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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年2月号

ワールドナウ

第6回WBU(世界盲人連合)総会報告

山口和彦

第6回WBU(世界盲人連合)定期総会が2004年12月6日から10日まで南アフリカのケープタウンで南アフリカ共和国ムバキ大統領を迎え盛大に開かれた。今総会は、1984年WCWB(世界盲人福祉協議会)とIFB(国際盲人連合)が合併し、サウジアラビアのリヤドでWBUが結成されてからちょうど20年。この間、障害者運動の視点が開発途上国への支援ということから障害当事者の自立と人権の確立へと大きく変わってきた。

会場には多くのアフリカ諸国からの参加が見られた。119か国から330人の国家代表、終身名誉会員、国際団体メンバー、オブザーバー、付添い、ボランティアを含め、約650人が参加した。今回特徴的だったのは、国家代表のうち、女性が48%を占め男女平等が文字通り実現したことだ。また、開催地が長年アパルトヘイトとして知られる人種差別撤廃運動を展開してきた南アフリカ共和国ということも反映してか、障害者への差別撤廃、子どもや女性に対する暴力反対、人権問題など現在視覚障害者が抱えるさまざまな状況が報告された。

特に、視覚障害をもつ女性、少女については、保健衛生、教育、就労、リハビリテーションの面では依然として差別があり、障害者問題を扱う国連の会議でも女性障害者の被っている不利益に対して、文書で包括的な両性の差別撤廃を唱っているだけで何ら具体的な対策が立てられていないと訴えた。たとえば、保健衛生面でもHIV感染の予防策について、視覚障害女性、少女は社会から取り残され依然として厳しい状況下にあることが報告された。視覚障害をもつ女性が子どもを産み育てる能力がないという偏見が依然強く、先進諸国でさえ子どもを産むことを躊躇しているという。また、子どもを育てたいという視覚障害女性に対し、育児についての十分な情報や教育の機会が与えられていない厳しい現実があることも報告された。

無収入で社会保障もない多くの視覚障害女性は、国連の提唱する2015年までに女性の貧困をできるだけ減少しようとするミレニュム開発計画に期待を寄せていた。

一方、教育、情報保障の面では、とかく点字が軽視されがちな一般的な風潮を反省する声がきかれた。国連の定めた「世界識字年」(2003―2012)を通して点字の普及を図り、視覚障害児(者)に点字による読み書きの重要性を再認識させる必要があると提唱された。遅くとも2015年までには、視覚障害児には、点字あるいはそれに代わる手段としての教具・教材などを保障することを目標にした。これに関連して、点字の発案者ルイ・ブライユの誕生日が1809年1月4日であることを記念し、1月4日を「ルイ・ブライユ点字記念日」に制定し、各国で彼の偉業を賛えるとともに、点字の普及に努めることを確認した。また、現在パリにあるブライユの生誕地が博物館になっているが、これを世界遺産の一つとして認定してもらえるようにUNESCOに働きかけることになった。

急速に発展してきた情報コミュニケーションの面では、視覚障害者のためのグローバル図書館の設立が提案された。これは、2004年11月に米国ワシントンのマイクロソフト社と盲人図書館が視覚障害者がインターネットを活用して情報が取得できるように「グローバル図書館」の設立について話されたことを土台に、さらにこの構想を発展させようということだ。今後、著作権問題など解決しなければならない課題は大きいにしても、世界各地から視覚障害者が必要な時に自分でアクセスできることは大変大きな意味を持つ。またこの機会に、DAISYが広範囲に使用される可能性が出てきたと思われる。

視覚障害者の歩行に関しては、毎年10月15日を「白杖の日」とし、世界各地で視覚障害者の安全歩行を象徴する白杖により関心を持ってもらえるように一般社会に働きかけることにした。

