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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年7月号

障害者自立支援法案をめぐって

審査会について

大濱眞

障害者自立支援法で新設される審査会には2つの問題点があります。

○サービス水準が低い市町村では低サービス水準のまま固定化します。

○審査会の委員は市町村が選び、市町村都合の審査会となり、透明・中立・公平でない審査会も想定されます。

以下、詳しく見ていきましょう。

市町村審査会とは

この法案では、障害程度区分の審査判定業務は、市町村審査会で行われます。審査会は、原則全国のすべての市町村に設置され、市町村が単独で設置できない場合は複数の市町村で審査会を共同設置(広域連合の審査会)できることになっています。

この市町村審査会(以下、審査会)の人員は介護保険の要介護認定審査会同様3人以上と想定され、保健または福祉に関する学識経験者の中から選ばれますが、その人選は市町村長(特別区:区長)が行います。つまり、実質的には市町村の障害福祉担当部署が人選することになります。

審査会の業務

審査会では二つの業務が行われることになっています。

一つ目は、ホームヘルプなど介護給付を希望する障害者全員に行われるアセスメント(障害程度区分判定)の2次判定。ここでは医師の診断書(介護給付の場合は必須)などの情報を元に1次判定(コンピューター判定)に若干の微調整を加えます。

二つ目は、非定型な支給決定。ホームヘルプなどの時間数が市町村で決めた基準よりも多い支給量が必要となった場合(=非定型な支給決定案の場合)にそのサービス水準が適正か、支給決定の前に市町村は審査会に意見聴取し支給決定する業務です。一人暮らしなどの最重度障害者で長時間支給量が必要な障害者などが審査されます。

ヘルパー支給がどれくらい長時間になれば「非定型」として審査会にかけるかは決まっていません。しかし、障害程度区分に設けられる基準=「国庫補助金配分額」を超える場合は非定型とする市町村が多くなると想像されます。

市町村は2次判定を元にヘルパー制度やデイサービスなどの支給決定案を作りますが、「障害程度区分×区分内人数」までしか国庫補助されないので、ほとんどの市町村は、その区分の障害者の平均予算を国庫補助基準内に抑えて支給決定案を作ることになります(そうでないと、歳入欠損ということになり問題になります)。その際、一人暮らしの障害者など家族の介護を得られない場合は、その支給決定案では生活できませんから、もっと多いサービス量を希望します。そのような場合、市町村は市町村基準額を超えた支給決定案の作成が必要となり、一般的な基準から逸脱した「非定型なサービス支給案」となるので、審査会が事実上の支給決定を行います。

3月18日の全国課長会議では「2月17日全国会議で提出された質問事項について」という文書が配布され、審査会について以下のような回答がありました。

市町村質問:市町村の事務負担増が予想されるが、介護保険の審査会との関係はどのように考えているか。

国回答:介護保険審査会とは制度的には異なるものであるが、委員が双方の審査会委員の要件を満たす場合や、片方の審査会の終了後、一部の委員の入れ替え、追加の措置等を講じる場合には、事務処理の効率性の観点から活用することが考えられる。

つまり、ほとんどの市町村では、介護保険審査会と障害者自立支援法の審査会は、同じ日に同じ場所で時間をずらしてほとんど同じメンバーで行われると想定されます。厚生労働省も「事務処理の効率性の観点から活用」と、これを推進の立場です。従って、多くの市町村で採用される方法は、精神障害と知的障害の専門家を介護保険審査会に追加して障害の審査会とするのが普通ではないかと考えられます(■図1■)。

審査会の問題点

(1)サービスが低い市町村が低サービスで固定化

障害者の介護制度では、今まで国はケアマネジメント研修などでも「その障害者が自立して生活するにはどのようなサービスが必要かを考えて支給する」という考え方を自治体に対して説明してきました。「市町村が責任を持って障害者一人ひとりそれぞれにサービス量を決める」「支給量の時間数に一律の上限を設けてはいけない」とも説明してきました。

たとえば家族の介護が得られない最重度障害者の場合、介護がないと命にかかわるので、市町村は現場でその障害者の状況をよく把握し、自立した生活を送るにはどのようなサービスが必要かを考えて市町村の責任で支給決定しなければなりません。これが介護保険とは大きく違うところです。介護保険はサービスが足りなかろうが審査会で出た結果に基づく一律の支給量までしか保障しません。不足分は「高齢者の貯金や、高齢者が過去に養ってきた子ども世帯の助けで何とかしてください」という制度理念です。

このように、今までの障害ヘルパーの制度は、深刻な状況の障害者を把握している現場の市町村がサービス量の決定に責任を持つ制度でした。ところが、障害者自立支援法では審査会が支給量の時間数などを決定する仕組みになります。つまり、非定型的な支給決定について、市町村が審査会の意見に対して異議を唱え支給量を増やすことは現実にあり得ません。審査会で決定されたサービスが障害者が生活できない低い水準だった場合、市町村に対し「このままでは在宅生活できません」と訴えても、市町村は「審査会が決めたことですので変更できません」と回答します。

