修をし、その研修は現在も続いています。カナダをはじめ諸外国ではACTで多くの重症精神障害者を地域でサポートしています。はじめてACTチームの研修に参加した時の驚きは今でも忘れません。

ACTチームの活動は日本での地域生活支援センターの活動に重なると思いました。日本の施設とは違い、Mt.Sinai ACTやTHE PACTの施設はかなり質素でした。事務室・会議室・相談室など3~4室からなっています。なぜでしょうか? スタッフはそこをオフィスと呼び、オフィスにはほとんどメンバーさんはやって来ないからです。スタッフはそこで、週単位でかなりの回数のミーティングを重ね、徹底的に情報の共有化を図り、意見の交換をし、メンバーさんにとって何がベストな方法かを話し合います。そして、地域で暮らすメンバーさんの元へチーム単位で出かけて行きます。スタッフは、とにかくメンバーさんが地域で暮らすことにかかわりをもっています。日本では、まだ地域で暮らすメンバーさんたちが三々五々施設に集まっていろいろなプログラムを行うデイケア型の支援センターが多いなか、実に新鮮で自然な光景でした。5~6人のスタッフで1チームを構成し、2チームで100人のメンバーさんを支援しています。実際にメンバーさんが暮らしている地域で、家で、よく行くお店で、メンバーさん一人ひとりのニーズに応えながら支援活動を展開していきます。

私たちは、実際にそのACTを日本で動かすためにはどうしたらよいのだろう? と考え、地域生活支援センターの活動に重ねて行うことにしました。ACTは「包括的地域治療(ケア)」と訳されています。カナダでは、重篤な精神障害者を中心に、積極的に地域治療を行っています。私たちは、地域で暮らすメンバーさんが、時として消極的になりがちな将来に向けての希望を持続的に持ちつづけることができるように、積極的に支援を行っています。私たちは、ACTを「積極的地域支援」と呼びたいと思います。Mt.Sinai病院主任教授で、ACTチームの設立者であるジョエル・サドヴォイ先生は、これを「ケアのデリバリー」と言っています。まさに、私たちも毎日「出前支援」活動で地域を縦横に走り回っています。

実際の活動内容は、地域で生活している精神障害者の方々に「住む場所」「働く場所」「憩う場所」の提供を24時間365日行っています。

しかし、地域の中には、どこの医療機関にも継続して通うことができない方、服薬の管理ができず精神症状が安定しない方、単身で生活されているか、もしくは家族の手には負えなくなっている方が数多く存在しています。私たちは、そのような方々を近隣の医療機関や市役所・保健所などの行政機関より紹介を受けて、さまざまなかかわりを持っています。精神保健福祉士・看護師・介護福祉士・医師・栄養士などの多職種からなるスタッフでチームを構成し、1人のメンバーさんを3~5人で担当することにより、安定した支援と多方面からの情報とサービスの提供を確実にしています。そこには、メンバーが希望する数だけ支援メニューが存在し、条件が整えば退院できる方の支援はもちろんですが、入院や通院ができずに、長年、家にこもりきりの方の支援も行っています。通所して来るメンバーさんも、もちろんいますが、私たちが出向いて行くアウトリーチ型を基本にした支援を行っているメンバーさんのほうが圧倒的にたくさんいます。

KUINAセンターの新しいチャレンジ

昨年の4月に施設を移転するのと同時に医療法人から独立し、社会福祉法人を新たに設立し再スタートしました。

施設は、通所して来たメンバーさんはもちろんですが、地域の方々にも利用していただけるように図書室や喫茶店、ミニシアター会場になるように設計をしていただきました。さまざまな職種のスタッフが1つのチームを構成し、単独ではなく、一緒にサポートを行います。アウトリーチ型支援を基本としていますので、週に1回行われる会議のほかはスタッフが一同に会することはあまりなく、HEADパソコンを基地にして、スタッフ間の情報の交換は、メールでタイムリーに行っています。個人ファイルへの記入も訪問の移動中にメールで送信する形をとっています。また、担当スタッフでなくても同じレベルの支援が提供できるようにメンバーさん一人ひとりについて、何回でもメールでやり取りを行っています。

その場所で起きた問題を施設内で解決しても意味がなく、とにかく諦めずに、積極的に現場で解決・処理・支援を行っています。メンバーさんも自分の希望メニューにより上手に私たちスタッフを選んで相談をしてくれています。

私たちがめざす次なる目標は、地域の方々の熱いご希望の声が上がっている知的障害者の通所授産施設とデイサービスセンターの立ち上げです。何とかその希望が叶えることができ、仲間が増えて大きな一つの力になったら、また、そこからみんなの次の目標が見えてくる…と思いながら、私たちは、毎日メンバーさんのところへ車を走らせています。

(しいだみゆき 社会福祉法人町にくらす会)