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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年7月号

障害者権利条約への道

アドホック委員会第6回会合の課題と展望

角茂樹

10年前にメキシコが障害者権利条約の策定を主張した際、その有用性についてさまざまな疑問が出されたことは記憶にある方も多いと思います。その後、2001年12月に国連総会で策定に向けて原則同意が得られてから3年半が過ぎました。3年以上の年月が流れているのに、いまだ障害者権利条約に関する国連総会アドホック委員会(以下、アドホック委員会)で条約策定のための作業が続いていることを遅いと見る向きもありますが、この間の作業は決して無駄ではなく多くの進展があったと思います。最大の成果は、障害者権利条約の意味について条約策定者の理解が大変進んだことでしょう。現在の条約案全体に流れているのは、障害者の保護に焦点を当てるのではなく権利に焦点を当てるべきこと、言い換えるならば、障害者を慈善の対象と捉えるのではなく、障害のない人と同様に暮らせるような権利を障害者に保障すべきであるとの基本的な考え方です。また、何回も言われてきていることですが、日本を含む各国政府代表が障害者団体を排除することなく障害者の人たちと一緒になって審議を続けていることも条約交渉上の大きな成果です。

1 新議長の選出

これまで議長を務めてきたエクアドルのルイス・ガレゴス・チリボガ大使(国連常駐代表)が他国に転出するために議長を辞任したことに伴い、ニュージーランドのドン・マッケイ大使(国連常駐代表)がアドホック委員会の新しい議長に選出され、本年8月に開催される第6回会合以降、議長を務められることになりました。実は、昨年1月に開かれた条約草案起草作業部会を議長として主導したのも、その後の会合でガレゴス大使とともにこれまでのアドホック委員会での議論を引っ張ってきたのもマッケイ大使であったことから、新議長の造詣と手腕には定評があるところです。今回マッケイ大使が後任議長になったことにより、条約策定のための審議は一層加速することが期待されます。

2 これまでの審議

これまでに5回開催されたアドホック委員会においては、平等権、生命の権利、身体の自由といった政治的・市民的権利(いわゆる自由権)につき特に進展がありました。いくつかの点に関して説明しましょう。

(1)まず、雇用割当等、形式的には取り扱いに区別があるが、実質的には平等を促進するための特別な措置が差別に当たらないことについては、参加国の間で合意がありましたが、これを時限的なものと捉えるかどうかについては、今後さらなる議論が必要です。

(2)次に生命の権利ですが、これはこれまで障害を理由に生まれるのを拒否されてきたケースがあったことに対する反省と、女性の産む産まないを決定する権利を主張する人たちの間で機微な問題となっていましたが、第5回会合において、「締約国は、全ての人間が生命に対する固有の権利を有することを再確認し、他者と平等に障害者によるその実効的な享受を確保するための全ての必要な措置をとる。」との案文で合意が得られました。

(3)法の下の平等に関しては、障害者は障害のない人と同等の権利能力を有しますが、場合によって後見開始審判などの国内手続により行為能力に一定の制限がかかることもあり得ることについておおむね一致しました。

(4)障害者の強制的治療・強制入院については、障害そのものを理由にするのではなく、自傷他害のおそれがある場合には行わざるを得ないケースもあることについては理解が得られていますが、具体的な規定ぶりについてはいまだに意見が分かれています。

(5)手話の言語性については、否定する意見はありませんが、それをどのような形で表現するかについて今後、議論が必要とされています。

3 次回会合における議論内容

次回のアドホック委員会第6回会合は、8月1日~12日の10日間、ニューヨーク国連本部で行われる予定となっています。いよいよ教育の問題、雇用の問題等といった合理的配慮にも関連する個別の問題についても具体的な審議が行われます。統合教育の問題、職場における合理的配慮は企業の義務か努力目標か等についても議論が行われることとなるでしょう。時間があれば、国際協力やモニタリングに関しても協議が行われる見込みです。

4 今後の議論

障害者権利条約の議論が始まってから各国の考え方も少しずつですが確実に変わってきています。このことは、望ましい内容の条約がなるべく早く合意されるのが一番良いことはもちろんですが、条約の内容を充実させるためには、審議を拙速に行わず、各国の意識と理解の進展を伴った形で行うのが重要であることを示しています。これは日本の事情にも当てはまるでしょう。もちろん、いつまでもだらだらと議論をして良いということを意味していないことは言うまでもありません。ぜひ障害者の方々にお願いしたいのは、障害者権利条約の進展を見守ると同時に、積極的に議論に参加してほしいということです。今後とも政府・国民が一緒になって有益な条約を作り上げる努力をしようではありませんか。

(すみしげき 外務省国際社会協力部参事官)