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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年7月号

自治体での取り組み 山梨県

「障害者と高齢者のための災害時支援マニュアル」作成と山梨県の取り組み

城野仁志

はじめに―昨年の災害から学んだこと

昨年は、新潟・福井豪雨などをもたらした相次ぐ台風の襲来に加えて、10年前の阪神・淡路大震災以来、国内で最大の地震災害となった新潟県中越地震が起こりました。

これらの災害を通じて、特に課題として浮き彫りになったのは、災害時に弱い立場に置かれる障害者や高齢者など要援護者の方々への防災対策です。

地域に住む一人ひとりの要援護者を、災害が起きてからでなく、平常時から、いかに多くの人たちが関わり支え合っていくかが、今まさに問われています。

地域ぐるみで要援護者の支援を

山梨県では、平成16年3月に策定した「新たなやまなし障害者プラン」等を踏まえ、近い将来発生が懸念される東海地震等の災害から、市町村等が障害者や高齢者等の要援護者を守るためのモデルとなる「マニュアル」を平成17年3月末に作成しました。

17年度中にすべての市町村に出向き、障害者や高齢者等の要援護者を災害時に救援するための研修会開催や実行計画づくり、訓練の反復実施などを、継続的に支援する予定です。

このマニュアルを、市町村や自主防災組織、福祉関係者、ボランティア団体など多くの方々に「指針」として活用していただき、「防災」をキーワードとして、地域ぐるみで要援護者を支援する「助け合いネットワーク」を網の目のように構築することで、災害にも強く、だれもが暮らしやすい福祉のまちづくりを育んでいくことを、心から期待しております。

提案の骨子(重要課題の要約)

1.要援護者の生活支援などを行う人材の育成

最初のきっかけとして、県が各市町村に出向き、市町村の呼びかけで可能なかぎり多くの関係者にお集まりいただき、「県マニュアル」の説明会及びその地域に則した要援護者対策の提案と話し合いの場を設けていただくようにします。それを契機として、市町村が具体的な行動計画を作成するよう、引き続き助言・支援を行います。

また、関係機関が連携して要援護者を支援する「助け合いネットワーク」の設立や充実を促すとともに、市町村ごと、さらには小地域ごとに開催する研修会や防災訓練などに役立つ各種資料やノウハウの提供・助言も継続的に行っていきます(■図1■)。

そのうえで、災害時に備えて、一人ひとりの要援護者に複数の“支援員”を定め、支援員等を対象とした研修会等で障害種別に対応できる人材の育成を図り、具体的な個別避難支援計画(防災カルテ、避難支援プラン等)を当事者と一緒に立案し、地域で活用できるよう支援していきます。

2.プライバシーに配慮した要援護者の事前把握、避難誘導体制など支援体制の確立

「県マニュアル」の説明会で、小地域ごとに多くの住民の方が参加して行う「防災ワークショップ」(例:自主防災マップづくり、わがまち安全点検(野外調査)、等)の方法や、プライバシーに配慮した要援護者(情報)の事前把握ノウハウなどを分かりやすく提案します。

当事者がプライバシー保護のため、個人情報の提供に抵抗感をもつ場合でも、本人の信頼を得た複数の支援員と当事者間で情報を共有し、災害時などに支援員が救援活動を行えるようにします。

なお、必ずしも市町村が要援護者台帳を一元的に管理していなくとも、災害時に市町村等が避難準備(要援護者避難)情報等を支援員へ確実に伝達すれば、支援員が要援護者宅まで出向き救援活動を行うこともできます(■図2■)。

要援護者に対して、災害時に迅速、かつ確実に情報伝達や避難誘導を行う支援体制を確立するため、重要な災害情報の伝達にあたっては、支援員による直接訪問や携帯電話への一斉電子メール送信など多重の連絡方法を確保するようにします。また、毎年行う防災訓練で、多くの支援員が個々の要援護者の安否確認、避難誘導などの防災訓練に参加し、要援護者への支援方法を“体で覚える”ことができるように働きかけます(■図3■)(■図4■)。

3.介護が必要な要援護者のための“福祉避難所”の確保

要援護者が身体介護や相談等の必要な生活支援が受けられるなど、安心して生活ができる体制を整備した“福祉避難所”を、市町村が(必要数)指定するようにします。

福祉避難所は、市町村ごとに「総合福祉センター」等の公立施設を“拠点福祉避難所”として指定するとともに、一般の指定避難所(小中学校、公民館等)の中で“福祉避難室”として活用できる部屋を“地区福祉避難所”として位置づけ、速やかな立ち上げができるようにします。

また、福祉避難所の立ち上げ・運営に係る防災訓練を、施設関係者だけでなく地域住民も参加して、定期的に行うようにします。

さらに、民間の社会福祉施設(例:特別養護老人ホーム等の入所施設、デイサービスセンター等の通所施設等)で“民間福祉避難所”として活用できる施設をリストアップし、事前に市町村と社会福祉施設の間で協定書を締結するようにします。

災害時に、まず要援護者を地域の身近な避難所(福祉避難室)に誘導した後、必要に応じて、より広域的かつ障害種ごとに対応した福祉避難所に二次避難できる体制を構築します(■図5■)。

おわりに

こうした災害時要援護者対策を“絵に描いた餅”に終わらせないためには、まず「地域ぐるみで防災に取り組もう!」という住民全般の意識の高まりを育むことが大切です。そこで大切な役割を担うのが、自治会単位等で住民活動の牽引役となる、自主防災リーダーやボランティアの存在です。

山梨県では、県の災害ボランティア・コーディネーター養成講座の修了者などが各地で自発的な災害ボランティアの会などをつくり、市町村や自治会等と連携して、要援護者対策を含めた自主防災活動を進めています。市町村も、そうした意欲的な人材を自治会(自主防災組織)等の専門職として位置づけ、さまざまな場面で活用するなど、住民の自発的な取り組みを積極的に支援し始めました。

これからも、“防災”をキーワードに、平常時からだれもが暮らしやすい“助け合いの地域づくり”を一層進めていきたいと心から願っています。

(じょうのひとし 山梨県福祉保健部障害福祉課副主幹)