その他、日本から近年の激増するカード社会に視覚障害者も対応できるようにするためにクレジットカードに点字の識別マークをつけることが提案され、その必要性やデザインなどについて調査をしたうえでISO(国際標準化機構)に働きかけることを決議の中に盛り込んだ。なお、識別マークについては、財団法人共用品推進機構(http://www.kyoyohin.org/)に詳しく説明されているので参考にしてもらいたい。

総会では、役員人事と定款改正が論議を呼んだ。現在の定款では、会長の再選はできないことになっている。これは、WBUの運営が長期にわたって特定の個人や地域に片寄らないという基本的な考えで決められたものだが、キキ・ノードストローム会長が4年1期は短すぎるということで定款改正が提出された。審議後、会長の再任案は否決された。そこで、会長選挙に移ったが、会長に立候補表明をしていたのは地元の南アフリカ盲人協会のウィリアム・ローランド会長1人で彼が全員一致で信任された。ウィリアム・ローランド新会長は「世界における視覚障害」で博士号を取得するなど、視覚障害について専門的な知識を有している。若い頃からWCWBに参加し、視覚障害者の地位向上のために尽力してきた。これまでのWBUの活動では、キキ・ノードストローム会長の下で第2副会長を務めてきた。最近では、国連の障害者権利条約に関する基準規則の作成にあたっては、会議で積極的に意見を述べていた。

その後、役員選挙になり、第1副会長にはメリーアン・ダイアモンド(オーストラリア)、第2副会長にグロリア・ペニサ(ベネズエラ)、事務局長にエンリケ・ペレス(スペイン)、会計にスーザン・スパンジン(アメリカ)が選出された。この新役員にキキ前WBU会長を加え、今後4年間の運動方針、政策立案などが決定される。

WBUは世界をヨーロッパ、北米、ラテン・アメリカ、アジア、アフリカ、アジア・太平洋地域と6つに分けている。日本の属するアジア・太平洋地域(WBU―AP)では、会長に、これまでのチェン・ホックに代わってイネス・グラハム(オーストラリア)が就任した。グラハム会長はオーストラリア政府の人権委員会に勤務する弁護士で、WBU第1副会長のメリーアン・ダイアモンドとともに、今年11月にメルボルンで開かれるアジア太平洋障害フォーラム(APDF)での活躍が期待される。副会長にはバンドンのインドネシア教育大学特殊教育学科で教鞭をとっているディディ・タルシーディ(インドネシア)、事務局長にアイバン・ホー・タックチョイ(マレーシア)、会計に田畑美智子(日本・日盲連国際委員会)が選出され、WBU執行委員にはモンティアン・ブンタン(タイ)、指田忠司(日本・日本盲人福祉委員会)、ポーラ・デイ(ニュージーランド)が選ばれた。

WBU―APの事業報告とともに、今回初めて毎日新聞「点字毎日」とオンキヨー株式会社との支援で「第2回オンキヨー作文コンテスト」として海外部門の点字による作文コンテストが開かれた。最優秀に選ばれたのは、15歳のオーストラリアの女学生、アマンダ・キム・アクトさんで、点字を使って学習するほか、カードゲームに点字を貼って健常者の友人と楽しんだり、生活のなかで食品に点字ラベルを貼って識別マークとして使ったりと本人の工夫によって点字が有効であることが具体的に記されていた。なお、オンキヨー作文コンテストの英文リポートについては、ホームページをご覧いただきたい(http://www.onkyo.com/jp/braille_essay/)。

また、1975年からアジアで視覚障害者のために貢献した人に贈られる岩橋武夫賞には、タイ盲人協会のモンティアン・ブンタン会長が表彰された。モンティアン・ブンタン氏は、視覚障害者の読書には欠かせないものとなったDAISYの普及に努めるとともに、国連の人権問題委員会ではタイの国家代表として参加している。

今回の総会でWBU役員のうち、女性4人、男性2人と女性の進出が著しく目立った。今後は女性の障害者差別を含め、人権擁護運動がさらに推進されるのではと期待される。

(やまぐちかずひこ ロゴス点字図書館)