このように、現場で障害者の生存に責任を持つべき市町村が最終的な支給量決定を行えないという制度は、問題があります。海外でもこのような障害ヘルパー制度は聞いたことがありません。特に問題なのは、現在支給量に一律の上限を設けるなどして、低い水準の制度しか行っていない市町村です。これらの市町村は障害福祉予算も少なく、数値の入った障害福祉計画を義務付けても、低い予算で済む福祉計画策定が想定されます。これらの市町村は、審査会の委員の人選を行う際にも、当然、市町村の意向に沿った委員を選出します。つまり、当初から低い予算の範囲内で支給量の決定を行うという審査会になります。このような市町村では、急に家族が入院して最重度障害者が一人暮らしの状態になったとしても、審査会が1日24時間の支給決定をすることはありえません。

審査会は市町村の予算を意識し、現状のヘルパー予算の範囲内で支給量を決める審査となります。このとき、障害者が市町村に「生活できないので何とかしてください」と要望しても、担当部署は「審査会が公正に決めたことですから、市町村がそれを覆すわけにはいきません」と答え、制度改善は行われません。このように、審査会は、サービス水準の低い市町村では、その状態を固定化するシステムとなります。

サービス利用申請者は都道府県不服審査会に不服を申し立てることができます。しかし、この不服審査会は、不服内容が、市町村審査会で決められた障害程度区分ごとに設けられた基準と著しく乖離しない場合など特別な理由がない限り改善されることはありません。

これに対して、市町村が支給決定に最終責任を持つ現状の制度では、家族の介護を得られないような命にかかわる障害者が出たときには、市町村との交渉が行われ、制度改善が可能です。このように現在の障害者居宅介護制度は各地の市町村で交渉が行われ、30年経って、今日の水準にレベルアップした経緯があります。しかし、いまだ全国2300市町村の中で、支給量に上限を設けていない市町村は60か所程度しかありません。多くの市町村はこれらの現実に則して重度障害者の支給量を伸ばす必要があるのに、この法案の審査会は、必要かつ適切な支給量を障害者の状態に配慮して決めることができない恐れがあります。

健常者も、いつ事故やけがで最重度障害者になり一人暮らしになるかはわかりません。そうなった時、全国どこでも自立した生活が可能なホームヘルプサービスが受けられるようになることが必要です。そのためには、審査会の業務は障害程度区分の2次判定に限定し「支給量を市町村が責任を持って決定する」ようにすべきです。

(2)審査会の委員は市町村長が選ぶので不公正である

福祉予算が少なく公共事業などが強いような市町村では、審査会の委員も市町村の意向に沿って、給付抑制を基本理念に持つ委員が選ばれる可能性が強いでしょう。また、医療や入所施設関係者が委員の中心になり、重度障害者の在宅での自立した生活についての知識のないことが考えられます。これでは公正な人選とはいえません。本来、審査会は市町村の考え方に左右されない公平で中立的な立場の委員で構成されなくてはなりません。従って、審査会の委員には必ず重度障害者の地域生活について知識のある、介護の必要な障害者を入れるよう政省令で規定すべきです。市町村が審査会委員の人選に当たって、どのような具体的要件が必要かを十分に関係者と議論し、政省令で「透明・中立・公平の確保」のための規定を盛り込むべきです。

たとえば、審査会委員の人選前や人選後に、市町村の障害福祉計画や当初予算の範囲で仕事をするように求めることを禁止するような規定を政省令で工夫することも必要となるでしょう。

終わりに

以上、審査会について、問題点等を述べましたが、この審査会の規定(政省令で)だけでは自ずと限界があります。審査会の委員が市町村都合の恣意的な委員となる可能性を完全に排除することは困難でしょう。そうなれば「どんなに障害が重くても地域で普通に暮らせる」という障害者地域生活の基本理念は絵空事となります。従って、このような現実的な懸念を回避するためには、国庫補助基準と障害程度区分の支給決定に関して次のような対策を政省令に明記する必要があります。

○障害程度区分が現実的なものになるように、長時間の支給量の必要な一人暮らし(介護が得られない人も準ずる)障害者の場合には別基準を設ける必要があります。

○障害程度区分の指標は、現在の案はADLなどに着目した医療モデルです。社会参加や介護者の有無(独居または同居)などを1次判定の指標にすべきです。

○障害程度区分の適切な判定のためには、2次判定後の勘案事項に関わる参加や活動について、個々の障害者が置かれている状況を1次判定の際の認定項目に追加することが必要です。

○国庫補助金配分については、障害程度区分ごとに国庫補助金を配分し、他区分に移行できない非弾力的で柔軟性のない制度設計となっています(厚労省説明:法案不記載)。これでは、あまりにも硬直的で非現実的施策です。前述したように、小規模障害福祉予算の市町村で、急に家族が入院して最重度障害者が一人暮らしの状態になったとしても、審査会が1日24時間のヘルパー支給決定を決めることはありえません。このような場合、この障害者は施設で生活する以外の選択肢以外に生活する方法がないというのが現行の制度設計です。小規模障害者予算の市町村でも対応できるよう、政省令で改善することが不可欠な課題です。

(おおはままこと 社団法人全国脊髄損傷者連合会副理事長)