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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年7月号

報告 災害を体験して

新潟県中越地震:聴覚障害をもつ人たちへの支援活動

迫利広

当会の概要

NPO法人H&Dエデュケーショナルは、これまで主に重度の聴覚障害をもつ子どもたちの支援活動を行ってきました。事務局は中越地震被災地区にある新潟県見附市にあり、スタッフの多くが自ら障害をもっています。活動の概要は当会のホームページ()をご覧ください。地震関連の活動としては、1.「聴覚障害児・者の安否確認」及び「安否確認・救援システムの開発・運営」、2.避難所での手話教室、3.耳の聞こえない子どもたちの心のケア、4.地震によって長期休校を余儀なくされた耳の聞こえない子どもたちの補習活動の4つを中心に行ってきました。ここでは1と2について紹介いたします。

限られたマンパワーを有効利用するシステム~安否確認・救援システムの開発・運用~

現地で安否確認活動をしていた本震翌日の10月24日、仙台の(株)プラスヴォイス(以下、P社)からの情報支援の申し出を受け、我々が調べた安否情報のとりまとめ作業をお願いしました。本震から2週間ほど経過した頃、次に大きな災害が起きた時、再度P社の善意に甘えることはできない、自分たちの身の安全は自分たちで守るべきと考え、一連の安否確認活動の反省を元に、IT技術を駆使し安否情報の取りまとめ作業を自動化する検討を開始し、仕様を作成。すぐに県内のIT技術者に開発を依頼しました。11月20日から運用を開始し、現在までに聴覚障害者、子ども、保護者、支援者約200人程がこの安否確認システムを利用できるようになっています()。

【明らかになった課題】

地震災害の支援活動で重要なのは最初の3日間です。この間は組織的な支援活動はまず機能しません。最も機能するのは「土地感もあり、現地の障害者のことをよく知っていて、現地に在住する、被災程度の軽い“動ける人”」の自主的な活動です。しかしこうした人の数は少なく、限られたマンパワーしかありません。この「限られたマンパワー」を効率的に救援が必要な人たちへ注力させることが必要であり、この安否確認システムはそのための情報源として極めて有効です。

【中越地震の経験を元にした安否確認システム】

このシステムは障害者だけでなく、町内会、サークル、学校、役所、団体等の数十~数百のメンバーの安否確認に有効です。お住まいの地域(新潟県外でも可)で、皆さんの団体用にアレンジをすることも可能です。使い方も非常に簡単ですので携帯電話からメール送信ができる方なら、どなたでも利用できます。現在、県内各地で利用説明会を開催していますが、皆さんの団体でもぜひ利用していただきたいと思っています()。

避難所での手話教室~障害者もできることから支援活動を~

安否確認活動を行う中で、避難所にいる聴覚障害者の数が予想よりも少ないと感じました。調べてみるとコミュニケーションが取れないことを不安に思い、避難所へ行かずに、危険を承知で自宅や車で生活していることが分かりました。それなら自分たちでそのコミュニケーション環境を改善しようと、地域の聴覚障害の子どもや大人、手話サークルの皆さんに呼びかけ、11月2日より避難所のべ9か所で手話教室を開催しました。避難所生活に関係する手話の指導や、避難所で聴覚障害者が困ること等の啓発活動等を行いました。今後避難所生活に関係する手話単語を載せたパンフレットを作成し、今回避難所となった各施設に常時設置する活動を行う予定です。

【明らかになった課題】

今回の地震でマスコミで取り上げられた聴覚障害者像は「災害弱者」「被支援者」としての色彩の濃いものでした。しかしそうした一方的な見方が、できることもせず、ただ支援を待つという姿勢・依存心の部分を助長したのではないかと感じています。単一の聴覚障害であれば、十分に支援者として機能します。事実、手話教室は多くの聴覚障害者が手話の指導にあたり、避難所生活を送る多くの人たちの心のケアにつながりました。今度災害が起こった時は、単なる「災害弱者」ではなく、能動的に情報を得て周囲の人たちの支援活動を行う「支援者」としてマスコミに注目されるよう、また何よりも普段支援している子どもたちの見本となれるよう頑張りたいと思います。

(はさまとしひろ H&Dエデュケーショナル理事長)

【参考】

(1)NPO法人H&Dエデュケーショナル http://www.geocities.jp/hdeducational/

(2)安否確認システム http://anpi.webknack.info

(3)お問い合わせはEメール:hdedu_office@yahoo.co.jp
   電話及びFAXは050-1398-2615まで