音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年7月号

災害時における要援護者支援の取り組み

丸山直紀

昨年は、新潟県や福井県を襲った梅雨前線豪雨とともに、死者・行方不明者98人もの人的被害が発生した台風第23号を含めて10個もの台風が上陸するなど、まさに「災」一色の年でした。これら一連の水害、土砂災害等においては、市町村長が避難勧告・指示を適切なタイミングで適当な対象地域に発令できていないことや、住民への迅速・確実な伝達が難しいこと、避難勧告等が伝わっても住民が避難しないことが明らかとなりました。また、高齢者等の災害時要援護者(高齢者、障害者、外国人等を言います。以下、「要援護者」と記載)の避難支援については、要援護者や避難支援者への情報伝達体制が十分に整備されていないこと、要援護者情報の共有・活用が進んでいないこと、避難行動支援計画・体制が具体化していないことが明らかとなりました。

そのため、国では10月に「集中豪雨時等における情報伝達及び高齢者等の避難支援に関する検討会(座長:廣井脩東京大学大学院教授)」を立ち上げ、有識者、地方公共団体、関係団体等と一体となり、精力的に検討を進めました。その成果は、17年3月末に「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」として取りまとめられています。本稿では、災害時要援護者の避難支援を中心に本検討成果を説明いたします。

1 避難準備(要援護者避難)情報

これまで、市町村長が住民に避難を求めるものとしては、基本的には避難勧告と避難指示の二段階で発令されていました。しかし、検討成果では、これらの前段階として、一般の住民に対して避難の準備を呼び掛けるとともに、要援護者のように、特に避難行動に時間がかかる方に対して早めのタイミングで避難を開始することを求める「避難準備(要援護者避難)情報」が必要であるとしています。

これらの情報を迅速かつ確実に伝達するため、市町村、福祉関係者等は、要援護者の特性を考慮し、要援護者の日常生活を支援する機器等の防災情報伝達への活用を進めることも求められています(例 聴覚障害者:携帯電話メール、テレビ放送(地上デジタル放送も含む)、視覚障害者:受信メールを読み上げる携帯電話 等)。

2 避難勧告等の判断・伝達マニュアルの作成

市町村長は、避難勧告等の迅速・的確な判断をするために、「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」を基に、災害緊急時にどのような状況において、どのような対象区域の住民に対して避難勧告等を発令すべきか等の判断基準(具体的な考え方)について取りまとめたマニュアルを作成することが必要であるとしています。

判断基準(具体的な考え方)に関しては、たとえば大河川の氾濫を想定した場合の避難準備(要援護者避難)情報については、要援護者の避難に必要な時間と、いつ堤防が破堤してもおかしくない水位(危険水位)に到達するまでの残り時間(予想)とを考えて設定されることになります。より差し迫った状況になってから発令される避難勧告と比べると、避難に必要な時間を多めにとることになるため、要援護者は安全で確実に避難を終えることができるようになりますが、その反面、予測精度が低くなることから、避難したものの結果的に洪水等が発生しない確率も増えることになります。

一方、市町村は、避難すべき区域や避難勧告等の判断基準(具体的な考え方)は事態の進行や状況も踏まえて総合的に判断されることを十分に理解することが求められます。すなわち、想定を超える規模の災害が発生することや、想定外の事象が発生することもあることから、堤防の異常や土砂災害の前兆現象、巡視等により報告される現地情報、避難行動の難しさ(夜間や暴風の中での避難)等、必ずしも数値等で明確にできないものも含めて、総合的な判断を行うことになります。

3 市町村等による避難支援の進め方

災害時における要援護者の避難支援は、家族や近隣の助け合い(自助・共助)が基本となります。そのうえで、市町村は、要援護者に関する情報(住居、情報伝達体制、必要な支援内容等)を普段から電子データ、ファイル等で管理するとともに、一人ひとりの要援護者に対して複数の避難支援者を定めるなど、具体的な避難支援計画(避難支援プラン)を整備しておくことが重要であるとしています。

