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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年7月号

報告 災害を体験して

東京都こころのケアチームの取り組み

坂井俊之

新潟県中越大震災における新潟県のこころのケア対策のひとつに、他自治体等に対しての「こころのケアチーム」すなわち多職種による災害時地域精神保健医療救護チームの派遣要請があります。今回、東京都福祉保健局からもこれに参画したので、その活動を課題と学びと合わせ、報告します。

派遣までの経緯

震災2日後の10月25日、新潟県精神保健福祉センターから現場レベルでの支援要請が、さらに、同日夜FAXで新潟県知事名での支援要請が東京都に届きました。

新潟県と東京都の間では事前協定はありませんでしたが、都の三つの精神保健福祉センターと精神保健福祉課をはじめ福祉保健局関係部課で協議を重ね、公務として派遣が決定されました。全国からのチーム派遣は最終的に39団体に及んだと聞きますが、阪神・淡路大震災当時と比べ、前例がなくても派遣が妥当であるとのコンセンサスが各自治体及び住民に醸成されてきたことの現われのように思います。

多職種チーム各班の構成と活動

発災後5日目の平成16年10月28日から11月11日まで、第1班~第4班が派遣されました。派遣先は堀之内町(現魚沼市)で、町北部が烈震ベルト地帯にかかる被害甚大地域でした。また、長岡~川口間で交通が寸断されており、新潟県の職員が出向きにくい地域でした。各班の構成と活動()()を表1に示します。

表1

第1班(3名:医師、看護師、事務) 県や地域の相談・医療機関との情報交換、避難所巡回の相談・治療が主となった。避難所では切り傷や打撲等に至るまでの診療、被災者との関係構築への努力を行った。
第2班(3名:医師、看護師2) 町保健師の依頼で、震災により医療中断が懸念される家庭を訪問。避難所での夜間診療所(昼間は被災者が復旧活動等に出向き避難所にいなくなってしまう状況に対応)を開設した。
第3班(4名:医師、看護師、保健師2)

休日の避難所日中診療や、順次避難所が解消されていく中で、健康調査と連動した家庭訪問診療を実施した。

第4班(4名:医師、看護師、精神保健福祉士、作業療法士) 家庭訪問診療の他、学校再開にあわせ、震災により混乱した学校を支援することを目的に、被災した生徒のこころのケアへの助言及び被災した教員へのメンタルヘルスケアを行った。

災害時地域精神保健医療活動は、疾病重視の医療モデルより、多面的に生活を重視する保健・福祉モデルが重視されます。医師・看護師だけではない多職種チームの必要性もここにあります。

求められる役割が時期ごとに変化し、各班の職種の組み合わせも重要でした。たとえば第1班には本庁精神保健福祉課行政職員が加わり、本庁との調整や現場での派遣体制の構築などに活躍しました。第2班では、男性看護師を手厚く配したことで、機動的かつ迅速な救護医療活動がとれました。第3班では、他の自治体の応援保健師の全戸一斉訪問健康調査が活発に行われ、精神保健医療活動におけるトリアージ機能を果たしており、連携が重要かつ有効でしたが、お互いのメンバーも数日ごとに変わる苦労もありました。この班に複数配置された保健師は連携に力を発揮しました。第4班では、地元のいろいろな機関との連携のうえで精神保健福祉士、作業療法士が活躍しました。

各班の交代時期には少なくとも一昼夜重なるようにしました。これは初めて入る地域であるものの自律した活動が求められ、情報も入りにくく、状況・ニーズが日々変化するため、十分な引き継ぎが必要であったからです。

また、活動では、災害弱者といわれる高齢者、障害者、小児・児童等への支援を特に重視し、身体医療救護チーム及び地域医療機関、教育関係機関等との連携を密にしました。高齢者・障害者への支援では、連携の中で急性ストレス反応や認知症の方の避難所生活による症状悪化の相談があり、リエゾン診療を行いました。

被災自治体の支援活動

新潟県の指示のもと、町の指揮下に入る形で、こころのケア医療救護活動を行いました。この仕組みは、我々の活動が地元のニーズに即し、また支援チーム撤退後を見据えた活動になることに寄与しました。一方で、被災自治体職員のメンタルヘルスの問題も感じましたが、この仕組みにおいては、役割や権限のうえで介入には限界がありました。

我々の活動後、地元自治体及び石川県のこころのケアチームに引き継ぎを行いました。その際も遺漏なくかつ今後の堀之内町地域の精神保健活動に役立てられるよう配慮しました。

支援活動からの教訓

1.災害支援は積極的に

職員派遣は被災地の支援にもなりますが、派遣した自治体(機関)にとっても災害支援対策の課題発見と強化につながります。また、災害の様相は多様で、マニュアルでは対応しきれない部分も多く、人材育成の重要性を実感しました。さらに、行政に求められる対策の水準も年々更新されていることを感じました。

2.平素からの地域精神保健福祉活動の重要性

災害時に普段以上の活動はできないことを痛感しました。また、災害時に備えることの重要性も感じました。当センターではマニュアル等を策定し、都での災害に対して迅速に精神保健医療活動ができるよう緊急体制を整備していますが、さらに今回の教訓を生かしたいと思います。また、行政機関職員向けにも「災害時のこころのケアの手引き」を作り配布していますが、インターネットでもダウンロードが可能()ですのでご覧ください。

【謝辞】

今回の派遣活動の成果は、この事業に当たった全職員によるものであり、皆様に感謝いたします。震災で迅速な対応を取られ、支援チームの受け入れの際様々なご配慮をいただいた新潟県及び関係自治体に敬意を表します。

(さかいとしゆき 東京都中部総合精神保健福祉センター生活訓練科長)

【文献】

(1)http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/chusou/video/80.pdf(こころの健康便り80:p・6)

(2)菅原誠、福田達矢、坂井俊之、ほか:新潟県中越地震・東京都こころのケア医療救護チームの活動―震災被災地での初期精神保健活動の実際.精神医学:印刷中

(3)http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/chusou/video/saigai.pdf