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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年4月号

家族会の立場から

モデル事業に当事者・家族が期待すること

今井雅子

はじめに

高次脳機能障害者と家族の会は、都立病院のソーシャルワーカーのグループワーク(自主業務研究会)を基に、高次脳機能障害者が社会福祉のサービスも受けられない矛盾した状況の改善と、障害者としての社会的認知を要望して、家族・当事者が1998年7月に立ち上げた組織である。「高次脳機能障害」を原因を問わず後遺症と大きく捉えているのも、当会の特徴である。

以来鈴木照雄代表が中心となり、国や東京都に現状・要望を訴え続けるとともに、地域としてその各自治体への働きかけ、勉強会、相談(ピアカウンセリング)、情報提供、交流会等の活動を積極的に行ってきた。鈴木前代表もモデル事業の委員となっていたが、去る2月26日に心筋梗塞により急逝した。障害者である2人の子息を残し、モデル事業の結果を見ずして亡くなられ、さぞ無念、残念であろうと思う。私たち家族の会の世話人は、鈴木前代表のこれまでの活動を無駄にすることなく、引き続き活動を続けていくことを申し合わせた。鈴木前代表が書くはずであったこの原稿も、これまでの本人の発言などを盛り込み書かせていただく。

高次脳機能障害者の捉え方

モデル事業の対象としてサンプリングされた当事者は、脳外傷による若年層が多いが、実態は東京都の調査でも明らかにされたように、脳血管障害の中高年男性が多い。一家の大黒柱が突然倒れるということは、その日からの看病もさることながら、経済的な問題も大きくのしかかってくる。確かに最近では、20代からの脳卒中や交通事故などによる頭部外傷の若年層も多くなり、就学・就労・年金・親亡きあと等の深刻な問題が起きている。救急医療の発達に伴い、高次脳機能障害は特殊な障害ではなく、だれでもがなりうる障害であり、年齢も幅広く、実態も抱える問題も多様である。高次脳機能障害者を捉える時、偏りのない視点で支援を考えていただきたい。

また就労支援を目標に支援プログラムを検討されているが、就労などとても期待できない、重度の障害者も多く存在することを忘れないでほしい。さらに「社会復帰」=「就労」だけではない実態も考慮していただきたい。「社会復帰・生活・介護支援プログラム」においては、多様なニーズに対しての長期にわたる継続した支援こそが求められているのである。

地方支援拠点機関について

当会には、モデル事業に参加している都道府県・政令指定都市に在住している方からも、相談が多くある。その方々はみな居住地に拠点病院等があることを知らず、また中には行政から当会を紹介された方もいる。モデル事業の支援拠点機関にとどまらず、広く地域支援のネットワークを構築し、周知・啓発にもさらに力を入れてほしい。

また支援拠点は生活圏にあるのが理想である。1か所にとどまることなく、医療機関だけでなく、地域の福祉、関係機関との連携をはじめ、そこが支援拠点になり得るようなシステムを作ってほしい。今後増え続けるであろう高次脳機能障害者に対応すべく、支援コーディネーターの人材育成にもさらに力を入れて、人数を増やしていただきたい。

既存のサービスについて

在宅支援においては介護保険制度の活用があるが、65歳未満の高次脳機能障害者は脳血管障害に限られ、40歳未満は切り捨てられている。これにより高次脳機能障害者の中に、さらに取り残される人たちを創出している。

また介護保険の適用に該当しても、高次脳機能障害者が使えるサービスはわずかである。たとえば、生活リハビリテーションとして公共交通機関を使っての外出訓練が必要であっても、それは外出介助にはならないと言われる。介護保険における外出介助は「買い物」と「通院」だけであるから、必要であれば自由契約かボランティアを見つけるようにしろと言われる。

現在ヘルパーやデイホームを利用している当事者もいるが、高次脳機能障害を理解し、適切なサービスを提供されていることが少ない。また要介護認定においても低くなりがちである。ヘルパーやケアマネジャー、施設職員、認定調査員などに対する高次脳機能障害についての専門研修が必要であると考える。

ショートステイに関しては、高次脳機能障害者はなかなか利用できないでいる。障害を施設職員に理解されず受け入れてもらえないのである。24時間目が離せない障害者がいる家族は疲弊しているのが現状である。

社会資源の活用にあたり、介護保険制度の改定においても、高次脳機能障害者がサービスを利用できるための何らかの方法を考え、提言していただきたい。

中間報告にはモデル事業終了後の予算や人員の確保の心配があったが、モデル事業の成果が十分生かされるために、国としての今後の予算措置を強く望む。

(いまいまさこ 高次脳機能障害者と家族の会代表)