そして、市町村は、自助・共助による避難支援の取り組みを促進するとともに、自助・共助による必要な支援が受けられない要援護者の避難支援の仕組みについては、関係機関(消防団員、警察の救援機関)や自主防災組織、近隣組織、介護保険制度関係者、障害者団体等の福祉関係者、患者搬送事業者(福祉タクシー等)、地元企業等のさまざまな機関等と連携し、早急に整備する必要があるとしています。

4 避難支援に必要な対策

(1)情報伝達体制の整備

要援護者対策については、高齢者、障害者、防災等の複数の部局にまたがる課題であるために、これまでは担当部局が内部的・対外的に不明確となるとともに、普段から関係部局の連携の下、総合的な対策を進めるような取り組みの実施が困難であったという傾向がみられました。そのため、市町村は、福祉関係部局を中心とした横断的な組織として「災害時要援護者支援班」を設けるとともに、社会福祉協議会、民生委員、介護保険制度関係者、障害者団体等の福祉関係者との連携を深め、発災時はこれらのネットワークを避難準備(要援護者避難)情報等の伝達に活用することが重要であるとしています。

(2)要援護者情報の共有・避難支援プランの整備促進

避難支援プランを整備するため、市町村は、要援護者本人から収集した情報を防災関係部局、福祉関係部局等で共有することが基本となります。しかしながら、対象者が多く、早急な整備が不可能な場合等のため、共有情報方式(市町村が、個人情報保護条例中の個人情報の目的外利用・提供に関する規定に基づいて福祉関係部局と防災関係部局とで情報共有し、分析のうえ、要援護者を特定する方式)と併用することも必要であるとしています。

また、一般に、高齢者、障害者等については、避難勧告等が確実に伝達されれば自力で避難できる方も相当数含まれており、また、ハザードマップの活用により、避難が必要な方の特定(絞り込み)も可能となります。そのため、市町村は、避難支援プランの対象者の範囲についての考え方を明確にし、重点的・優先的に進めることが求められています(たとえば、身体障害(1・2級)や知的障害(療育手帳A等)の方、介護保険の要介護度3以上の居宅で生活をする方などを重点的・優先的に進めることが挙げられます)。

さらに、避難支援プランについて要援護者の同意を得るためには、普段から接している社会福祉協議会、民生委員、介護保険制度関係者、障害者団体等の福祉関係者の理解と協力が重要であるとしています。すなわち、手上げ方式(支援制度創設について広報・周知したうえで、自ら希望した者の避難支援プランを策定する方式)では、同意者が対象者全体の1割程度にとどまっているところが多いのに対して、豊田市では一人暮らし高齢者の登録者に対して民生・児童委員が戸別訪問して制度の趣旨を直接説明したところ(同意方式)、8割以上の方が同意しています。このようなことからも、社会福祉協議会や障害者団体等の方々の協力が不可欠であることが裏付けられているといえます。

「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」では、避難支援プランに関する取り組み事例として豊田市のほか、安城市、御殿場市などの積極的な取り組み事例を紹介しています。また、近隣で安全な避難場所の整備に向けた取り組みとして、福岡市春住校区を紹介しています。このような取り組み例を参考にしつつ、市町村は避難支援プランの作成促進を図ることが重要であるとしています。

5 今後の取り組み

このようなガイドラインに沿った取り組みを促進するため、国では、検討成果を昨年度末に全国の自治体に通知した後、4月22日に推進会議を立ち上げ、関係省庁連携の下、都道府県等の担当者会議での説明や、モデル的な取り組みの実施、取り組み状況の実態把握、フォローアップ等を実施することとしています。また、本検討会では「避難支援」に集中した検討を行ってきたことから、残された検討課題として、要援護者の特性に配慮した避難所運営、福祉避難所の整備等についての検討をさらに進めることが必要であるとしています。

なお、これらの検討過程においては、災害時情報保障委員会や日本障害者リハビリテーション協会などの方々に大変ご協力いただいており、重ねてお礼申し上げます。

(まるやまなおき 内閣府(防災担当)災害応急対策担当参事官補佐)