「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年6月号
列島縦断ネットワーキング【三重】
『ゴールド人材センターみえ』
~障害があってももっと働けるユニバーサルな社会へ~
三重県健康福祉部障害福祉室
三重県を取り巻く就労環境
本県には無認可の小規模作業所が86か所あります。昨年10月に小規模作業所を対象に調査したところ、企業からのバリ取りなどの下請・内職、キーホルダー・さおり織りなどの自主製品の製作・販売、農産物の生産販売、資源ごみ回収が多くを占め、工賃収入は、月額20,000円未満が全体の約94%、月額10,000円未満が全体の約74%を占めており、これでは障害年金2級(約80万円)と併せても到底、経済的に自立した質の高い生活は望めない状況にあることが分かります。このことは、法定の授産施設においても同様の傾向にあります。
一方、県内の有効求人倍率は、全国5位(昨年11月現在)と好調ですが、昨年6月現在の民間企業の障害者雇用率は1.42%(全国平均1.52%)と、全国45位という最低レベルにあります。
人材センター設立の経緯
就労支援事業の国庫補助事業として「施設外授産の活用による就職促進事業」があります。本県も平成16年度、17年度にいくつかの社会福祉法人に声を掛け事業を実施したところ、数名を一般就労に繋げることができました。
この事業を通して分かってきたことは、施設の外に出て職場実習することを強く望む障害者やその家族がおられること、一般就労は難しいが支援をすれば短時間なら働ける障害者がいること、職場実習により障害者が対人的に強くなってきたことです。半面、一般就労できた障害者の定着化が難しく絶えず何らかの支援が必要なこと、実施期間が原則6か月と短いため期間内に一般就労できなかった障害者や家族への精神的なフォローが必要なこと、実施施設の職員が施設外授産指導員として張り付くのは無理があることが課題として浮かび上がってきました。
人材センターの目的
「ゴールド人材センターみえ」(以下、人材センター)は、県の就労支援施策として、これまでの授産施設ではなく、働く意欲があるのに一般就労が困難な障害者のために、本人の希望に応じて雇用によらない臨時的かつ短期的な就業の場を提供することにより、経済的な自立と地域での生きがいのある生活の実現と社会参加を支援することを目的とするものです。
この事業を昨年10月に障害者の就労支援に一定の実績のある社会福祉法人を対象に企画提案コンペを実施したところ、精神障害者施設を運営する社会福祉法人四季の里と身体障害者施設を運営する社会福祉法人伊勢鈴亀会の2法人に委託し、昨年12月4日にオープンしました。
人材センターの事業内容
人材センターの事業は、1.業務の受注、2.障害者の登録、3.業務の紹介(マッチング)、4.受託業務の履行(支援員の同行)、5.分配金の支払い、などです。また、人材センターの活動を評価するため、関係する団体や自治体に人材センター運営協議会のメンバーになっていただき検証しながら行っています。
まず、業務の受注は、事業所・市町・地域住民への広報活動等により周知を図り、事業所訪問や電話による問い合わせから請負い・委託により契約をいただきます。このとき、業務の内容や難易度、納期を確認し、契約金額は最低賃金を意識して交渉するようにしていますが、何分初めてのことなのでシルバー人材センターの単価表を参考にしています。自治体からは公用車の洗車、自動車修理工場からも洗車、農家からはみかんの収穫作業、住民の方からは庭の草刈・引越しの手伝いなどがあり、業務の平均時給は983円となっています。
登録は、2法人が経営する4事業所のいずれかで行い、本人面接により登録します(表1)。授産施設経験者は、作業能力を授産施設等に問い合わせれば、その方の作業能力が分かりますので、すぐに登録できますが、就労経験がなく、授産施設の経験もない方については、ご本人の同意を得たうえで、職業模擬体験を1日4時間で3日間体験していただき、作業能力の評価をしてから登録しています。
表1 登録者等の状況 単位:人、%
障害種別 | 身体障害 | 知的障害 | 精神障害 | 重複障害 | 計 |
---|---|---|---|---|---|
登録者数 | 19 | 16 | 19 | 2 | 56 |
就業者数 | 7 | 10 | 8 | 0 | 25 |
就業延べ人数 | 19 | 133 | 10 | 0 | 162 |
登録延べ日数 | 368 | 967 | 409 | 0 | 1,744 |
就業率 | 5 | 14 | 2 | - | 9 |
注1)登録延べ日数は、日曜、土曜、祝日を含む。
次に業務の紹介(マッチング)については、仕事が入ると電話で登録者に連絡します。希望される仕事がない場合が長期間に及ぶ場合は、希望されていない仕事でも紹介し、その仕事をしてもらうことがあります。また、特定の障害種別に偏ることなく公平に業務を紹介するようにしています。
このようにマッチングが上手くいけば、いよいよ就業ということになりますが、シルバー人材センターと異なる点は、障害者が初めて行くところでパニックになったり、体調不良になったりしたときに適切な支援ができる支援員が同伴することです。基本的には、障害者の方は、決められた時間に作業現場に集合して決められた作業をし、納期までに作業を終えていただくことにしていますが、場合によっては、支援員も一緒に業務を行うことがあります。
「ゴールド人材センターみえ」の概要
(拡大図・テキスト)
人材センターの成果と課題
事業の成果としては、1.精神障害者の方が2名、一般就労することができた、2.2法人の共同事業運営の中で三障害を受け入れられる窓口ができ、登録から就労までのシステムが確立された、3.在宅障害者の就労機会の拡大に繋がった、4.すべての仕事が時給700円以上となるよう交渉した結果、平均時給が983円を達成した、5.県身体障害者総合福祉センターや県立こころの医療センターから草刈・除草や清掃作業の相談があり、19年度に契約できた、6.9件の請負契約をいただいたが、事業所側で安全に配慮した環境を用意していただいたこともあり、事故やクレーム、障害者の体調変化はなかったこと、があげられます。
課題としては、1.登録者の多くが交通手段を持っておらず、送迎が必要なことから支援員の負担が大きく、マンパワーの充実が必要である、2.1日だけの仕事が多く、長期間にわたる仕事の受注ができなかった、3.初対面同士による作業は、慣れるまで時間がかかり作業効率が悪かった、4.1か所の人材センターであったため、全県域をカバーできなかった、5.2法人の情報の共有化をめざしたが、タイムリーな対応が難しく、データベース化する必要がある、6.マッチングが上手くいかず目標の30%を大きく下回った、ことなどがあげられます。
今後の取り組みについて
人材センターの仕事は、需要と供給のバランスで成り立つことから登録者に安定的に仕事を紹介し、希望どおりのマッチングができるよう普及啓発活動や営業活動に取り組んでいく必要があります。当初は、個人による登録を想定していましたが、前述の県総合福祉センターなどの業務量が多い場合に対応するためにはまとまった登録者が必要になることから、今後は、授産施設を運営する法人を対象とした法人登録も検討しています。
平成19年度は、前出の2法人に加え、財団法人三重県知的障害者育成会にも業務を委託しました。これにより全県域をカバーする人材センターとして運営したいと考えています。将来的には、市町が実施主体となり、すべての障害福祉圏域でゴールド人材センターが設立され、障害者の地域生活を支援する「日中活動の場」と「相談支援の窓口」が数多くつくられ、障害者がいろいろなシーンで地域経営の担い手になって働いている三重県を目指したいと思っています。