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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年2月号

ワールドナウ

第17回アジア知的障害会議

沼田千妤子

第17回アジア知的障害会議が、インドネシアのジョクジャカルタにおいて開催された。会議の概要を以下に報告する。

会議の概要

  1. 主催:アジア知的障害連盟(Asian Federation on Mental Retardation)
  2. テーマ:A Concerted Effort(力を合わせて)
  3. 日時:2005年11月18日~23日
  4. 場所:インドネシア、ジョクジャカルタ シェラトンホテル
  5. 参加国(者)数:18か国 383人(インドネシア―108人、韓国―72人、日本―62人、フィリピン―41人、シンガポール―36人、台湾―34人、マレーシア―10人、香港―5人、タイ―3人、バングラデシュ―2人、オーストリア―2人、オランダ―2人、インド―1人、イラン―1人、マカオ―1人、フランス―1人、ロシア―1人、米国―1人)
  6. プログラム―7全体会、12分科会、総会、理事会、文化の夕べ等

研究・実践発表

72題の研究・実践が報告された。発表をテーマ別に見ると、特殊教育や訓練技法が最も多く全体の30%(22題)を占め、インクルーシブ教育関係の20%(14題)、親の役割や家族支援の12%(9題)がそれに続いた。教育関係としては、その他にもカリキュラムや学校における職業訓練の話題もあり、それらを合計すれば全体の50%を上回る発表が教育や訓練に関するものであった。

一方、社会統合や自立生活、職業生活をテーマにした報告は合計で6題と多いとは言えず、アジア諸国では、教育に多くの努力が払われており、しかし、学校卒業後の支援はまだ少ないことを表わしていた。また、毎回多くの発表が見られたCBRの報告は、今回は少なく、1題にとどまった。

躍進が見られたのはインクルーシブ教育関係の発表である。内容としては、成功事例より「インクルージョンの試み」や「課題」が多かった。発表者の経験や努力は聴衆の共感を得、演者とフロア間での活発なやりとりが見られた。

なお、発表者を国別に見ると、インドネシア、台湾、韓国、シンガポールの順に多く、4か国で全体の80%を占めた。

理事会・総会

アジア知的障害連盟には理事会と総会があり、理事会は9人の議決権を持つ理事(国)と7人の名誉理事で、総会は正会員14か国(2005年11月23日より15か国)の代表者で構成される。そして、連盟運営に関する事項は理事会での議論と総会の承認をもって決定し、また、総会では理事(国)の選挙を行う。

今会期中には3回の理事会と1回の総会が開催され、第18回会議内容や第21回会議開催国(2013年)についての議論や入会希望団体(国)の検証が行われた、また、理事国選挙が実施された。以上から、会員国および2005年~2007年の理事(国)、そして2013年までの開催国が以下の通り確定された。

  1. 正会員国:インド、イラン(2005年入会)、インドネシア、韓国、シンガポール、スリランカ、タイ、台湾、日本、ネパール、香港、マレーシア、パキスタン、バングラデシュ、フィリピン
  2. 理事(国)(任期:2005年11月23日より2007年11月23日)Prof.Dr.Tai Hwa Emily Lu(会長―台湾)、Dr.Francis C.Chen(第一副会長:シンガポール)、Mr.Bae Yun CHANG(第二副会長:韓国)、Ms.Pramila BALASUNDARAM,Prof(第三副会長―インド)、Takeshi KANEKO(理事:日本)、Dr.Tak Was Silva YEUNG(理事:香港)、Prof.Dr.Sri Wongse HAVANONDA(理事:タイ)、Prof.Teresita de MISA(理事:フィリピン)
  3. 第18回~21回(2007年~2013年)開催国
    第18回(2007年)―台湾、第19回(2009年)―シンガポール、第20回(2011年)―韓国、第21回(2013年)―インド。

なお、台湾より第18回の会議計画が以下の通り提案され承認された。

  1. 会期:2007年11月18日~23日
  2. 場所:台湾、台北、グランドホテル
  3. テーマ:Universal Design Environment
  4. 組織団体:Special Education Association of the Republic of China 他
  5. 言語:英語
  6. 参加費(会員/非会員):USD250/USD300

提案された会議内容は、台湾の意欲がうかがえるものであった。ただ、残念ながら、第15回会儀(日本開催)で成果を上げた知的障害者本人による議論の場が計画されていなかった。そこで、日本知的障害福祉連盟会長である金子理事が、台湾大会にも本人のためのプログラムを設定することを提案し、他理事によりその重要性が認められた。しかし、今会期中には結論がでず、審議は次回理事会(2006年11月)に持ち越されることになった。

文化の夕べ、懇親会など

文化の夕べでは、主催国インドネシアNGOが「アチェ津波」を題材にしたミュージカルを上演した。平和な村を襲った津波と厳しい状況を生き抜こうと格闘する人々の姿を、インドネシアの民族舞踏と歌で力強く表現したもので、言葉の壁を乗り越えて観衆の共感を得た。また、懇親会では参加18か国がそれぞれのお国自慢を披露した。日本の出し物はダウン症をもつ子どもたちの日本舞踊で、その愛らしさが各国参加者の拍手喝采を浴びた。

おわりに

研究・実践発表の項で述べたとおり、教育や訓練技法に関する発表が多数見られた。そして、そのレベルは高く、欧米先進国のそれに劣らぬ水準のものが少なくなかった。また、インクルージョン教育への関心は高く、実施の困難さが指摘される知的障害児のインクルージョン教育が確実に進んでいることを感じさせた。

ただ、報告者の50%が韓国、台湾、シンガポールなど経済的に豊かな国の出身者であることを考えれば、今回の発表がアジア地域全体の実態を反映しているとは言い切れない。なぜならば、前記3か国では、知的障害児教育等のサービスに一定の公的資金が充当されており、それが望めない国々とは条件が異なるからである。

実際、アジア連盟会員国の多くでは、その生涯で何らかの教育や訓練を受けられる知的障害者は全体の1~2%であり、圧倒的多数はサービスの対象ではない。そうした問題を解決しようと考案されたプログラムがCBRであるが、今回は報告が少なかった。原因が、知的障害CBR自体にあるのか、または、単に発表が少ないだけなのかは定かではないが、知的障害の特性やアジア諸国の抱える問題を考えれば地域住民を巻き込んだ支援策が講じられるべきであろう。また、教育や訓練技法においても、各国の文化に根ざした、また、安価な方法の発展が必要であると思われる。

(ぬまたちよこ 社団法人日本知的障害福祉連盟)