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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年12月号

〈教育から就労へ〉
都立南大沢学園特別支援学校の取り組み

市村たづ子

1 南大沢学園特別支援学校の概要

東京都立南大沢学園特別支援学校は、知肢併置校の多摩養護学校から分離する形で平成8年に多摩市と稲城市、八王子市と町田市の一部を学区域に含んで小学部と中学部、類型化を取り入れた高等部普通科の知的障害単独の学校として開校した。さらに、全都を対象とし、全員就労を目指す職業学科である高等部産業技術科を併設した大規模校である。

多摩ニュータウンのほぼ中央に位置し、駅前のアウトレット等の商業施設と整備された街並み、そして豊かな自然環境の中にある。

開校して13年、地域に根ざし、地域と共に育つ学校を目指してきた本校の連携状況は図1の通りである。

図1 連携図
図1 連携図拡大図・テキスト

2 学校間連携

(1)「東京都知的障害特別支援学校就業促進研究協議会」

東京都の特色である「東京都知的障害特別支援学校就業促進研究協議会」は、平成11・12年度に東京都が文部科学省より養護学校の就業促進に関する調査研究の委嘱を受けた際に進路担当の全体会として組織されたものである。

都内26校の生徒の就業促進と進路指導の充実を目的とし、さまざまな活動を行ってきた。

○6ブロックとシステム化された体制

全都を6ブロック(区部・多摩地区各3ブロック)に分け、事務局校を中心とした体制を作り、事務局→ブロック幹事校(6ブロック)→各学校のシステムを構築することで、生徒の希望職種の把握とタイムリーな企業情報提供が可能になり、表1のように就業率が向上した。

表1 都立知的障害特別支援学校就労状況

    15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 20年度
東京都 就業者/総数 224/795 237/785 298/903 308/955 314/891 368/918
就業率(%) 28.1 39.2 33.0 32.3 35.2 40.1
全国 就業率(%) 23.2 23.2 25.3 25.8 27.1  

東京都特別支援教育推進室 資料

○企業セミナーと合同職場開拓

東京労働局・ハローワークと連携し、学校(生徒)とインターンシップの理解啓発のための企業セミナーを毎年実施した。

また、職場開拓用のパンフレットと理解啓発ビデオも作成し、新たな雇用拡大を目指し大手企業等の合同職場開拓も行った。

○企業窓口と職域開発(企業支援)

各校からインターンシップや実習依頼を受ける企業人事担当の業務軽減と生徒の希望のマッチングのために大企業や特例子会社には窓口校を設け、人事担当と調整を図り、各校へ情報提供するシステムをとっている。

また、初めて障害者を受け入れる企業には、職場に入り、職域開発や実習の付き添い、社内理解啓発のプレゼンも行っている。

○専門研修

進路指導の充実・進路担当教員のスキルアップ、また担任の進路指導への理解啓発のために、夏季休業中に専門研修を実施している。

(2)「就業促進多摩拡大ブロック会」

企業の少ない多摩地区は、早くから障害種別を超えた学校間連携を進めてきた。企業に限らず、福祉機関にも窓口校を設け、インターンシップから進路先一覧まで公開している。

会議は、障害者職業センターで行い、センターとの連携促進の場にもなっている。

(3)「多摩南部ブロック会」

本校は多摩南部ブロック4校の幹事校である。インターンシップや実習、進路指導等の情報交換や事例検討等をほぼ毎月行っている。

3 地域関係機関との連携

(1)在学中に支援者との出会い

就業生活の安定と自立には関係機関と連携した長期的な支援が求められる。学校はおおむね卒業後3年間をアフターフォロー期間としているため、本校では、在学中から生徒と支援者の顔合わせをする機会を設定し、お互いに安心できる取り組みをしている。

(2)「移行支援計画」作成・活用

平成17年度より、都立知的障害特別支援学校では、高等部卒業時点で、社会へのスムーズな移行をネットワークで支えるため「個別移行支援計画」を全員に作成している。一人ひとりの就業生活における希望実現のために必要な支援を必要な関係機関が役割分担するためのツールである。図2は本人を中心としたネットワークのイメージであり、本人の希望や家庭状況の変化、地域社会資源の状況により変化していくものである。

図2 卒業後の支援ネットワーク
図2 卒業後の支援ネットワーク拡大図・テキスト

(3)教育活動における連携

高等部普通科のビルクリーニング班と産業技術科のクリーンサービス班は、地域貢献と実際の現場を学ぶ場として、1年生の段階から近隣の施設(保育園・郵便局・大学等)で清掃活動を行っている。保育園児やお客さん、大学生がいる状況の中で、安全面での配慮やコミュニケーションスキル、社会性等多くのことを学べる大事な学習の場になっている。

3年前から、通学に利用している京王バスの清掃も行っている。一生懸命清掃する姿が評価され、生徒の写真入りの広告が全車両に掲載され感謝状もいただいた。また、防災訓練の日や学校公開、入学相談等、保護者や外部者が多く来校する時には、添乗員付きのバスの増発便の協力もいただいている。

さらに、八王子市公園課と連携して、公園の管理も行っている。市長との協定書を結ぶことで、仕事への責任感をしっかり学んでいる。

(4)職場開拓・就労支援の連携

職場開拓や就職に関しては、求職登録や定着支援の専門援助部門、学卒担当の授業講師派遣などハローワークと密接な連携をしている。雇用指導官は企業訪問時に進路パンフレットを持参し、インターンシップや学校の理解啓発に協力してくれている。

