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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年3月号

市町村から見た平成20年度障害保健福祉関係予算

山口和彦

はじめに

今回の緊急措置と平成20年度予算案は、今後の報酬改訂や抜本的な制度改正に向けてのつなぎという位置づけであり、社会保障予算の伸びを圧縮するという重い制約の下で、厚生労働省が苦労してここに至ったことは容易に想像できる。

しかしながら、制度運用の一端を担う立場からすると、効果に疑問のあるものや肯定的に受け止めきれない点もある。障害者自立支援法の成立から今日まで国が打ち出した施策に、方向性や理念が感じられないという思いの中で目にすることとなった緊急措置と予算案について、市町村の一担当者としての私見を以下に述べさせていただく。

利用者負担の軽減

当事者を中心に利用者負担の軽減を求める声が絶えないことを踏まえれば、更なる負担軽減が図られることは評価に値する。特に、成人の負担上限額の判断の範囲を本人と配偶者のみに戻したことと、児童の軽減対象範囲を拡大したことは妥当な措置といえる。

一方で、これまで「小出し」にされてきた利用者負担の基準に対応してきた立場からすると、繰り返される「見直し」に対する拒絶反応が起こっていることは否めない。また、支給決定等のために導入しているコンピュータのシステム改修が必要になるなど、負担軽減のために新たな負担が生じるという関係をこれ以上繰り返してほしくない、というのが偽りのない心境である。

相談支援事業充実・強化事業

この事業では、障害者施策に関する説明会・相談会の開催や、情報が届いていない人への家庭訪問が想定されていると聞くが、相談窓口の存在すら知らない人や、公の相談窓口の利用をためらう人が相当数あることを念頭においた事業としても打ち出す必要があると思う。

具体的には、相談窓口の所在地や連絡先をあらゆる機会を通じてPRする、当事者同士の相談活動を支援するなどが考えられる。これと合わせて、保育園や学校など地域における育ちや学びの場で相談を受けられる環境づくりにも活用できるとよいと思う。

なお、地域生活支援事業の予算が現状維持に留まったことと、市町村の財政事情が一段と厳しさを増している現状を踏まえると、この事業は相談体制充実のインセンティブとしてはあまり効果を発揮しないのではないだろうか。

相談支援体制の充実は極めて重要な課題であるが、そのためには一般相談への充当財源の拡大とサービス利用計画作成費の在り方の見直しを柱に、抜本的な見直しが必要である。

ケアホームの支援体制強化

入居者の障害程度に応じたケアホームへの助成と、特例的にホームヘルプを利用できる範囲の拡大は、重い障害のある人の地域生活を支援する上で一定の改善につながるといってよいと思う。他方、今回の措置をもってしても、ケアホームの運営は依然として厳しい状況が続くと思われる。収支見通しの厳しさ等を理由とする事業者の参入手控えが基盤整備の遅れを招き、地域生活への移行が進まなかったり、「障害の軽い人から順番に」などということにならないよう、21年度の報酬改訂において更なる単価の引き上げを期待する。

施設外就労等に対する助成

就労移行支援事業と就労継続支援事業における施設外就労や、施設外就労を通じた一般就労に対し助成されるとのことであり、一般就労に向けた実践的な支援を実現する観点から有効活用を期待したい。その際、施設内での作業から施設外就労、一般就労へと向かう過程において、どのようなスキルの習得を目指すのかということを明確にした個別支援の徹底が不可欠であると思う。

この事業は、事業者の取組に対する助成ではあるが、事業者単独では成果を挙げづらいのではないだろうか。たとえば、施設外作業に協力する企業の開拓や、複数の障害福祉事業者が共同して取り組む関係づくり、ハローワークや就労支援センターの協力など地域ぐるみの対応が必要ではないかと思う。

本題からは離れるが、この事業の実施に伴う関係機関の意見調整や推進体制の構築は、地域自立支援協議会の議題としても十分に検討する価値があるのではないだろうか。

地域における施設の拠点機能に着目した事業者への支援

ことさらに「事業者への支援」と言わなければならないあたりに厚生労働省の苦しい立場が透けて見えるネーミングであり、「施設のノウハウを生かした地域づくり推進事業」とでもしたほうが分かりやすいと思うのは筆者だけだろうか。

それはさておき、施設の持つノウハウを地域の機関や団体、個人に伝えることを通じて、「障害のある人を支えるのは障害福祉の専門家だけ」という認識や実態を変えていくことはとても大切だ。たとえば、企業の経営者からは「障害のある人を雇用するためにどんな配慮や工夫が必要なのか分からない。また、障害福祉の施設からどんなサポートが受けられるのか知りたい」という声があるからだ。

この事業は、使い方によっては一度限りの打ち上げ花火に終わってしまう可能性がある。そうならないためには、単に施設の職員が「障害特性について語る」ような研修ではなく、たとえば○○駅周辺の商店街で障害のある人が安心して買い物ができる環境づくりといった取組を、地域ぐるみで継続的に展開していく必要があると思う。この事業には、市民と事業者と行政が協働する関係が不可欠であり、取組のプロセスが地域の財産になると思っている。

(やまぐちかずひこ 埼玉県東松山市)