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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年1月号

ほんの森

障害者の福祉的就労の現状と展望
―働く権利と機会の拡大に向けて―

松井亮輔・岩田克彦編著

評者 関宏之

中央法規
〒151―0053
東京都渋谷区代々木2―27―4
定価(本体3,000円+税)
TEL 03―3379―3861
FAX 03―5358―3719

「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」(2011.8.30.)の〈3.3―労働と雇用〉において「障害者雇用促進法に関連する4項目、それ以外の法律に関連する5項目」の表題が提示された。本書は、その意図や行間を丁寧に埋める書籍である。「福祉的就労分野における労働法適用に関する研究会」による報告書(2009.11.)に加えてわが国の課題に論及した第2編が加筆され、その第6章、7章は2人の編者がそれぞれに論理的な背景や言及すべき命題を明らかにされている。

忘れてならないことは、「障害者総合福祉法」は、自立支援法の対案を示すものではなく、障害のある人たちのあるべき「生き方」に関する地平を提起するという点である。ならば、「障害者」を所与の存在としてではなく、自らの意思に基づいて社会制度を取捨選択したり、制度との距離を調整しながらここに生きている主体者だという前提のもとに、「ノーマライゼーション」「ICF」「包摂社会」「障害者の権利宣言」に連なる実践原理を具現化することであり、〈労働・雇用〉に関して言えば、本書の副題にある「働く権利と機会の拡大」を標榜しながら、「福祉から雇用へ」ではなく「雇用から福祉」を実現することにあろう。

厚生労働省(2008)は、障害者総数約709万人のうち18~64歳の人が約360万人と見込まれ、うち企業就労者は約50万人(約14%)、授産施設等で働く者が約18万人(約5%)であるという。この数字は稼働年齢にある障害者の20%に過ぎず、それ以外の人たちの生活状況に言及されることはない。最近の被保護世帯数では、障害者・傷病者世帯のおよそ50万世帯が受給しているという数値も気になる。当事者の調査(みんなの会 2008)によれば、低賃金を理由に離転職を繰り返す人も多く、障害基礎年金を受給できない人たちはワーキングプア状態である。「人はただ働けばいい」のではない。

わが国では、労働省による〈企業就労できる人のための施策〉と厚生省による〈企業就労が難しい人のための施策〉という就業環境を定着させてきた。「厚生労働省」の誕生を期に、「障害者就業・生活支援センター」などの就労支援施策や自立支援法が施行されたが、この似て非なる両制度は、交わることなくさまざまな矛盾を露呈させている。

本書によって、諸外国の財源・制度設計との落差が明らかにされた。時宜を得た書籍であり、執筆者・編者に敬意を表する。編者の一人である岩田さんは旧知の間柄であり、松井先生はこの領域の第一人者として折に触れて教えを乞う師である。居住まいを正して読ませていただいた。

(せきひろゆき 広島国際大学教授)