また、3年次には、地域の就労支援機関と実習中に合同訪問し、職場環境の把握等、企業・本人・支援者の大きな安心につながっている。

4 「多摩南部就業支援連絡会」

(1)設立経緯

平成12年9月に発足した「東京都知的障害養護学校就業促進研究協議会」(前述)の下部組織である「多摩南部ブロック会」(前述)が地域ネットワークの構築を目指したことが設立の発端である。最初は「拡大会議」として位置づけていたが、参加メンバーが増えたこともあり、平成17年に「多摩南部就業支援連絡会」として独立させた。

(2)目的

多摩南部地域の5市(八王子市・町田市・多摩市・稲城市・日野市)在住の障害者の就労支援と生活支援、雇用企業支援の両面をネットワークで支えることを目的としている。

(3)メンバー

初めは、学校・5市福祉課・ハローワーク・障害者職業センター多摩支所・通勤寮でスタートした小さな会であった。しかし年度ごとにテーマや目標を絞り込み、さらに発達障害・社会的トラブル等、障害者を支える支援者として必要な研修を盛り込むことで、講師や関わった方々がそのままメンバーになることも多く、企業・医療機関・ニート支援のNPOを含め、現在は30機関にまで増えている。異動があっても必ず次の人に引き継がれ、設立以来、メンバーが減ることはなかった。

活動内容は表2の通りである。

表2 多摩南部就業支援連絡会の歩み

平成
12年
☆9/16:第1回 多摩南部ブロック事務局会開催
電機神奈川福祉センター見学 ○会場:ハローワーク
13 レインボーワーク(練馬)講演会、国立リハビリテーションセンター見学
14 スキップ(世田谷)講演会、けやきの杜見学
15 障害者職業総合センター・電機神奈川福祉センター講演会 ○会場:職業センター
16 企業・新座市役所実習の講演会
☆地域ネットワーク「多摩南部就業支援連絡会」と名称変更し、組織化
17 企業・発達障害者の就労支援(大学教授)の講演会、レポート研究
18 知的障害者の社会的トラブルの実態(法科大学院教授)講演会、事例研究
☆企業・医療機関・NPO(ニート)が参加し、27機関になる ○会場:南大沢学園
19 企業見学会(2回) 第1回企業セミナー(会場:首都大学東京)
精神障害者の就労支援の実際(精神科)講演会
メーリングリストの活用
20 神奈川医療少年院見学、第2回企業セミナー(会場:明星大学)
☆栽判員制度他(弁護士)、障害者就労支援行動宣言(都福祉保健局)講演会
21 八王子少年院・桜丘記念病院見学、第3回企叢セミナー(会場:明星大学)

(4)取り組み内容

発足当時、区部には就労・生活支援機関は設立されていたが、残念ながら多摩南部5市には設立されていなかった。障害者の就業促進と就業生活の安定と企業が安心して雇用できるようにと、目標を「就労・生活支援機関」の設立とし、先駆的な実践に取り組んでいる機関の見学や講師を招聘しての講演会を重ね、重要性と必要性を共通確認した。

次に、市役所実習の実現を目指し、これも先駆的な実践の情報提供をした。

(5)企業セミナー

企業セミナーを開催して3年になる。地域関係機関の素人セミナーは、雇用よりは、「企業人事担当支援」という新しい発想の参加型セミナーを目指した。

年齢や役職に関係なく、自由な発想で活動できるようにと、本会には会則も会費もない。セミナーに関しても会場費・講師謝礼、さらにはセミナーチラシの郵送費もない。お金はないが、多摩南部には熱意のある支援機関と人材、そしてネットワークと知恵がある。3か所のハローワークが管内企業にチラシを発送し、大学の連携推進室から会場を無償で借り、講師もボランティア参加ということで、無料のセミナーが可能になっている。

(6)成果

2年前より、メーリングリストを活用している。情報提供はもちろん、各担当者間の打ち合わせ等さまざまに有効活用している。

今年度の特色として、若い女性が増えたが、積極的な言動の相乗効果でセミナーも例会も実りの多いものであった。さらに、フォーマルな会議とインフォーマルな会議を時間と場所で使い分けることで、障害者のための支援を共通理念とした市や、役職の枠を超えたフットワークの軽い電話1本で動く実践的なネットワークとなっている。

5 まとめ

(1)「南大沢学園特別支援学校」から「南大沢学園」へ

来年4月に、軽度の生徒を対象とした100人規模の「南大沢学園」が開校し、平成24年3月に卒業生を送り出した時点で「南大沢学園特別支援学校」は閉校となる。全都が学区域で、なおかつ知的障害が軽い生徒が100人ということでは、就労支援・定着支援のための新たなネットワークが必要となる。

(2)今後の展開

「多摩南部就業支援連絡会」は就業と生活支援が中心の広域ネットワークであるが、ライフステージを見据えたネットワークへの発展を考えている。地域密着型のネットワークとの両方が構築されれば、必要な支援をタイムリーに提供することが可能になり、障害をもっていても本人も保護者も安心して地域で暮らすことが可能になるのではないだろうか。

(いちむらたづこ 東京都立南大沢学園開設準備室)