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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年12月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

共生社会実現に向けた教育プロジェクトの取り組み
―学生と地域との協働による人権尊重の推進へ―

明治学院大学社会学部 教育プロジェクト推進室

1 はじめに~「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」の取り組み概要

明治学院大学社会学部では、文部科学省の2005年度「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」の公募に、「都市部における地域社会の活性化への取組/共生社会実現への教育支援と障害者雇用」のプログラムを申請し、「地域活性化への貢献(地元密着型)」の分野で採択されました。そして、2007年度までの3年間にわたり、大学における障害者雇用を通じて、学生・教職員、地域に居住する障害者、地域住民・諸団体との交流を図ることに特徴を持たせて活動を展開してきました。同時に、大学教育機能とも有機的に結び付き、学生の活動を軸として、共生社会実現への具体的な展開を試みてきました。

本プロジェクトの目的は、大学教育におけるキャリア形成の過程で、障害のある人や障害のある人を取り巻く環境の理解を助長しながら、本学の教育理念である「他者への貢献(Do for Others)」を体言できる人材育成を目指すものです。私たち一人ひとりの参加と意識の向上の基に実現される社会が「共生社会」であると考え、学生にとって身近な課題である「雇用」に着目し、「障害者雇用」を通して「共生社会」の理解を深める道筋としました。本プロジェクトは学生にとって「他者(Others)」への認識を促し、いかに向き合うかを発見する機会ともなっています。

具体的な展開方法としては、図1のように、1.社会学部カリキュラムの充実(「共生社会の理解:講義科目」「インターンシップ:実習科目」の開講)、2.学生プロジェクトチームの組織化と活動展開(複数学部生によるチームを原動力として、学内・地域関係機関との連携のもと障害者の雇用の推進に向けたノウハウの蓄積、啓発活動の展開を担う)、3.学内および地域への障害者雇用推進への啓発活動(同大学教育におけるキャリア形成過程で、地域社会活性化に柔軟に貢献できる人材育成)の柱で構成されています。

図1 2005年度~2007年度の取組
都市部における地域社会活性化への取組
共生社会実現への教育支援と障害者雇用
図1 2005年度~2007年度の取組拡大図・テキスト

2 活動の経緯

2005年度はプロジェクトの意識・基礎作りの段階で、プログラムの理解を促進していくために障害者雇用を推進している企業を招き、公開講演会を通し広く啓発を行い、教職員や学生の自主的活動及びインターンシップ先の企業開拓への導入としました。

2006年度は準備段階から仕組みづくりへと移行を進め、カリキュラムの導入や学生プロジェクトの組織化、地域連携システムの構築の基礎としました。

2007年度は、これまでの活動の推進とプログラム継続に向けての評価と計画検討を行う意味で総括を行ってきました。

本プロジェクトの3つの柱について、活動の経緯を紹介します。

1)カリキュラムにおける展開

2006年度より、講義科目「共生社会の理解」と、実習科目「インターンシップ」を開講しました。「共生社会の理解」では、「障害者雇用・就業」をテーマとして、共生社会とは何か、その実現にとってなされる「協働」とは何かについて、関心を深めることをねらいとし、企業関係者、雇用支援の関係者、障害当事者等の講師から学びを提供していただきました。学生は次の「インターンシップ」で、障害者雇用を推進する企業でのインターンシップを体験し、現場体験から企業の視点に立った障害者雇用のあり方を学びます。これは、学生自身のキャリア形成への実践的な学びの場ともなっています。

2)学生プロジェクトチームの活動

2005年度から始まった学生プロジェクトチームの活動は、4つのチーム(学生がジョブサポーターとして具体的に学内雇用を推進していくチーム、地域全体で障害者雇用を支える街づくりを目指すチーム、福祉作業所等で作られたクッキーやパンの販売に関わるチーム、障害者雇用を推進している企業を研究するチーム)が、現代GPプロジェクト推進の大きな原動力となりました。学部を超えた学生の主体的な活動が、地域住民・行政・企業等との対話や交流を生み出し、学内と地域社会を活動の拠点としてプロジェクトを進めてきました。

3)学内および地域への障害者雇用推進への啓発活動

学内における障害者雇用の推進については、本誌2008年2月号に本学図書館を中心とした障害者雇用の取り組みが掲載されていますので、そちらをご覧ください。

2006年度から地域住民や一般学生を対象に開催している「ジョブサポーター養成講座」では、学内にとどまらず、地域で働く障害者を「一般市民」として支援できる人材を育成しています。この講座は、「基礎コース」と「実践コース」を設け、「基礎コース」の理論編では、2日間のカリキュラムを設定し、基礎コースを修了した人は、「実践コース」としてジョブサポーター実習に進みます。この時期に、学内の事務部署を中心に、地域に住む障害者の就業体験実習を受け入れ、ジョブサポーターは、その実習生をサポートしていきます。これは、ジョブサポーターとして実際に障害者の就労の場に関わることで、基礎コースでの学びを体得してもらうと同時に、ナチュラルサポートができる「人材育成」や「共生社会の醸成」の視点からも包括的に進めていくことをねらいとしています。

3 現代GPから社会学部教育プロジェクトへ、そして今後へ

2008年度からは、図2のように大学の教育プロジェクト支援制度による支援を受け、これまでの活動を踏襲し、「共生社会実現に向けた教育プロジェクト―学生と地域との協働による人権尊重の推進へ―」をテーマに、「障害者雇用」に限らず、外国籍の住民、女性、ホームレス状態の方などを取り巻く問題にも触れるなど、より広く「共生社会」を実現するための拠点づくりに取り組んでいます。具体的な展開方法はこれまでと同様ですが、現代GP推進室が担ってきた地域連携の窓口を学内の地域連携推進室が担い、社会学部教育プロジェクトと協力しながら推進しています。

図2 2008年度社会学部教育プロジェクト
図2 2008年度社会学部教育プロジェクト拡大図・テキスト

2009年度は図3のように少しずつ変化していますが、2の1)では、多様化する共生社会の理解に合わせた取り組みとなっています。2)では、地域団体と学生との協働で新たな活動が始まっています。3)では、うれしいことに、ジョブサポーター養成講座を戸塚キャンパスがある該当市が関心を持ち、2009年11月から類似のプログラムがスタートしました。さらに地元大学では、図書館において障害者雇用の展開を構想するまでになったことは、私たちが願っていたこととして一つの成果といえます。

図3 2009年度社会学部教育プロジェクト
図3 2009年度社会学部教育プロジェクト拡大図・テキスト

また地域住民と学生との合同による報告会の開催や、大学近辺で障害者雇用を推進している企業での体験実習がカリキュラムに加わるなど、社会学部が掲げる「現場主義」の教育に地域との連携をいっそう深めながら取り組んでいます。

今後も本事業を継続するにあたり、学内外から得た情報や意見をさらなる発展に役立て、拡大させていく予定です。教育機関である大学の役割、学生の役割を果たしながら、共生社会実現への教育支援と地域連携で築く障害者雇用との協働による人権尊重の推進を、具体的な形で広げていきたいと思います。

※「障害者」の表記は、法律用語の表記に統一しました。